「悪魔のしるし」
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。演劇などを企画・上演する集まり「悪魔のしるし」の危口さんにお話を伺います。危口さんは最近、どんな感じでしょうか?
- 危口
- 今年は企画が大中小色々ありまして、結構忙しくしていましたね。
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- 素晴らしい。しんどいという思いはありますか?
- 危口
- いえ、もしこれが仕事だったら、毎日働くのは当然だし、きついとは言えません。いや、きついですけど。普段は僕も、ほとんどの小劇場関係者がそうであるように、バイトしながらやってます。まさか食えるとは思ってないです。いや、思ってなかった。というのも、今年だけは何だかんだいって、やっていけてるんです。助成金をもらいながらなので興行収入とは言えないんですけどね。今は瞬間風速で、じきにまた食えなくなってバイトを始めると思います。
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- どんな仕事をしているんですか?
- 危口
- 工事現場で建築資材を運ぶバイトです。肉体的にはキツいので、一日で辞めてしまう人も多い職場なのですが、僕はけっこう長い間勤めてるんで、社内で存在感が上がってしまってますね。
悪魔のしるし
危口の思いついた何かをメンバーたちが方法論も知らず手さぐりで実現していった結果、演劇・パフォーマンス・建築・美術など多様な要素をもつ異色の集まりとして注目される。作風は基本的に、演劇的な要素の強い舞台作品と、祝祭的なパフォーマンス作品という二つの系統。団体名は、主宰・危口統之の敬愛する英国のロックバンドBLACK SABBATHの楽曲 「SYMPTOM OF THE UNIVERSE」に付けられた邦題、「悪魔のしるし」に由来。2008年結成。(公式サイトより)
なにかが動いてる
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- 危口さんは、いま、どんな創作に興味がありますか。
- 危口
- 元々、主体的に自分の興味に基づいて創作するというタイプじゃないんですよ。昔はそういうこともあったけど、最近は、お話を頂いてお受けする事が増えてきて。その場合、自分で扱いたい主題があろうがなかろうが、上演環境が先にあるので、理由とか意義は後付けで捏造することになります。自分の興味が最初のモチベーションにはならない。
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- 危口さんには、モチベーションはいらない?
- 危口
- 人によってモチベーションって言葉の意味も違うと思います。僕自身にも何かしら動機と呼べるものはあるとは思うんですが、ことさらそれを明示しなくても、形にすれば何らかの痕跡は残ると思うので。結局、形にするかしないかという話ですよね。
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- 確かにそうですね。痕跡。
- 危口
- 動機がはっきりしてない人でも、形に出来てしまう。そういう場合は、もっと大きなからくりが働いているんだろうなあとは思いますね。強いて言うなら、そのからくりに興味があります。任意の作家にやらせたいという誰かがいて、大きな力が働いて、制度が整えられたり、施設が建てられたり、フェスが運営されたり。この世に演劇があってほしいと欲望し、作動しているからくりがあるんでしょうね、きっと。
「TACT/FEST2013」 での悪魔のしるし
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- 悪魔のしるしの作品を、ロクソドンタの「TACT/FEST2013」で拝見しました。それは子供をテーマにしたもので、もちろんお子さんがたくさん来ていて。なのに、悪魔のしるしの作品だけ、会場の子供が何人も泣き出すような作品でした。子供番組のお姉さんが出てきて、みんなと一緒にトトロを呼ぶ。「トトローっ」て呼んだら菓子袋の寄せ集めにくるまれた怪物や、真っ赤な妖怪が出てくるという。
- 危口
- ええ。
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- 今考えると狼少年の逸話を借りた啓蒙作品だったのかもしれないし、期待したものが出てくるとは限らないという、社会の厳しさを教えるものだったのかもしれない。とても面白かったです。どのような意図があったんでしょうか?
