3人の最後の日々
- __
- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、みなさんはどんな感じでしょう。
- 河井
- 最近はバイクにハマってます。今まで興味が無かったんですが、親友の地道元春がバイクがすげー好きで、「バイクに乗れない男とかゴミっすよ」みたいな事言ってて、ハラ立って調べていくうちに僕もハマったんですよ。
- 南風盛
- (以下、南風)私はずっと稽古です。遊びたいんですけど稽古です。もうすぐ一ヶ月前なので、稽古せざるを得ない感じです。
- __
- 藤井さんは。
- 藤井
- 最近、めっちゃ走る練習をしてて。今日が地元の運動会だったんですけど、勝てなかったです。中学生には勝てなかった。長距離走の練習を頑張ってたんですけど、運動会が始まった時に150m走だったと気づいて。
- 河井
- 使う筋肉違うからな。
- 藤井
- ちなみに藤井も陸上部やった。
- 河井
- なんやいな、なんで間違えてんねん。
- 藤井
- 玉入れと綱引きと大縄跳びもしたんですけど、チーム的には成績的には中の下でした。
- 河井
- 一番微妙なオチやな。
京都造形芸術大学 舞台芸術学科
[演技・演出コース][舞台デザインコース]を擁する。
みだしなみ「蝶のやうな私の郷愁」(松田正隆・作)
- __
- 今回は、皆さんの卒業制作に向けてのインタビューという事で。それぞれ、どんな企画なのか教えていただけますでしょうか。
- 南風
- 「みだしなみ」という私の企画団体で、松田正隆さんの「蝶のやうな私の郷愁」を上演します。男女の二人芝居です。舞台芸術学科では、現役でご活躍なさってるアーティストの方々に教鞭をとってもらう授業があって、授業の最後には「授業発表公演」として公演をうつんです。私は主に俳優として参加して、色々な先生から色々な演出を受けました。色々贅沢な時間を過ごしたので、例えば卒業公演でも、先生から受けた演出を自分たちでさらに深化させたり展開させたりする方が、きっと完成度が高いし賢いとも思うんです。でも結局やった事のないのを選んじゃった。でも、それでいいんじゃないかなと思ったんです。私、今回で企画自体は3回目で。自分が出演せず、見るだけ、というのは今回で2回目です。私が役者として出たいな、出ても(自分が)恥ずかしくないな、と思えるものをつくるが理想です。今回は男女二人芝居も、「女役、やりたいな〜」と自分が思えるように、演出しています。
- __
- どんなタッチでしょうか。
- 南風
- 会話劇です。俳優が作品を引張らないといけないやつなので、「どうやったら演技って上手くなるんだ…?」って、俳優二人とずっと演技の事について話し合ってます。
みだしなみ 第3回公演「蝶のやうな私の郷愁」(京都造形芸術大学 卒業制作演劇公演)
作:松田正隆 演出:南風盛もえ 日程: 2015年 11月15日11:30 / 18:00 16日13:30 会場:京都芸術劇場 studio21にて 出演:近藤智子、蜷川敬太
それはさておき「悪戯乞ひて」
- __
- 藤井さんの「それはさておき」はダンスの作品になりそう、との事ですが・・・
- 藤井
- いつも、お客さんに「こう見てほしいな」という事ばかり考えてしまうんですけど、あー手届かんな、みたいな感じをイメージしています。物理的な距離は近いのはずなのに手が届かない。そんなイメージです。なんか、京造に入って思ったんですけど、演出勝ちのダンスが多いなと思って。演出家の力でダンサーになれてる人が多いと思うんですよ。ここは演劇学科なので、ダンスの割合は少ないから当たり前の事かもしれませんけど。
- __
- というと。
- 藤井
- 私は3歳からクラシックバレエしかしてこなかったから、そういう「ダンサーになれる」状況に感動しながらも「そうじゃないだろ」と思ったんです。当初。でもこの4年で、それ以外の分野の踊れる身体にも出会えて。今はそういう状況込みで作品を作りたいと思っています。この京都造形芸術大学に入った自分に勝ちたいです。実は入った事を後悔していて。それは今も。
