年末の北川さん
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いいたします。最近、北川さんはどんな感じでしょうか。
- 北川
- よろしくお願いします。最近は努力クラブの年内の稽古が終わって、依頼を受けている映像の編集の作業をしようとしています。年末年始にしかやる時間がないので。写真とかもそうですけど、時間をかければかけるほどいいものができるのでどこで諦めるかですね。
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- 大変ですね。
- 北川
- 迷路に迷い込んじゃいますよね。これで良くなってるかどうかわからなくなってしまう。
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- どこで諦めるかが大事ですね。
努力クラブ 第14回公演「救うか殺すかしてくれ」
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- 努力クラブの次回公演「救うか殺すかしてくれ」。タイトルからして面白そうですが、どんな作品になりそうでしょうか。
- 北川
- すごく面白くなると思っています。僕は元々努力クラブが好きで、初めて出演させていただいた「どこにも行きたくないしここにもいたくない」は合田さんの一連の作品の中でも一つの集大成的な作品だったんじゃないかなと思っていて。今回はそれとはまた別の、ちょっと初期の努力クラブの香りがする作品なんです。キャスティングも面白いので、個人的にもすごく楽しみですね。
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- 中年男性の恋の話ということですが。
- 北川
- 西さんが中心の、西さんがひたすら舞台上にいるんです。面白いんですけどすごく悲しくて。これは他の人には出来ないなあと。
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- 合田さんは、芝居のアフタートークで西さんのことを鉄板ネタとして必ず話すぐらい好きですもんね。
- 北川
- 西さんを中心に据えた努力クラブの作品は今までたくさんありましたが、今回は特にむき出しだなあと思います。
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- イライラするな。
- 北川
- (笑う)
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- 西さんのことを一番わかってるのは私だと思ってるから。
- 北川
- それは、みんなそう思いたいところがあるかもしれませんね。
努力クラブ第14回公演 KAVC FLAG COMPANY 2020-2021 参加「救うか殺すかしてくれ」
出演= 浅野有紀 大石英史 海沼未羽 北川啓太 佐々木峻一 重実紗果 西マサト 福井菜月 御厨亮 一人の中年男性がいます。自分の人生を呪っている珍しくないタイプの中年男性です。彼は恋をして、恋をしているという状態に陥ります。また彼は恋をしてしまいました。なぜなら恋というものにまだ諦めがついていないからです。そして彼は間違いを繰り返します。そのうちきっと彼には報いが訪れることでしょう。 正しいオッサンになれる自信がない。今のところ、自分のオッサン性を上手に育めている気がしない。このままいけばよくないオッサンになってしまうだろう。嫌だ。ただ、正しいオッサンとはなにか、という疑問もある。オッサン像における正しさとは。 自分の将来を考えたときに、華やかなものは想像できなかった。まったく輝かしくない。一切の光がない。無明。唾棄すべきような未来が僕には待ち受けている。でも、それはそれでいいんじゃないか。そんな人生でしか拾えない真に迫った愉悦さや気楽さがあるのではないか、と思って、願って、そういうのを芝居にしようと思いました。 たぶん芝居はスルスル面白いものが作れるだろうけれどものすごく迷っています、人生に。 会場=神戸アートビレッジセンターKAVCホール 日時= 2021年1月22日(金)-24日(日):全5回公演 22日(金) 19:30★① 23日(土) 14:00★②/19:30★③ 24日(日)11:00/15:00 ★①終演後アフタートークゲスト:多田淳之介氏(東京デスロック/演出家) ★②終演後アフタートークゲスト:渋革まろん氏(劇評家) ★③終演後アフタートークゲスト:依田那美紀氏(『生活の批評誌』編集長) スタッフ= 作、演出:合田団地 舞台監督:長峯巧弥 舞台美術:松本謙一郎 照明:渡辺佳奈 音響プラン=森永恭代/林実菜 イラスト:きんにく デザイン:午睡舎 制作:築地静香 応援:若旦那家康(コトリ会議) 企画・製作:努力クラブ 共催:神戸アートビレッジセンター(指定管理者:公益財団法人 神戸市民文化振興財団)
刺さり方
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- 今回の北川さんの稽古場でのテーマがあれば教えて下さい。
- 北川
- 今回は西さんと西さんに関わる女性たちが中心で、僕はアシストする役割なのかなと思っていて。最近よく思ってることなんですけど、作品の中での役割をちゃんと果たしたいなと思っています。合田さんはこのシーンをどう見せたいのかを自分なりに理解した上で、いい感じのパスを出せればいいなと思ってます。
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- チームワークですね。ところで努力クラブの稽古場ってテンションが低い感じがするんですがどうですか?