- 危口
- そうですね、あれは最初にイベントの企画担当の方からお話を頂いて、とても面白そうだ、でも何をしよう?と考えたんです。どうしても我々は、やるのは大人、観るのは子供、そんな二項対立で考えてしまいがちですが、もう少し細かく、自分の子供時代も振り返りつつ考えてみれば、3歳・5歳・7歳・9歳と、成長するに従って興味の対象ってどんどん変わっていきますよね。だから、結論として、全年齢の子供を単一の理由で面白がらせる作品は不可能だと。本当は大人だって、年齢層や生活習慣が違ったら面白いと思うポイントは違うんですから。でも、最終的に作る作品は一つでしかない。だったら、それぞれの年齢層の子が面白がる理由を個別に用意した方がいいんだろうなと。例えばちょっと物心がついた小学校3年くらいだったら、呼んでも呼んでもトトロが出てこないズッコケ感は楽しめるだろうなとか、幼稚園ぐらいの子だったら、おねえさんが出てきてコールアンドレスポンスするだけで面白いだろうなとか。
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- お子さんを不気味がらせるという演出意図だと思っていたんですが。
- 危口
- 怖がらせる危険性はあると思ってましたけど、まあそれはしょうがないと。狙っている訳じゃなかったです。役者が悪ノリしていた部分はありましたけどね。真っ赤な着ぐるみを着た、どぎついメイクの化け物が出てきて、泣き出す子もいるけど、一方で笑う子もいるんですよ。かといって、どちらかを選ぶことはできない。否定的な反応が出ることは、ある程度は覚悟してましたけどね。という訳で、最初に考えるのは複数化です。「子供向け」という条件だったら、「子供」を複数に分類しつつ、何歳以上、或いは以下の子はこのネタ通じないだろうな、ごめんなさい、と判断しながら、各年齢層へ届くであろう要素を個別に設計していく。児童向け作品に限らず、他の作品を考えるにしても同様です。
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- 大人もびっくりしてましたよ。悪魔のしるしにものすごい興味をそそられました。
TACT/FEST2013
大阪 国際児童青少年アートフェスティバル2013。公演時期:2013/7/29〜8/11。会場:大阪府阿倍野区各会場。
図る
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- 悪魔のしるしという集団について、こういう言われ方をして事があるんじゃないかと思うんですが、どこか建築的ですよね。
- 危口
- ちょいちょい話には出ますね。
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- 例えば全員で一つの複雑な構造物を運ぶ作品「搬入プロジェクト」 はまさに建築をモチーフにしているし、「注文の夥しい料理店」 はまさに作品のコンセプトそのものがとても構造的だなと感じたんです。登場人物の人肉が出てきて、それを食べる作品というのは、これはもう驚きを覚える仕組みだと。
- 危口
- そうですね。お客さんを強制的に舞台空間に強制的に組み入れてしまう。
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- それは、どのような考え方で作るのでしょうか?
- 危口
- まあ、学生時代に建築をずっと勉強していて、その考え方が今でも生きているというのはあります。まず、ダイアグラムが大事であると。一旦図式化して、関係性を考えながら作る。
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- 図式化する。
- 危口
- お客さんが演劇を鑑賞する際に、お金を払って劇場に来て、椅子に座って見るだろうと。そういう図式を前提としつつ、そこをちょっといじる事で、他の作品と比べにくくするという事なのかなと。同じ土俵で勝負したら勝てないという卑屈な自覚があるので。身体も強い、脚本も強い人たちには勝てないから、そうじゃないやり方をする我々が、スキマ産業的にいられればいいかなと思ってます。というのがこれまででした。最近はまたちょっと違ってきたかもしれませんが。
「搬入プロジェクト」
通常、演劇において舞台上の演者の動きは脚本と演出、すなわち言葉によって導かれる。しかし、ひとを動かすのは何も言葉だけではない。たとえば、ものすごくデカくて複雑なカタチの物体を運び入れねばならないとしたら――その物体の重量や形状こそが、このパフォーマンスの“脚本”と言えるのではないか。(公式サイトより)
「注文の夥しい料理店」
宮沢賢治の名作「注文の多い料理店」を元にした悪質剽窃舞台劇。原作では一命を取り留める猟師たちだが、本作では腕を切り落とされ目玉をえぐられ最後にははらわたを食い荒らされる。観客席をS席とA席に分け、倍近く価格は高いうえ正装を強いられたS席の客は特等席に座り、 話題のフードアーティスト諏訪綾子(food creation)による、場面展開に添った食事を食べながら観劇できるという仕掛け。逆にA席側から観ると、晩餐に興じる観客もまた舞台世界の住人のように感じられる。なお、本作のテーマとなる絵は画家である危口の父親が描きおろした。(公式サイトより)
ツメを研ぐ悪魔
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- 最終的に、上演が終わった時に、観客がどう思っていれば理想ですか?
- 危口
- 今年9月に行った公演の当日パンフレットに、「お客さんに笑顔で『金返せ』と言われたら嬉しい」と書いたんです。会心の笑顔でそんな事を言われるんだったら、いい試みだったんだろうなと。期待していたものとは全然違うけれども、劇場に来た事自体に対して良かったと思ってもらえれば。もちろん、真顔で『金返せ』と言われたら非常にマズいですけど。
村を出る
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- お客さんを驚かせたい、という意図があるんじゃないかという印象がありました。むしろ、そういう悪意があるのかと。
- 危口
- うーん。必ずしも驚かせるのが目的じゃないですけどね。でも、前提を崩したいという志向はあります。演劇に関わっている人達が持っている前提ってそんなに強固なのかなと素朴に疑問に思うんです。
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- 悪意ではなく、疑問がある。
- 危口
- えーと、これから偽悪的な発言をします。「演劇人口を増やしたい」であるとか「何でこの作品の良さがわからないんだ」とか、そういう発言を多く見ますけど、この世の人々全てが自分と同じ価値観を持ったら、そんな社会は面白いのかと。少なくとも僕はそういう世界には住みたくないですね。そういう人達全員で村作って住んでたら?3000人ぐらいで、みたいな。僕としては、みんなそれぞれの立場で踊ったり仕事したりしてるんだし、個別に自分が立っている足場を、それが生まれ成長してきた歴史も含めて確認していけばいいんじゃないかと思います。
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- 危口さんは?