- 南風
- その話、私たちもちょっとした。この学科には演劇経験が無くても入れるけど、特別な人になれる訳ではない。でも、せっかく4年間の経験があるんだから、卒業公演は特別な人と思われたいよね、そういう作品が出来たらいいよね、って。
- __
- 才能。最初は才能が無くても身につけた人もいるわけじゃないですか。
- 南風
- そうですね。
- __
- 彼らの、その今が見たいと思います。
藤井さち 京都造形芸術学科 舞台芸術学科 卒業制作ダンス公演 それはさておき「悪戯乞ひて」
1部→衣装展示、2部→ダンス公演 日程: 2015年12月 24日(木)1部16:00-17:30 2部18:00 25日(金)1部12:00-13:30 2部14:00 会場:京都造形芸術大学 京都芸術劇場 studio21にて
ルサンチカ「春のめざめ」
- __
- ルサンチカは「春のめざめ」ですね。どんな公演になりそうでしょうか。
- 河井
- 「春のめざめ」、ご存知ですか?これは劇団四季が5、6年前にミュージカルにした作品で、ブロードウェイではトニー賞とかたくさん受賞したんですね。僕はこれを、大学におる間にストレートプレイでやりたいなと思っていて。でも、高校の頃に見た時に思った「やりたい」という気持ちとはもう全然理由が違っていて、でもその違いは信じていいものだなと思ってはいます。やっぱりそれは社会の事だったり、思春期の子供たちの話は今しか出来ないな、というのもあって。卒業前の僕らの今、を考えた作品。いやあ、でも「今」を題材にするなんて大概はそうですよね。
- __
- いや、でもタイムリミットのあるみなさんだからこその今、というのはあるかもしれませんよ。単位が揃ってたらの話ですけど。
- 藤井
- 揃ってますか?
- 河井
- ますよ。お前が言うのそれ。
- __
- 大丈夫なんですね、みんな。良かった。
ルサンチカ 次回公演「春のめざめ」(京都造形芸術大学 卒業制作演劇公演)
作:フランク・ヴェデキント 演出:河井朗 日程: 2015年 12月5日(土)16:00 6日(日)16:00 会場:京都芸術劇場春秋座 [料金]予約/前売り800円 当日1000円 ルサンチカ:主宰 河井朗による演劇ユニット。 近藤千紘が女優。 世間的弱者の鉄筋コンクリート製防御陣地。
これからどうするの
- __
- しかし、アーティストとして一番ノリにノっているであろう時期に卒業をしないといけないってものすごく惜しいですよね。そこから就活しないといけないだとか、創作に振り切るにしても、もう学生の身じゃないから肩身が狭いだとか・・・。みなさんはどうするんですか?
- 南風
- 演劇を続けたいというよりかは、続けよう、って感じですね。演劇じゃなくても楽しい事があればそっちを続けるし。そもそも大学を選ぶ時だって、書道か演劇かしか選択肢が無かったんですが、まあ演劇にして。今も、バイトの方が楽しかったら演劇やめてバイトする(笑う)。無印良品が好きなんですけど、そこが楽しかったら演劇やめて店員さんになると。
- __
- 柔軟ですね。河井さんは?
- 河井
- うーん。なんだろう。どうするかとかの具体的な事はあんまり無くって。でも、今までも演劇を選ばなくても良いタイミングはいくつもあったんです。高校がビジュアルデザイン学科という専門的なところで、だから一応手に職はいくつか持っていてそのまま働きにいくことは出来たんですけど、僕も当時演劇部だったから、演劇を続けたいなと思ってこのまま来ちゃって。これまでも子供鉅人さんとかに関わって、普通に「演劇面白いな」、と。大学時代は小屋入りしていない時期が無かったんですよ。楽しくて楽しくて、演劇無しの生活を当分味わってなくて、そうじゃない生活が想像出来ないですね。言い聞かせみたいなもんですけど。地点の三浦さんと「演劇無しで生きていけるか」みたいな事をしゃべってたんですけど、俺は無理かも。根拠無いですけど。
- __
- 藤井さんは、続ける続けないで言うと?
