悪い芝居vol.11 キョム!
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。
- 北川
- お願いします。
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- もう、年の瀬ですね。
- 北川
- びっくりですね。芝居で始まって芝居に終わる年でした。
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- そうなんですね。
- 北川
- 今年(2010年)の最初に、クロムモリブデンさんの年越し公演に出演して、年末は悪い芝居さんの「キョム!」に。
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- 「キョム!」。大変面白かったです。ご自身ではいかがでしたか?
- 北川
- 大変でしたが、すごく役者冥利につきる公演でした。好き放題させて頂きました。
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- 山本さん役ですね。
- 北川
- 物語のコアな部分を担っている役どころというのは実はあんまりないんですよ。野球に例えると7番ライトみたいな、シメるところでシメる役が多かったので。
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- そうそう、ぐいぐい引っ張っている感じがありましたね。
- 北川
- いえ、全員で作るというのがあの作品のコアだったんだと思うんですよ。
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- ああ、最後のあの状況を舞台にいる全員で作り上げるという。
- 北川
- 山崎さんが、それを作るのがすごく上手だったと思うんですよ。なんて言うんでしょうね。役と役者と、役のもつ物語がダブるというか。役者の持つ物語みたいなのが生かされたんじゃないかと思います。
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- 参加している俳優、個人の佇まいということですね。
- 北川
- 今回はそこすらも一緒になっていくというか。表現に、演劇に携わる人間として、とても贅沢な作り方をさせて貰いましたね。
カムヰヤッセン
東京大学で活動していた北川大輔が学内劇団を退団後、一年余りの時間を経て結成。ちなみに劇団名は、アイヌ語で「神様」を意味する「カムヰ」と、北川の出身地である鹿児島弁で「なさけない、たよりない、ふがいない」といった意味をもつ「ヤッセン」をくっつけた造語。(Corich 舞台芸術の紹介文より)
悪い芝居
2004年12月24日、旗揚げ。メンバー11名。京都を拠点に、東京・大阪と活動の幅を広げつつある若手劇団。ぼんやりとした鬱憤から始まる発想を、刺激的に勢いよく噴出し、それでいてポップに仕立て上げる中毒性の高い作品を発表している。誤解されやすい団体名の由来は、『悪いけど、芝居させてください。の略』と、とても謙遜している。(公式サイトより)
悪い芝居vol.11「キョム!」
公演時期:2010/12/18〜26(大阪)2011/1/14〜16(東京)。会場:精華小劇場(大阪)駅前劇場(東京)。
クロムモリブデン
東京の劇団。代表・青木秀樹氏による脚本・演出で乾いた現代を破裂的に描写し風刺する。
向き合う時間
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- 今回の公演に参加されたキッカケとは。
- 北川
- それが、僕も良く分からないんです(笑う)。悪い芝居さんは前から、カラフルなチラシがすごく気になっていたんですよね。それからサイトを見ていたんですよ。ある日、出演者募集という文字をたまたま見て、年末空いてるし、オーディション受けよう、と。
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- なるほど。
- 北川
- 大阪・京都でやってみたいというのはもちろんあったんですよ。ビビビときましたと言うしか。
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- 稽古は、いかがでしたか。
- 北川
- 何でしょうね、ひたすら自分との戦いでした。キャストも多くて、若い人もたくさんだったので。でも、山崎さんはこの座組じゃないと出来ない作品を作りたいとおっしゃっていて。
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- 確かに、ほとんどのキャストが外部からの出演でしたね。
- 北川
- これまで、大した実力もないくせに、ある程度実力がある人たちと組んでやることが多かったんです。だから、慢心する恐れがあるかもって。そういう意味で、京都というのは良かったかもしれません。自分がどこにいるかというのをとらえ直す、ある意味キツい、でも清々しい作業になりました。おれ、こんなんやったで、みたいな。自分とじっくり向き合う時間を頂きました。
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- 楽しい稽古場になっていったと、大川原さんから伺っています。
- 北川
- お芝居の常識ですけど、共演者とお芝居を作っていく中で、たくさん愛を渡したらその分返ってくるんですよね。当たり前の事ですけど、それを心の底から思いました。そういうのってやっぱりどこか、ちょっと年を取ってくると打算だったり見返りを期待したり、ごちゃごちゃしたものが入ってくると思うんですけど。今回は一切そういうのを抜きで、作品に当たる事が出来ました。
大川原 瑞穂
悪い芝居。女優。
3人と一緒に残ってバットを持っている
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- 今回の「キョム!」。見ていく内に、今この舞台の上のパフォーマンスがメタフィクションなのか、パッケージされているフィクションなのか、少しづつ分からなくなっていく。観客として見ていながら、だんだん自分が参加しているかもしれないという錯覚に捕らわれていく仕掛けでしたね。
- 北川
- 作品の本当にコアなところは山崎さんに聞かないと分からないんですけど、お客さんもあの3人と一緒に残ってバットを持っている、みたいな形になればいいねと稽古場でも言っていて。
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- なるほど。何というか、いつの間にか参加しているというか。一番最初に、西岡さんが来場のお礼を言うじゃないですか。そのセリフで劇場全体が悪い芝居という劇団の公演会場だけではなくなったというか。
- 北川
- 引き寄せてみたり、引き離してみたり、忙しい芝居でしたね。それも狙っていたところだと思います。
心が動く舞台
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- さて、北川さんが主宰されている劇団、カムヰヤッセンのお話に移りたいのですが。その前に、以前インタビューさせて頂いた方から、メッセージを頂いてきております。
- 北川
- 誰だー。
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- 奥田ワレタさんからです。
- 北川
- だはは。ワレちゃんありがとうございます。
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- そのままお伝えします。「おお 悪い芝居頑張って」だそうです。
- 北川
- ふはは。奥田さん面白いですねー。京都に来た時に、奥田さんの偉大さを知りました。すごい売れっ子だったんだなと。
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- さて、そんな奥田さんが出演していたカムヰヤッセンの「やわらかいヒビ」。SFを下敷きにした作品だと伺っております。こりっちの感想(見てきた!)を見ると大変好評だったようですね。いきなりなのですが、お芝居をご覧になった方に、どんな気分になってほしいですか?
