演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

梶川 貴弘

演出家

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最近は、

__ 
すみません、今日はお忙しい所を。
梶川 
いえいえ、ありがとうございます。ちょっと緊張しています。初めてなんで。何を喋ったもんだかと。
__ 
ええ、ゆっくりいきましょう。梶川さんは、最近はいかがですか。
梶川 
最近は、7月の第1週にアトリエ劇研公演に出るので、その稽古が始まっていますね。あとは、ちょこちょこお芝居を見にいったり。
nono&lili.

京都を拠点に活動する劇団。

アトリエ劇研

京都市左京区下鴨に位置する客席数80程度の劇場。毎週のように演劇・ダンスが上演されている。運営主体はNPO法人「劇研」。

烏丸ストロークロック

1999年、当時、近畿大学演劇・芸能専攻に在学中だった柳沼昭徳(劇作・演出)を中心とするメンバーによって設立。以降、京都を中心に、大阪・東京で公演活動を行う。叙情的なセリフと繊細な演出で、現代人とその社会が抱える暗部をモチーフに舞台化する。(公式サイトより)

何が役者から出てくるか?

__ 
nono&lili.さんの前回公演、アトリエ劇研で上演された「ソニータイマー」。私は非常に面白く拝見しました。等身大の人間関係にメロウな雰囲気がほどほどに出ていて、いつまでも見ていたいような、でも終わってしまうんだ、という感覚がありました。青春ものでしたね。梶川さんは演出をされておりましたが、どのような事に気を付けておられたのでしょうか。
梶川 
あまり、その時のキャラの感情に対して指示などはしていなかったんですよ。これは途中で諦めたんですけど、感情とかそういうんじゃなくて、セリフのテンポとか間の詰め方とか、その時にどこを向いているかとか、そういう外面的な指示を与えた後に、何が役者から出てくるか? みたいな事をやろうとしていたんですけど、途中から扱いきれなくなってきて。
__ 
なるほど。
梶川 
で、結局、その縛りはベースとして持ちながら、そこからは役者の方でどうにかしてくれ、という方向になりました。もう一度演出側に演技の選択を持ってこなければならなかったんだと思うんですけど、そのタイミングが公演時期と被ったんですね。演出側に引き寄せきれてなくて、作品のトータルを見たら散漫になっていた印象があるだろうなと。
__ 
ちょっと整理をさせて頂きたいんですが。稽古の前期に演技の型を付けていって、それをまずは役者に落とすと。そこから、役者の体から何が出るか、という事ですよね。そういった方法は、これまでnono&lili. さんで培ってきたものなのでしょうか?
梶川 
いや、多分今回が初めてですね。
__ 
では、どのような経緯で。
梶川 
これは多分、受け売りなんです(笑う)。鈴江俊郎さんが活躍されていて、その人達の作品が好きで始めているんですよ。で、その方法を鈴江さんのワークショップで見る事が出来たんですね。
__ 
なるほど。
梶川 
僕が元々好きだったのがその方面であれば、まずは、そこで使われている方法を取り入れてみるのも悪くないだろうと。
__ 
鈴江さんも、その型をきっちりと付ける事から始まる方法を使われていたという事でしょうか。
梶川 
どうなんでしょうね、ええと・・・。
__ 
あ、そういったところに近づける為に考えた方法という。
梶川 
はい。演出・稽古のテクニックとして、そういう事だろうなと僕は受け止めたんですね。例えばその役がその時どういった感情を持っているかとかの抽象的な話をしていくと、どうしてもズレが生まれるんですよ。そのズレが面白い場合もあるとは思うんですけど、初期段階からそういう付け方をすると、落とし所がなくなってしまうだろうと。それよりは、もっと具体的な体の動かし方や呼吸から話をしていって、そこから作品を作っていった方が健全だろうと。
nono&lili.『ソニータイマー』