- 藤井
- 続けないですね。続けられないな、と在学中に思ったんです。自分の中の区切りで、「舞台さよなら」という企画なんです。今回の卒制は。続けるつもりだったら、わざわざ企画はしていなくて。私の場合はその時興味のある事に突き進んでしまうタイプの人間なんで。高校3年の時は一番がダンスだったんですよ。その方向で考えてたんです。今は服飾に興味があります。
進路の先には
- __
- これまでの大学での学びが、どのような形で卒制に生かせると思いますか?
- 南風
- たまーになんですけど、いまだに、バカにされる事があるんですよ。「何で演劇をやるのに大学行ったの?」って。他の大学の演劇部の公演を見に行っても、「ウチのサークルは誰々を輩出しているのに、何で高いお金を払って大学行ったの?」とか。サークルでも演劇は出来るじゃん、卒業後の進路も芸術系は不利じゃん、って。でもこの卒制で「大学を挟んだからこそこの公演が出来たんやで」って言えたらいいです。って、これを大学に入った頃から思っています。2年ぐらい前に、木ノ下歌舞伎の公演に渡邊守章さんが寄せていらっしゃった文章に「木ノ下裕一と杉原邦夫は、大学を卒業したからこそこうした創作を続けている。そういう意味で、彼らの背負っているのものは、彼らが考えているより重い」みたいなことが書いてて。カッコいいなあと思いました。「大学出身」を背負っている2人。あ、社会と作品の関わりとかを考えるのは大学の方が強く学べると思います。
- __
- 背負っているもの、ね。京都で演劇を教えている大学は、ここだけですよね。
- 南風
- 実技だけで行ったらここだけですよね。邦生さんが「演出家が個人的に思っているもの、個人のエゴを、社会の問題としてまで、無理矢理にでも引き上げてしまう能力」について話してたことがあって。「そこまで出来る能力が必要だと思う」、と。カッコいいですね〜。
- __
- 今回の会話劇では、どんな意識で演出をしていますか?
- 南風
- 演技の上で、俳優が実際にそう思っていなくても、見る側にそう見えればOKなんじゃないか、という事を意識して作っています。ウチの学科の演技トレーニングではスタニフラフスキーシステムを使ってて、それを参照してもいいんですけど、でも俳優は深刻なシーンの時に深刻な事を考えていなくてもいいんじゃないかと思う。そこに感情が無くても、技術や状況でその感情であるように見せられるという事が分かってきたし、私はそこに何かがあると思っていて。だから、今回は役者には完全燃焼しないようにしてほしいと思っています。昔は私も、感情がそこに無ければと思っていたんですが。タイミングとかを学んだのは邦夫さんと三浦さんが大きいですね。役柄の気持ちに関わらず、「そのタイミングのその状態」で言った方が良い、みたいな。「言っている」ではなく、「状況に、言わされている」ということもありますからね。
今、今
- __
- 河井さんは、この作品に4年の学びをどのように生かしますか?
- 河井
- 劇団って何だろう、という事を考えた4年でした。僕らはサークルとかに所属して作品を作ってきたんじゃなくて、プロデュースユニットみたいな形で、やりたい人達に声を掛けて作品を作ってきました。僕は、「みんな」で作品を作るということを心がけるようにしてきて、やっぱり演出家だけでは作品は作れない。そういうことを教えてくれたのは照明家の岩村原太さんで、「何で君たちは作品を作るの?」とか、「社会に対してどう思ってるの?」とか、「劇団とは何?」とか。そういった事が僕の作品づくりをする上での基盤になっています。今回の公演では、いつも参加してる地道元春がいないんですよ、ここの学生じゃないんで。「春のめざめ」の登場人物は38人くらいなんですけど、僕らの代の卒制メンバーにそんなに人数がいないんですよ。そうなると今の限られている座組で一体何が出来るのか?したいのか?と。もう僕だけの考えでは作れない。だから限られた集団で作品を作るという事が、今回の作品には生かされるんじゃないかなと思っています。
- __
- 具体的には、どんな作品作り?