- 北川
- もし不遜な言い方になったら忍びないのですが、心が動いてほしいです。出来ればポジティブな方向に。どうであれ、心が動く作品を作りたいと思います。
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- 例えばあまり心が動かない作品とは?
- 北川
- 単純に巧いね、上手だねって言われる作品にはしたくないなと。巷にたくさん転がっている、もちろん上手なのは一般的に価値があるんですが。でも、その先にある、心が動く舞台にしたいなと思います。
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- 心が動く。北川さんは、どのような時に心が動きますか?
- 北川
- 僕の心は動きやすいんですよ(笑う)。今日は市バスに乗ってきたんですけど、同じバスにおばあちゃんと孫と親が乗っていて。千本中立売で孫が降りる時に、おばあちゃんと離れるのをいやがってたんですね。ちょっと急いでたんですけど、見てると、何か一瞬、「あ」って思ったんですね。僕の心が動くのは、たぶん、それが本物である時だと思うんです。劇の演出をするときに言うのは、それが本物であること。やり方の差異はどうだっていいんです。本物の動き方や、言葉や、表情。例えば劇評がバラつくのは、僕のフォーカス合わせが出来ていなかった場合です。
奥田ワレタさん
クロムモリブデン。女優。
端正に仕込んだカレー
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- 舞台はよく、ウソで成り立っていると言われますね。では北川さんがフィクションから本物にするのに気を配っている事は。
- 北川
- そうですね・・・。分かりやすい事ですね。入って来やすい。嘘と分かってきている以上、入っていこうという姿勢もあると思うので。なるべく広い間口を持とうと思っています。芝居の好みというのはあるとは思いますが、カレーとラーメンは皆好きだと思うんですよ。
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- おお、B級グルメですね。
- 北川
- どちらも安いという取り方もあると思いますが、きちっと端正に仕込んだカレーを出したいです。
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- なるほど。では、カレーを楽しんで食べてもらうためには。
- 北川
- お客様にひっかけるチャンスみたいなものをいっぱい用意したいと思います。入り口をたくさん用意する事だと思うんですよ。アイデアをただ提供するだけじゃなくて、理解してほしいからとっかかりという言葉を使ったんですけど。その責任を引き受けられるまで準備をする義務があると思います。
税金を払う
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- 今後は、どういう形でお芝居をされますか?
- 北川
- 表現者の端くれとして、表現にくいついていきたいですね。税金もちゃんと払って。
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- なるほど。
- 北川
- 社会と関わりを持つ事に対して、ここ一年よく考えるようになっています。考えずに済ませる事も出来るこの小劇場という世界で、それこそJRの車掌さんが一人倒れたら社会全体が困るけど、小劇場の俳優が一人倒れても誰も困らない。
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- ええ。
- 北川
- そういう事を常々考える、そういう普通の事を考えたいですね。アーティストだからといって、考えずに済むということはないので。その上で、表現の世界をよじ登っていきたいですね。さし当たって、今回の「キョム!」でそういう事を扱っていたのもあり、意識が強まりました。
質問 森田 みさをさんから 北川 大輔さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、PASSIONEの森田みさをさんから質問を頂いて来ております。「自分の事をロマンチストだと思いますか?」
- 北川
- 自分ではリアリストだと思っているのですが、他人からはロマンチストだといわれてますね。
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- ロマンチストなんですね。
- 北川
- そうみたいですね。
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- どういう時にそう呼ばれていると。
- 北川
- 作品ですね、たぶん。どんなのにしろ、たくさんの愛と若干の揶揄を込めてそう呼ばれていると思います。
劇団PASSIONE
1997年結成。京都を拠点に活動する劇団。寓話的世界を描きながらも、不思議な現実感の後味を残す作品が特徴。激しさと寂しさの同居する、万華鏡のような世界観。
京都の創作環境
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 北川
- 2012年くらいに、関西でも上演しようと思っています。
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- おお。是非、お願いします。
- 北川
- まず今回やらせてもらって、京都の創造環境の素晴らしさですね。芸センしかり、青少年活動センターしかり。それから、京都の上品さですね。いちげんさんお断りとか言われるんですけど、入ってしまえばあったかいですね。そういう幸せな出会いを頂いたなと思いました。
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- 上品さですか。なるほど。
- 北川
- 創作環境という点においては、京都をすごくうらやましいと思いました。アートコンプレックス1928もいい劇場ですよね。
アートコンプレックス1928
三条御幸町の多目的ホール。ダンス、演劇公演、ショーやワークショップ、展覧会等を開催する。
topknotのハット
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 北川
- わー。まあ、おしゃれな。かぶれるようにします。