演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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犬飼 勝哉(わっしょいハウス)
同じ職種
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田中 遊(正直者の会)
重実 紗果(花柄パンツ)
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安田 一平(フリー・その他)
谷 弘恵(地点)
まつなが(東洋企画)
大川原 瑞穂(悪い芝居)
西山 真来(フリー・その他)

いまは京都に

__ 
今日はどうぞ、よろしくお願い申し上げます。最近、浅井さんはどんな感じでしょうか。
浅井 
来月の末から烏丸ストロークロック に出演する事になりました。僕は東京在住なんですが、12月の前半ぐらいから京都に来て、芸術センターで稽古に参加しております。来月までは結構京都にいるかんじですね。学生時代は京都に住んでいましたので、第二の故郷じゃないですけど、身近な人にはおかえりと言われるようなそんな土地です。烏丸ストロークロックも、京都にいた頃何度か出演していたし、芸術センターで稽古をするのも久しぶりで、色々懐かしいという。
__ 
いいですよね、京都。
浅井 
はい。好きです。京都。
わっしょいハウス

京都にて自然発生的に活動を開始(2007年)。演劇団体。メンバーは劇作家/演出家の犬飼勝哉とわっしょいハウサー浅井浩介(ほか出演者/スタッフは作品ごとに流動的)。2010年に拠点を東京に移し、以降コンスタントに作品を発表している。何気ない日常に妄想や空想や目に見えないもの達がふと侵入してくる幻想的なテキストが特長。「六畳一間」と異界の融合――表現方法はシンプル。ギャラリーやフリースペースでの上演。ここ最近ではアクティングスペースから映像撮影をおこなう撮影パフォーマンスや客席オールスタンディングなど。舞台空間と外の世界との境い目をゆるやかに(そして遠慮がちに)飛びこえる。(こりっちより)

烏丸ストロークロック

1999年京都で旗揚げした、小劇場演劇を手がける劇団。現代人とその社会が抱えている葛藤をモチーフにした作品を各地で精力的に発表している。「演劇(舞台)でしか表現できない」「世代・趣味趣向を超えて心に訴えかける」作品づくりをポリシーに、ひとつのコンセプト・題材を用いた小作品の上演を数年にわたっておこない、その後一つの分厚く上質な作品へと昇華させる創作形態をとっている。2001年「CAMPUS CUP 2001」大賞受賞、2003 年「Kyoto演劇大賞」大賞受賞。(公式サイトより)

烏丸ストロークロック Re :クリエイション・プロデュース「国道、業火、背高泡立草」

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「国道、業火、背高泡立草」。私は神戸のAI・HALLでの初演を拝見したのですが、非常に面白かったです。自分の故郷に戻ってきた男が、自分の町に復讐をするという。もうあの町は元には戻れない、それぐらいの大きな変化。その復讐も、法律に触れない範囲のもので・・・。そういう卑怯さが非常に悲しかった。町のあり方を経済面から捻じ曲げて終わり、みたいな終わり方で、その終末感や寂しさは凄かったです。我々も、彼らと同じように、自分のエゴの為に捨ててはならないものを捨ててきたんじゃないか。全体に巻き込まれて捨てたにせよ、それは共犯じゃないか、と。
浅井 
実は今回は、初演の脚本を書き換えての再演という形になっているみたいで。後半が大幅に書き換えられるらしいんです。
__ 
そうなんですね。初演の絶望がどのように変わるのか、という点と同時に、何があの作品を変えるのか、にも興味があります。
烏丸ストロークロック Re :クリエイション・プロデュース「国道、業火、背高泡立草」