- 北川
- いえ、意外と元気ですよ。すごく盛り上がりはしないんですけど、和やかです。割と前から知っている人達同士が多いからかもしれないですけど、雑談もあって楽しげですよ。
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- 内容の暗いとか明るいとかはともかく、そんな感じなんですね。そういえばTwitterに稽古の写真を投稿されてますよね。和やかな雰囲気でしたね。
- 北川
- ありがとうございます。演劇関係者の方で、写真の需要がありましたらお声掛けいただければと思います。
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- 「救うか殺すかしてくれ」というタイトルが素晴らしいですよね。中年男性のみならずほぼ全世代の人間が抱える恋愛のジレンマ。
- 北川
- 合田さん、いいタイトルつけるなあと思います。
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- 恋愛を持たない人もいますけどね。
- 北川
- 刺さる人にはすごい刺さり方をすると思います。努力クラブを観た後特有のしんどさ、今回はより強いんじゃないかなと。
断絶と熟成
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- 思い出に残る今年の出演作を教えてください。
- 北川
- 今年となると、下鴨車窓の散乱マリン ですね。めちゃくちゃ楽しかったです。1月の京都公演の時はこういう状況になると思ってもいなくて、僕の方も出演予定の舞台が飛んでいってしまったんですけど。
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- 散乱マリン、面白かったです。
- 北川
- 1月の上演をスタートに広島・三重で公演をする予定だったんです。それが中止になって11月の公演の直前に稽古をして本番、という全然経験したことのない流れだったんです。その間僕は何をしていたわけでもなかったんですが、いざ稽古してみると作品への見方とか演じ方とかが変わっていて。たぶん他の役者さんもそうで。結果それがすごく良い方向に出てたと思います。
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- そうなんですね。
- 北川
- 単純に期間を置くだけですごく変わる。その経験は面白かったです。演劇に限らないかもしれないですけど、少し時間を置いて再開すると意外と新しい発見があるんですよね。それが集団で作る芝居でも起こるんだなぁと思って。
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- 例えば技術が熟成したり別の見方ができるようになったり。
- 北川
- 技術的な成長として、連続してずっとやっていると伸びはするけど成長のペースは落ちてくる。期間を置いて改めて始めると前には全然できなかったものが簡単にブレイクスルーする。一度離れたりすることで俯瞰できるようになったりするのかなと思います。
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- 期間を置くことによって生まれるメリットを(仮説ですが)二種類に分けてみましょう。新しい観点が得られるのは物理的な変化ですよね。期間という物理的な断絶によって記憶と意識が分かたれ、新しい視点が得やすくなる。次の技術の熟成はもっと内部的で論理的な変化。技術の向上は精神的なものに左右されるから、休眠期間に良い方向に変容するのかもしれない。
- 北川
- どちらにしても、期間が置かれる事で流れを断ち切ることができる。観点の事でいうなら、それまでの文脈が無くなったり薄くなったりしたところでもう一度見ると新しい発見が得られる。前のことも思い出してさらに新しい視座も生まれる。昔全然わからなかったことが今は簡単に腑に落ちる、そんなこともありますね。あの体験って気持ちいいですよね。
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- 最初のスタート地点に戻って認識をやり直せるんですよね。次に技術的な熟成の話ですが、私も役者やってた頃に半年休んでて。次にもう一度お芝居をやった時にすごく冷静に演技に向き合えたような気がしたんですよね。
- 北川
- 分かります。大学在学中は基本的に切れ間なく出演していたんですが、就職して1、2年は年に1、2本しか出なかったんですよ。だいぶペースを落としていました。仕事を辞めて暇ができたらまたペースを上げるようにしたら、ちょっと芝居に関しての視点が増えてるような気がしたんですよね。
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- やっぱり何もやっていない間でも少しずつ変わっているかもしれませんね。
- 北川
- その渦中にいる時には自分で流れを断ち切るのはなかなか難しいですけどね。思考とか体の流れを断ち切ると新しいところから入れる。別の切り口を見つけ出すというのはすごく難しい。
下鴨車窓『散乱マリン』
1月京都/11月広島、三重にて上演。
笑いについて
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- 北川さんがお芝居を始めたのはいつからですか?
- 北川
- 一度京大に入って2年通って中退して、もう一度同じ大学に入り直したんです。2回目の入学のタイミングで劇団愉快犯に入りました。それまでは文化祭とかで芝居に出たりはしていましたが、本格的に始めたのはそこです。
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- なぜ愉快犯に入ろうと思ったんですか?