- 河井
- みんなそれぞれが持っているしたい事とか、理想とかは全然別でもよくて、ただ目的地は一緒にしたいなあと思っています。稽古場ではみんなで話す事に重点を置いて稽古をしています。まず僕自身がどんな考えを持っているかを話すんですよ。社会の話だとか、僕自身の話だとか、僕からみたあなたの話だとか。で、この作品をみんなで今やる・ルサンチカというユニットが春秋座でやる、というのはどういう意味があるんだろう。それぞれ、やり方が違っていてもいいんですよ。でも、目的地が一緒だと、志が一緒になる。
- __
- それぞれ別々でも、ね。
- 河井
- その方が、劇団もユニットも成立するんじゃないかなあと思うんです。
- __
- 今はどうですか。煮詰まってますか。
- 河井
- 煮詰まってますね。昨日、ピキーンって来たんですけど、稽古場でやってみたら面白くなくって。実は「春のめざめ」という戯曲は100年前に書かれた戯曲なんですが、検閲に合ってるんですよ。棒線で台詞が消されている部分が凄くたくさんあって、ここに台詞があっったはずなのに、今はもう分からないんです。4つぐらい翻訳されている版を見たんですけど、何が書かれていたのか全部は分からない。でも、検閲に遭ったというのが大きな社会的な事件だったんだろう、と。これこそが届かない声、ひいては言論の自由というものに引っかかってくるんじゃないかと思うんですね。子供たちが親とか世界に訴え掛けたいもの。それを構成したいと思っているんですが、今のところは上手くいっていなくて。
- __
- すてきにまとまるといいですね。楽しみにしております。
- 河井
- ありがとうございます。
藤井さんのビッグマウス
- __
- 藤井さんは、大学で学んだ事は活かせそうですか?
- 藤井
- 生かせそうです。というよりは、この大学に入ってたくさん感じた事が絶対に作品の大部分になると思うんですけど。学んだ事を生かせるかと言うと、私は物理的に学べてないので・・・
- 南風
- 演出の授業は無いもんね。
- 藤井
- 本来だったら参加したかったダンスの授業発表公演のあるクラスが午前中だったため、私が物理的に起きれなくて参加出来なくて。あともう一つあったんですが、単位の都合でどうしても履修出来なくて。
- 河井
- それ二つとも自分の問題でしょう(笑う)。
- 南風
- あはは。
- 藤井
- そこに参加出来てたら、学べました生かせますって言えるけど。でも、先生と同期に受けた影響で、高校3年生の時とは170度は違う考え方になってるんです。作品づくりは高校からしていましたが、これまででは絶対出来ない作品になると思います。
- __
- 見所を教えてください。
- 藤井
- いやもう、瞬きせずに見てほしいぐらいなんですよ。いいのかな、こんなに大口叩いちゃって。
- __
- あ、全てが見所なんですね。そういえば、造形大からはダンスコースが無くなったんですよね。
- 河井
- 僕らより下の代からはいないんですよ。演技・演出の科目に含まれる形で。
- 藤井
- だから、私が最後の、学んだものを生かせる最後のチャンスなんですけど・・・
- __
- そこは作品で示して頂きたいですね。
- 藤井
- ハードル上がるなあ。あんまりいじめないでください。
- 河井
- そこは自分のせいじゃん。
- 南風
- あはは。
- __
- どんなテイストの作品ですか?
- 藤井
- なんだコレ?何なんだおまえたちは、みたいな感じです。稽古場でいつも、ダンサーに聞いてます。何なんだおまえたちはって。公演はクリスマスにやるんですけど、ちょっとまあ・・・みんなのサンタさんになろうかな、と。
- 河井
- 俺を見て言うの辞めてくれる?それは、みんなを幸せにしたいとか?