輸送トラックが行き交う、国道9号線沿いの町「大栄町」。 昭和の高度経済成長期に地元出身の国会議員がもたらした土木利権で興ったその町も、時代の移ろいと政治家の死によって過疎化が進んでいた。時は平成。大いなる栄華をもう一度と、次の権力者擁立を企てる町議選に人々が白熱するある日、大栄町に大川祐吉が帰ってくる。 人々は驚いた。なぜなら、20年前に広大な山林を焼失させ、逃げるようにこの町を去っていった、あの“ビンボーのユーキチ” が今ごろになって現れたからだ。 駅に降り立ち、スーツケースを引きずりながら国道を彷徨する男の姿は瞬く間に町中に喧伝され、人々はその不気味な報せに警戒する。みな、ひとえに、祐吉の復讐に怯えていた…。 2013年初演。ツアー各地で賞賛を浴び、劇団初公演地だった広島では追加公演を行うなど大きな話題となった佳作を、2014年「短編 神ノ谷第二隧道」を経て大幅に加筆、さらなる深化を遂げる“Re”クリエイション作品。経済に翻弄され金を追い続けた人物とその業。日本の宿痾を架空の町から透かし見る、烏丸ストロークロックの大栄町シリーズ最新作。 出演者/阪本麻紀 桑折現 今井美佐穂 小熊ヒデジ 新田あけみ 浅井浩介 イトウエリ 作・演出/柳沼昭徳  音楽/山崎昭典、中川裕貴 演出助手/柏木俊彦   舞台監督/山中秀一   舞台美術/杉山至  照明デザイン/魚森理恵  照明操作/尾崎翔  音響/小林祐也  宣伝美術/清水俊洋  制作/富田明日香 協力/有限会社現場サイド、有限会社アトリエ、第0楽章、てんぷくプロ、K.I.T.、わっしょいハウス、有限会社レトル、quinada   京都芸術センター制作支援事業 助成/一般財団法人地域創造  後援/特定非営利活動法人京都舞台芸術協会  製作協力/烏丸ストロークロック 津公演 2016年 1月30日 16:00 1月31日 14:00 伊丹公演 2016年 2月6日 18:00 2月7日 14:00 知立公演 2016年 2月13日 14:00 2月14日 14:00

対話

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稽古は今、どんな感じで進んでいますか?
浅井 
年内は稽古場での対話が多いですね。シーンの稽古をするというより、柳沼さんが考えている事に対し俳優が質問したり、逆も。稽古が始まった時に、みんなでこの作品の舞台である「大栄町」のモデルになっている町に取材に行きまして。烏丸ストロークロックの作品って、そこの風景だとか、土地の人々のニュアンスみたいなものを大切にしていると思うんです。「大栄町」の取り残された感じというか・・・田舎の町にフィールドワークに行って、駅の感じとか風景の感じを見てきました。
__ 
いかがでしたか。
浅井 
やはり実際目で見たり体で感じたものって大きいなあと思います。個人的にも自分がやる役に関係ありそうな場所に自分で行ったりしてて。お客さんに、役や場所のニュアンスが細かいレベルまで伝わるように、その風景の中に何かを見つけようとしています。柳沼さんから、そういうものを繊細に表現できるようにして欲しいというオーダーがあったんですね。今は、その風景や町にどういう感触があるのか話して貯めていくという段階です。来年になったらもっと具体的な稽古になってくるでしょうが。
__ 
浅井さんの役は、どんな人間なのでしょうか。
浅井 
別の土地から来た農業研修生という立場の青年です。お金を貰って、町の農場で働いている。「自分はあえて田舎に来ている」という意識があって、でもその裏にはそこに来るしか無かったという部分がある。本人は、外から来た人間なので周りを田舎者だと見下して、でも、そこで暮らすうちにそこの人間になっているという。内にはどうにもならない鬱屈を抱えつつ。見てくれは田舎のヤンキーなんですよ。田舎ってヤンキーが多いイメージじゃないですか。本人は、その土地で暮らすためにあえてヤンキーっぽく、という意識で演じているが、実際にはそうなってしまっているというか。うん、複雑な田舎のヤンキーです(笑)。
__ 
自分がそこにいるために、周囲を理解しようとしている、という事でしょうか?
浅井 
理解というより、合わせてやっているという感覚で、でもそこから抜け出せなくなっているという感覚ですね。