- 危口
- 子供演劇という足場が与えられればそこで踊るし、踊りつつも、その足場がどんな構造になっているのか分析するのが好きです。
「注文の夥しい料理店」
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- 危口さんが演劇を始めた経緯を教えてください。また、悪魔のしるしを結成したきっかけは。
- 危口
- これはもう、完全な事故ですね。(詳しくはこちら )
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- それにしても、ただただ驚き続けるであろうと思うんですよ、「注文の夥しい料理店」は。
- 危口
- いやあ、料理の内容や出し方はこだわったんですけど、演技面とか脚本はあまり稽古する時間がなくてぐだぐだだったんです。形式の面白さと料理でなんとか持ったという。
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- いやあ、そこはもう・・・出演者の肉がだんだんと減っていく舞台なんて、食い入るように見ると思います。
- 危口
- 悪趣味と言われるかもしれませんね。
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- そうした思いつきやアイデアが、仰るように図式化と複数化から導き出されるというのが信じられなくて。悪意がきっとあると信じたくなっているんです。
- 危口
- あの作品については最初のきっかけとなった一撃がありますね。映画の「ホステル」です。雑誌か何かであらすじを読んだ時に、直感的に、図式としては宮沢賢治の「注文の多い料理店」と同じ作りだなと考えたんです。「搬入プロジェクト」よりも、むしろこのような舞台作品を作る時の方が、建築的な考え方を活かせているように思います。
完全な事故
interview#023 危口統之
質問 小沢 道成さんから 危口 統之さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、虚構の劇団の俳優、小沢道成さんから質問を頂いてきております。「1.何故、悪魔のしるしという劇団名にしたんですか?」
- 危口
- 僕が大好きなブラックサバスのある曲の邦題が「悪魔のしるし」で。響きがいいなと思って付けました。(詳しくはこちら )
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- ありがとうございます。「2.働いている自分と演劇を作っている自分はどのように関係していますか?」
- 危口
- そこなんですよね。工事現場で働いていると、同僚がすごくいい動きで仕事しているのを発見し、そこから演目を思いついたりする。要するに、わざわざ公民館を予約して稽古しないといけないというのは思い込みにすぎないと。仕事=稽古みたいにしちゃえば、わざわざ稽古らしい稽古をしなくてもいいんじゃねえかと。なまけものの発想ですね。普段やっている事がそのまま作品になるような逆算をしようと。枠組みは後から作る。演劇ってこういうものでしょうという枠組みが最初から強固にありすぎるからバイトを切り上げて稽古をしなくてはいけなくなるのであって、じゃあ、再設計すればいいんじゃないかと。
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- それが搬入プロジェクトですね。確かに、全員で一つのものを一緒に運んだらものすごく面白いですよ。
- 危口
- 搬入経路の途中に障害物となる看板が立ってたりして、これさえなければって全員で悩んだり。
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- 面白そう!運ぶのってやっぱり仕事なんですよね。
- 危口
- バイトを作品(稽古)にするという仕組み。この考え方を捩子ぴじんさんが引き継いで、コンビニのアルバイトを主題に「モチベーション代行」という作品を作ってくれたときはとても嬉しかったです。
「悪魔のしるし」のひみつ
レビュー:エクセントリックなダンサーたちが集う吾妻橋ダンスクロッシング
夕焼け
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 危口
- 今は、先程も話題に出た「注文の夥しい料理店」を12月に横浜で再演するので、その準備と、来年作る作品の準備を並行して進めています。父親と二人芝居をしようと考えています。
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- おお。何故お父様と。
- 危口
- うちの父親は画家をやっていて、抽象画を描くんですけど、かといって、ポロックなどの、戦後アメリカの抽象表現主義などには全然興味がないしそれほど勉強もしてないんです。絵画の歴史を、ある程度のところ、セザンヌ、マティス、クレー辺りでストップさせているんですよ、あえて。絵とはこういうものだと定義して、自分なりに活動してるんです。
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- アップデートをしていない。
- 危口
- 一方僕は何やら、新しい世代というところにカテゴライズされているみたいで。果たして自分は、新しさや驚きを提供し続けるタイプなのか。それとも、これだと決めたらそれを追求し続けるタイプなのか。ある程度スタイルを固定化して、バリエーションを作り続けるのか。親父とそういう話をしてみたいです。
TRUE UTILITY クリップテレペン
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがあります。
- 危口
- ありがとうございます。それはそれは。開けてみてもよろしいでしょうか?
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- もちろんです。
- 危口
- ペンですか?携帯型極小ボールペン。
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- はい。どこかに付けて頂ければ。