- 藤井
- クリスマスにあやかって男女で成就してんじゃねえよって作品です。おいジャパニーズ!みたいな、ロックな作品です。
- __
- パンクですね。
- 河井
- 彼女はバンドをやってるんですよ。
- 藤井
- ドラムをしているんです。マキシマムザホルモンのコピーバンドだったんです。大学の軽音部に入って、ロックでパンクな作品です。
- 河井
- メルヘンロックな感じかも。
- 藤井
- メリケンファックな感じです。
- __
- それを、クリスマスに?
- 藤井
- イヴもクリスマスもです。殺しにきています。
社会に出る
- __
- 大学時代をインプットの機会と捉えた時に、何を得ましたか?そして、卒業後に何をアウトプットしたいですか?
- 河井
- 僕自身はいま社会と関わっているつもりではあるんですが、僕の母はいま病気で家から出られないんですね。精神疾患で、外から話し声が聞こえると発作を起こしてしまう。演劇を見にだけは外に出られるんですけど。社会が原因で母がこういう事になったと思うと、人に優しく生きていこう、難しいけど、と思うようになりました。それが僕の作品の根幹にあって、こぼれ落ちちゃった人たちへの目の向け方にはよく考えます。でも、アウトプットとインプットってテーマ、難しいね。
- 南風
- こないだ、それ系で後輩と喧嘩したんですよ。その子とは同じWSを受けたんですけど、「学んだ事は何かの形でアウトプット出来ないと絶対にダメだ」と。私は「それは『絶対に』ではない」っていう言い合い。
- 河井
- でもアウトプットって何してもいいからな。何に生かしてもいいし。藤井さんだったら、服飾?
- 藤井
- そうですね。それに尽きますね。
- 南風
- 私はなんだろう。でも、「へ〜」とは思うようになったんです。
- __
- ああ、人の話を聞けるようにはなったんですね。インプットが出来るようになった。
- 南風
- 昔は「これ好き」「これやだ」に直結したんですが、今はまず「へ〜」と思うようになった。ホントかな。どうなんだろう。造形大に来てから、宇宙の本や生物の本に手を伸ばすようになったんですけど、でもイルカと性行為する人の本とか読んで何かアウトプット出来ると思えない・・・
- 河井
- でもそれはそういう人を許容出来るという事じゃない?僕もそうなるまで、「絶歌」読もうとは思えへんかったわ。
- 南風
- この間TVで、赤一色で塗られた絵が紹介されて、この絵はいくらでしょう?って。ゲストが「すばらしいですね〜高いんじゃないですか?」とか「僕にはこの絵の価値がわかります」って、知ったかぶりして、笑いを取るみたいな。で、正解が発表されて、億がついてる絵で、「やっぱりね」「アハハー」ってそれで終わってたんですよ。どういう理由があって、そんな値段がついているのか、には触れないんです。私はその理由が知りたかったんですけど…。演劇やってなければそんな風に思わなかったんですよきっと。
- __
- 前衛芸術の価格。まあもちろん色んな要素があって決まるとは思うんですけど、その時代にそのアーティストが何をどう見つめていたのか、そのもの凄さに価格がつくんだと私は考えています。南風盛さんも結局、その作業に興味があるからそう思われたんじゃないですか?