公演時期:2008年5月9日〜12日。会場:アトリエ劇研。

鈴江俊郎氏

劇作家。演出家。office 白ヒ沼。

山岡徳貴子氏

劇作家。演出家。魚灯。

劇団(員)の姿勢について

__ 
「ソニータイマー」。終わってみていかがでしたか。
梶川 
個人的には反省点がいっぱいあるんですよ。ただ、劇団として今の段階ではそれなりに成功であったと思います。でも、最終的に演出の方に作品を引き寄せられなかった点とか、あとは劇団の運営的に後手に回ってしまったり、制作部の仕事が遅れたりとか、スタッフさんの都合が付かなくなって劇団員でカバーして作品作りに影響が出たりとか。作品的には僕はとても好きで、上手く出来たと思うんですけど、運営面での体制を充実していればもっと良くなったと思いますね。
__ 
そういった運営側で出た問題についての原因は、既にご自身ではっきり見えている状態なのでしょうか。
梶川 
いや、まだ明確ではないですね。具体的な公演準備の進め方についてはクリアすればいいだけの話なんですけど、劇団(員)の姿勢については色々あります。
__ 
というのは。
梶川 
「お芝居をやっていると食えない」という、あるじゃないですか。それに僕自身、もしかしたら劇団員も決着を付けていないという。これから何を目標に歩んでいくのかみたいな。やっぱりそこは若干しんどくて。学生劇団をやっていた頃はただ楽しいだけでやれたんですけど、こうして劇団を立ち上げて、社会参加して作品を作るとなると、「果たして僕らの作る作品がどんな価値を持ちえるのか?」という所にまだまだ答えが出ないんですね。それが、劇団を維持・運営していく上で少し弱い所ではあるなと思うんですね。
__ 
それは難しい問題ですよね。ところで、梶川さんは大学からお芝居を始められたんですよね。
梶川 
そうですね。大谷大学の蒲団座からです。卒業する頃になってchickens cafeという劇団を立ち上げて、その頃もまだ学生気分というか、自分達が楽しければ良いみたいな気持ちだったんですね。それは、それで良いと思うんですけど、その劇団の解散前くらいから「これが一体何になるんだろう」という思いが強くなったんですね。それから解散して、現在nono&lili.をやっているんですけど。
__ 
なるほど。
梶川 
nono&lili.でぼんやり見えているのは、お芝居をやる事はお金儲けとは違うだろうという事ですね。いまウチの劇団は、ちょっと商業的な方向になっているという気がするんですよ。分かりやすい作品で人を集めて、という。多分、それは僕らがやりたい演劇ではないと思うんです。人を集めるという事は悪いことではないんですけどね、劇団としては。劇団としてはお客さんに開かれているべきなんですけど、作品に関して言えばもう少しわがままになっていいのかもしれない。それでたとえ少しわかりにくくなっても、そのわかりにくさに対して作り手と受け手が素直に向き合えるのではないかと。お金儲けでなく向き合う事なんではないかと思います。

・ 描きたいもの

__ 
それでは、梶川さんが表現したい内容とは何でしょうか。
梶川 
僕のやりたい事。ダメ男を描くのが大好きなんですね。きっとそれは、人間のダメな部分に何かしらの執着があるからだろうと思うんですが。
__ 
その、ダメ男の何が美しいのでしょうか? いや、美しいというのとはちょっと違うのかも知れませんが。
梶川 
いや、自分自身がいい男ではないから(笑う)。前回公演での主人公に起こったような事件がよく起こるんですよ。1人で頑張って、あるいはテンパってしまって周りをほったらかしにしてしまう、みたいな。自信が持てないと上手く喋れないみたいな。それを表現した所でどうなのかという話なんですけど。・・・描きたいもの、ですよね。
__ 
そうですね。ダメ男の話から入りましたけれども、ストーリーの流れから見てもお伺い出来ればと思います。例えば前回公演「ソニータイマー」ですが、最後登場人物が属する町工場が倒産し、全員が散り散りになってしまうという展開でした。
梶川 
何か・・・。自信のない人達や、喪失感・孤独感を描きたいんですね。誰しも、そういう弱い部分を持っていると思うんですよ。共通認識として。そういった弱さをどうしたら乗り越えられるのか。それは人それぞれだと思うんですけど、きっと、ある程度条件は一緒なんですよ。それを示せたらいいなあと思います。
__ 
乗り越える。
梶川 
何かを失ったけれどもそれを取り戻す、そういう様を描きたいんですね。「ソニータイマー」は僕ではなく広川くんの脚本で、逆に何かを失っていく過程の話だったんですけれど。
__ 
そうですね、今回の主人公は失っていきました。
梶川 
でも最後は、主人公の元にヒロインの女の子が戻ってきたんですけどね。その終わり方の良さも作品としてはありなんですが。公演を終えて振りかえると、僕はいまいちああいう終わり方というか、戻ってくる動機が分ってなかったなと。実際体験としてそんな事は起きねえよと。そういう時には近寄ってこないもんで、タイミング的にもう少し前後した段階ならば戻ってくる事もあるだろうと。
__ 
ダメ男として。
梶川 
あれは、理想というか夢物語だろうなと。最後、ファンタジーみたいに終わるじゃないですか。
__ 
バースデイケーキを取り囲んで終わり、でしたね。
梶川 
照明の魚森さんから、「この回想はどこから始まるの?」って聞かれた時に、「ケーキが舞台上に出てきたあたりからです」って答えたんですけど。多分、ファンタジーな部分は女の子が主人公の所に帰ってきた辺りからだと思うんですよ。
__ 
なるほど。もう、終わり方の美学の問題ですね。
梶川 
これを稽古段階から気付けていたら、もう少し違う終わり方をしていたのかも知れないですね。僕の中では、ラストシーンは主人公の社長が、バースデイパーティーの様子が録音されたICレコーダーを床に叩きつけようと腕を振り上げた瞬間なんです。後はちょっと長々しい、蛇足っぽい気がしますね。