- 北川
- 当時役者にしか興味がなくて。演技がしたいと思っていました。ケッペキは人数が多くて、愉快犯ならまだ人数も少ないのでずっと役者がやれるなと思って。コメディを中心にやっていく劇団だったのでそれもあって。
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- 北川さんの一人コントは面白すぎますよね。寮食での欣也さんのプロデュース芝居と、安住の地でも拝見したんですがめちゃくちゃ面白かったです。
- 北川
- 嬉しいです。ありがとうございます。最近はああいうのあんまりないんですけど学生の頃はよくやってました。いくつかチェックポイントは作ってるんですが、結構即興というかその時の体の流れに任せています。だから毎回変わってますね。そこが自分の個性というか課題でもあるんですけど、結構不安定ではあります。笑いを取るためのシーンだと良い方向に出ることもあるんですけど。
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- 笑う為のシーンでギャグが完璧に決まっても、お客さんは笑わないこともありますよね。なんでそんな不確実性があるんだろう。サイコロの出目みたいに。
- 北川
- 役者のキャラクターやノリで笑わせるのは水物なのかも。その日のお客さんによっては笑わないとか、役者のコンディションにもよるし、その時たまたま出た声で笑ったりとかもありますし。演じる側としては、カイジでいう456賽を持っておきたいですね。
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- 123の目がないサイコロですね。
- 北川
- 少なくとも4は出ると言う。本当はピンゾロ賽がいいですけど。
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- というか、前提としてそこまでに至るシーンにもよりますね。
- 北川
- そうですね。お芝居は一発目の笑いがどこで起きるかも大切ですね。
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- 本当ですね。上演開始から20分経って笑いが起きるというのは少し遅いのかもしれない。もちろんお客さんは楽しんでもらってるんですが、笑いはまた別の話ですから。笑い声はお客さん側に許されたアクションですし、その攻防はまたちょっと違う。
- 北川
- 実は僕は、役者や演出が意図していないところで笑う癖があって。
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- 分かります。何らかのズレがある表現はとても愛おしいですよね。
- 北川
- 笑っていいかどうかっていうのはすごく難しいんですけど、そのズレも飲み込んで芝居が成立している時もあって、すごくいいなと思います。
質問 帰山玲子さんから北川啓太さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、ダンサーの帰山玲子さんから質問を頂いております。「あなたにとって物語とは何ですか?」
- 北川
- 人は、物語に対して意味や距離を自由に決められるんですよね。何か教訓を探し出してもいいし、没入してただただ共感してもいい。結局お客さんの頭の中って決められないものだな、と。物語というのはただそこにあって、それを見た人の頭の中に何が生まれるか。そこがきっと本質だと思っています。外からの刺激がないと人は何かを感じたり考えたりすることは難しい。その手段の一つとして物語がある。人を映す鏡とは違う、キッカケとしての種火だと思います。
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- お客さんが物語をどう受け取るかというのをコントロールすることはできない。けれども、きっと何か刺激として受け取ってはいるだろうしそう祈りたい。
- 北川
- 物語というのは独立して存在してはいないんですよね。演じる人と見る人がいて初めて成立する。
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- その物語が何でなければならないということもないですしね。常に愛情や正義を唱えている必要はないし政治的に正しい必要もない。
- 北川
- 凄いですよね。見た人の中になるべく大きな波を立てることのできる物語を立ち上げられたらいいなと思ってます。
「いま」
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- 演じている時に何を考えていますか?
- 北川
- 本番の時は客席の反応、稽古の時は相手役の役者の状態と自分の状態を考えています。毎回の台詞の間や状態を見る、自分の体の状態を意識しています。
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- 緊張してるかどうかとか。
- 北川
- それが一番大きいですね。このシーンは緊張している方がいいのか、今は弛緩していてもいいけど、次のシーンのためにどう緊張していくか。とかですね。
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- 新型コロナウイルス感染対策を認識せざるを得ない状況ですが、お芝居に出演するにあたってどのような折り合いをつけていますか?
- 北川
- いま演劇活動することの意味とか、世間の目と自分の価値観との折り合いをどうつけるべきか・・・というのはまだわからないですね。そこは多分、終わってからじゃないと分からない。出演してよかったなと思うかもしれないし、危ないことをしていたなと思うかもしれません。
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- そうですよね。
- 北川
- 自分の中で納得する理屈というのはまだ正直見えていません。目の前の感染症対策はやるんですけど、今出演することがあとから振り返ってどういう位置づけになるのかまだ全然わかってないです。
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- 良い方向に少しでも転がって行ったらいいですね。
- 北川
- 少なくとも、コロナ後の世界から演劇がなくなるのは凄く良くないと思っています。それを受け入れるのは僕個人としてはもちろん、社会としても良くないなと思っています。
観られる
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- お客さんに見られるのは楽しいですか?
- 北川
- 僕は本番が一番好きなんですよ、そうじゃない方もいるんですけど。舞台上と客席に、かなり一方的ではあるんだけど、それなりにコミュニケーションが生まれたり空間が生まれたりする。それがめちゃくちゃ楽しい。お客さんに見られない芝居は想像できないです。配信する演劇だったら、お客さんの存在が少し意識出来るんですが。
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- 子供鉅人の配信演劇ではお客さんは居なかったですよね。
- 北川
- 難しいと思いました。どこに向かってこの演技を投げればいいのか。映像の俳優さんだと演技を「投げる」って意識はないのかもしれないですけど。その時は同じ部屋にいた音響オペの人の存在に助けられました。その人のリアクションだけに引っ張られるという訳じゃないんですけど。
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- 物語は器。他人の目があることによって物語が生まれるなら、舞台上がリアルな場になるにはやはりリアルな視線が必要なのかもしれませんね。
幻覚の脳科学
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 北川
- ありがとうございます(開ける)。幻覚の脳科学。元々本が好きなんですけど、最近あまり読めていなかったのでありがたいです。