- 南風
- そうですね。私、稽古場で俳優とかに言っている半分以上が誰かの言葉なんですよ、誰かの喋っている言葉を7割ぐらい借りてて、自分の演劇を語る時は無口になってしまうと思う。
- __
- 無口になっているという事は何かを既に得ているのかもしれませんね。ま、みなさんはあと8年したら30歳になるんですよね。その時、また世界は変わります、きっと。責任というものを持たないといけなくなったり。
- 南風
- あー。
- 河井
- 俺ははよ年取りたいわ。3、40過ぎになりたい。絶対、その世代の方がなんとなく自分というものが見えてくるじゃないですか。きっと確立されて、したらその確立したものを守ったり戦ったりするんだろうなあ、と。面白いんだろうなあと。今は僕は何も確立されていないから、俺は誰と何をしているんだろうなあ、と思う。さっさと自分を見つけてしまいたい。今のいろんな吸収する時間は早く終わりたい。
- 南風
- そうなんや。私は50歳くらいになりたい。自分の需要とかが分かってくる、自分にそばに要るものだけが揃ってきそうな気がする。これも授業で先生に聞いたんですけど、需要と供給が成り立たないと芸術は成り立たないそうなんです。需要が無ければ、演劇なんて発表会に過ぎないと。なるほど、と思いました。だから、私たちがそこに理由を見つけないといけない。自分に需要を見つけて、お客さんの需要を探して。今は不安です。
- __
- 藤井さんは何歳になりたいですか?
- 藤井
- 一番幼稚な意見なんですけど、私、両親の事が好き過ぎて。私は親が40歳の時の子供で。私が40の時、お母さんは結構高い確率でいないんです、それを考えると毎晩、結構ギャン泣き出来るぐらい。私自身は何歳でも楽しいんですけど、親の事だけを考えると、明日そうなってしまうかもしれないと思うと・・・
- __
- 心の柔らかい部分ですし、いますぐ踏ん切りなんて付けられないでしょうね。
- 南風
- 死から十年ぐらい経ったら立ち直るかもしれないけど。
- 河井
- 俺今おかん死んだら作品作れへんと思うわ。リアルに。
- 藤井
- じゃろ?お母さんに「家を出てくわ、あんたの卒制行けん」て言われる夢を見て、泣きすぎて脱水症状起こしたことがあって。顔から色んな液が出たんです。寝てる時ぐらい休めよ自分、と思いました。
共犯性
- __
- 自分たちらしい作品のあり方を教えてください。
- 河井
- ごちゃごちゃしている。
- 南風
- 記憶に残らなくてもいい。
- 藤井
- ダンサーが可哀想。
- 南風
- ?
- 藤井
- 私の作る作品、毎回、私以外の人が可哀想なんですよ。
- __
- ひどい目に合わせるって事ですか?
- 藤井
- 肉体的にも精神的にも。私が出来ない事を押しつけたり。自分にやさしく他人にやさしくが私のモットーなんですけど、作品に関しては他人にだけ厳しいくずなんです。
- __
- では、どんな風に自分の公演を見てもらいたいですか?
- 河井
- 語り合ってほしいというのが大きいです。やっぱり地点の影響が大きいのかもしれませんけど、現在の事を考えるという作品づくりの仕方をずっとしてきたから、お客さんが自分達自身の考え方を聞かせてもらいたいし、それがやっぱり演劇の共犯性だと思うから。共感してもらわなくてもいいんですよ。喋ってもらいたいんです。僕は。
- 南風
- さっき「記憶に残らなくてもいい」と言ったんですけど、それは役者の顔が記憶に残らなくてもいいという意味で、言葉とかが残っている方が絶対良いと思っていて。匿名性と代替性、「誰でもいい誰か」を持って帰ってほしい。共有しづらい感想を抱いて誰とも喋らずに黙って帰ってほしい。
- 藤井
- 私は別に、どう見てもらっても構わないです。そうですね。こう思って貰いたいとかは作品に入れているので、見方は強要したくない。
質問 あごうさとしさんから 皆さんへ
明日朝、わたしたちはどこにいるんだろう
- __
- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?生きるうえでの意気込みを教えてください。
- 河井
- 人に優しくなりたい。願望。
- __
- 今はそんなに優しくない?