出会っていく

__ 
「ソニータイマー」について、もう少し。お客さんの反応としては、いかがでしたか。
梶川 
賛否両論が激しいですね。ものすごく。僕の知り合いではダメ、というのが多いんですね。普通のお客さんというか、芝居に触れた事のない方のアンケートは面白かったという意見が多かったんですが。
__ 
はい。
梶川 
そこは、当初から狙っていたんですよ。そういうお客さんこそに見せたいというか。別に演劇関係者の為に演劇をやっている訳ではないので。僕達は、確かに演劇をやっているけれども、そのコミュニティの中で作品作りをやっていてもしょうがない。お芝居の文化を大きくしていくと思うのなら、お芝居をやった事のない人に出会っていくしかないだろうと思うんですよ。だったら、その人達に伝わりやすいものを作ろうと。しばらくは、その方向で作品を作っていこうと思います。
__ 
出会っていく。
梶川 
いや、初対面ってそうじゃないですか。出会って、だんだんと仲良くなっていって、気の許せる仲になって初めて自分の伝えたい事を打ち明けられると。演劇も一緒だと思うんですよ。
__ 
関係者向けではないという事は、劇場は閉じていると感じておられるのでしょうか。
梶川 
ああ、そうですね。・・・うーん、怒られますかね(笑う)?
__ 
まあ、それは皆思っているんじゃないかなと思うんですけどもね。そういう中で、「ソニータイマー」みたいな見やすい作品って凄く貴重なんじゃないかなと思います。
梶川 
そこが商業的かなと思っちゃうんですけどね。
__ 
いや、そんな引け目を感じる必要はあまりないかと思います。
梶川 
芝居をやっている関係者の方から「自分のやりたい事をやらないでどうするんだ」と言われる訳ですよ。でも、そこはバランス感覚だと思うんですよね。

「演劇をやる意味」

__ 
梶川さんは、今後どんな感じで攻めていかれますか。どんな方法、どんな方向で。
梶川 
いやー、そうなんですよね・・・。今後は少し、演劇をやっていく理由を見つけたいなあと思っています。とりあえず、今年いっぱいは役者ですね。
__ 
役者ですか。
梶川 
僕は当初、役者をやりたくて演劇を始めているんですね。演出やったり脚本を書いたりとか、そういう役割で人の演技も見たいんですけど、やっぱり自分が舞台に立ちたいというのが大きいですね。
__ 
今後、どんな役者になりたいとかありますか?
梶川 
いまぼんやりと見え始めている「演劇をやる意味」というのが(さっきの話にも繋がるんですが)、「お客さんと繋がる」という事なんですね。演劇って、人が出会う事が最大の特色だと思うんですよ。映画やテレビには無い。
__ 
完全に違うメディアですからね。
梶川 
そういう機会であると考えると、やっぱり人との付き合い方と同じだと思うんですよ。そういう事を考えた時に、より多くの人と出会って付き合う事の出来る役者が一番上手いと思うんですよ。それは技術のあるなしとは関係ない、人間的魅力の問題で。
__ 
人間的魅力ですか。
梶川 
より多くの人と、より楽しい時間を過ごせる人ほど、沢山人が集まってくる。そういう人の演技を見ていたいし、そういう芝居を作っていきたいですね。
__ 
nono&lili.の今後としてはいかがでしょうか。
梶川 
まあ、同じ事ですよね。劇団員全員が、うわべだけの社交的な意味ではなく、人間味というか、人気者になれればいいですよね。友達感覚でいいと思うんです。そういう人達の集団って、とってもいいなと。
__ 
はい。
梶川 
それは絶対に魅力だし、価値だと思います。

万城目 学・著『鴨川ホルモー』

__ 
今日は梶川さんにお話を伺えたお礼として、プレゼントがあります。
梶川 
すいません、ありがとうございます。あ、本ですか?
__ 
そうですね。
梶川 
何だ何だ(開ける)。おお! これ、読もうと思ってたんですよ。ちょっと気になっていて。
__ 
あ、そうだったんですか。完全なジャケ買いだったんですけど。
梶川 
そうなんですか。これ、今話題ですよね。ありがとうございます。読書家なんで。
__ 
あ、良かったです。
梶川 
ありがとうございます。本とか買わないので、凄く嬉しい。
(インタビュー終了)