- 河井
- 当たりキツいよな。
- 藤井
- ね。優しくない。
- 河井
- 何でお前が言うんやお前の方が優しくないだろ。
- 藤井
- 私はお金持ちになりたい。バイト先には金持ちが多くて、こういう生き方をしたいなと。結局、お金があればこういう余裕があるんだなあ、と。自分は一生出来ないだろうなあみたいな事を話されるんですよ。お金があれば、人生の楽しい事は一定以上は保証されるんだろうなあと思うと、絶対金持ちになってやりたいなと思います。
- __
- なるほど。私は植物系なので分からないなその感性は。
- 河井
- 植物系いいですね。日光には強そう。
- __
- ああ、草食系か。
- 南風
- 植物系、それいいですね。セルフで生きていける。
- __
- 自分で自分の孤独を癒せるとか?
- 南風
- ああ、それいいですね。それ使わせてください。
- 河井
- また人の言葉使った!
梅酒
- __
- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 河井
- うわめっちゃ楽しみやってんコレ。俺、ずっとこのインタビュー読んでるから。何が貰えるか楽しみやってん。
- 南風
- 開けてもいいですか。
- 河井
- あ出た出た。「開けてもいいですか」。俺言ってみたかった。
- __
- ええとですね、今回のプレゼントは特別です。
- 南風
- 毎回やってるけど、今回は特別なんですね。
- __
- 割れ物なのでお気をつけください。
- 南風
- (開ける)
- __
- 藤井さん、警戒していますね。
- 藤井
- タランチュラとか出てきたらどうしようと思って。
- 河井
- お?ピクルス?
- 南風
- お?
- __
- 梅酒です。
- 藤井
- えー!
- 南風
- やった。3人で飲もう。
- __
- なにが特別かと言うと、まずこの梅酒は私が作ったものです。
- 全員
- おぉ。(拍手)
- __
- それにはエピソードがあって。10年以上前、私が田中遊さんの正直者の会に出演させてもらった時、稽古後にスタッフの先輩の方の家で宴会をする事になって。その時に先輩から飲ませて貰った梅酒がなんと10年ものとかで、めちゃくちゃ美味しかったんですよ。それに感動し、2005年6月に漬けたのがこの梅酒です。
- 藤井・南風
- !
- 河井
- えっ。バリ嬉しいんですけど。
- 藤井
- まだウチらが小6のガキんちょだった時に漬けられた?めっちゃ正直に言うと扱いに困る。重い(笑う)。
- 南風
- 確かに(笑う)。
- 河井
- ロッカーで保管せな。
- __
- あと、もうちょっとだけ特別なのは、このプレゼントは今回の卒公に参加する卒業生の方にお贈りしたものです。ですので、お飲みになれるのはその方たちだけです。申し訳ないのですが、たとえ手伝ってもらったからと言って講師の方や後輩の方等には絶対に飲ませないでください。
- 河井
- じゃあ地道飲まれへんわ・・・
- 南風
- 分かりました。絶対に飲ませないです。
- 河井
- 分かりました。僕らの座組の4回生メンバーだけなんですね。ちょっと匂ってみていいですか?
- __
- すみません、今はダメです。
- 河井
- 公演終わってから?
- 南風
- どのタイミングがいいですか?
- __
- それはちょっと難しいな。各公演の打ち上げでお願いしても。
- 河井
- じゃあはえもりさん、ちゃんと残しといてな。
- 藤井
- 酒飲みがおるけえな。伊藤萌があけるでなコレ。
- __
- 2リットル弱はあるから、たぶん全員に行き渡るとは思うんですが・・・。
- 藤井
- どんな飲み方がいいですか?
- __
- まずはストレートがいいと思います。氷も入れない方がいいかな。味については今は敢えて言わないです。ただ、正直私はこんなに沢山手放したくないです。あともうこの瓶の半分くらいしか残ってないので。
- 河井
- 半分しかないんですか。ちょっとこれは、やばいわ。普通に憧れるわこういうの。
- 南風
- いや、いいなー。
- 藤井
- ヤバい。私も明日にでも10年後の自分に向けて漬けたいわ。
- 河井
- 俺、卒公終わった次の日が誕生日なんですよ。22歳の初飲み酒はこれにしよう。めっちゃ楽しみやねんけど。
- 藤井
- 10歳!
- 南風
- 嬉しい。楽しみー。