「入れておけばいい」

浅井 
どんな役でもそうだと思うんですけど、人間だから複雑なんですよね。だから色んな気持ちというのを、出来るだけたくさん入れておくというか。「こういう時はこうする」みたいなのが決まってしまうと、単純になりがちというか。実際に本番が近くなったら色は決まっていくと思うんですけど、いまはとりあえず、「こういうこともあるかも」と、色々な事が出来るようにしといて。それを演出の方と、「そうならないんじゃないか」とか「それがいいんじゃないか」とかを話しつつ、徐々に、その役がどう行動するかの選択肢を絞っていくというか。
__ 
決めていくのではなくて、たくさんの選択肢を取り込んで、徐々に絞っていくんですね。
浅井 
そうですね、だから今は切り捨てていくというよりは、入れておけばいい、と。間違った事も今の内にやっておいた方がいい、と。
__ 
INとOUTがあって、その間の処理部分を作るのが役者の役作りの目的なのかなと思うのですが、そういう事でしょうか?
浅井 
INが少ないと、OUTってそれより少なかったり、単純なものになってしまうというか。INが少ないのにOUTを大きくしようとするとすごくウソっぽくなってしまうんですよね。だからとりあえずINを多く持っておいて、出来るだけ色んなOUTが出来るようにしておくという感覚ですね。小さくも出せるし大きくも出せる、こっちにもあっちにも行ける、その為の様々なINを持てるようにするという感じです。
__ 
INのプールか・・・今気付いたんですが、俳優って、OUTするための役割じゃないですね。OUTするためのINをする(感じる)仕事なんですよね。
浅井 
そうですね、どっちかと言うと出すことより採り入れることの方が重要な仕事な気もしますよね。それが出来るかどうか。
__ 
「見る」「聞く」「感じる」「考える」という仕事。それどころか、セリフを喋っている時もそれらの受容の作業は生き続けている。
浅井 
そうですね、聞くという事は重要視しているのかもしれない。役として舞台に立っている時、情報を初めて貰う瞬間というのは大切にしていますね。それにきちんと驚けるようにしておかないと、すごく、狭まってしまうというか。
__ 
同じ作品を数ヶ月稽古していると、摩耗していくのは想像に難くない。常に驚けるというのはやっぱり凄く大変かもしれない。
浅井 
やればやるほど、逆に繊細な感覚を取りこぼしていってしまうこともあるので、それをいかに乗り越えるかというところは気を付けています。固まってきちゃうんですよね。こうしたら上手く出来そうだ、とか、失敗したくないという気持ちもつい生まれてしまうので。そういう段階は必要だと思うんですけど、毎回の稽古でゼロの状態でいようと思います。鎧を着ないようにして、すぐ死ぬような状態にしておかないと驚けないというか。
__ 
あえて防具を外す。
浅井 
その状態でいないといけないというか・・・稽古とか作品の作り方についても同じことが言えるかもしれません。何もないところから形にしようと積み木みたいに積み上げていって、稽古で完成させたものをお客さんに見せようとするような、固まったものを再現してみせるという事ではなくて、毎回その場で積む為の・積む感覚を得るための稽古。
__ 
大仏を建立してそれを見せにいくパターンと、サッカーの試合を見せに行くパターン、そういう事なのかな。
浅井 
ああ、そうですね。最初から道筋を決めていって、その道筋を覚えるための稽古ではなくて、なんか、毎回その、俳優の道筋によって積み上がるかの稽古。
__ 
その中間に寿司屋は位置している。
浅井 
寿司屋ですか。
__ 
寿司屋なりの味やスタイルが全部決まっていて、他の様々な条件と、お客さんの前に出し、もてなすためのメソッドを手に入れる修行。
浅井 
なるほど。寿司屋パターンもあるかもですね。職人感ありますね寿司屋(笑)。色んなスタイルがあって、どれが良い悪いじゃないと思いますけど。でも根本としては、そういう稽古意識じゃないといけないのかなと思っています。もちろん作品によって違いますけど、でも、サッカー的な感覚でいないと何も面白いことは出来ないんじゃないかと思います。

質問 ミネユキさんから 浅井 浩介さんへ

__ 
前回インタビューさせていただきました、劇団子供鉅人のミネユキさんから質問です。「自分が舞台に立っている時と立っていない時のギャップはありますか?」
浅井 
うーん、なんだろう、舞台にいる時の方が、社交的だと思います。思っている事を口に出す、というか、セリフを言わないといけないから何かしら目の前の人に喋るんですけど、普段だと何も喋らないで聞くだけとかって多いんで。
__ 
直したいと思いますか?
浅井 
いや、そんなに・・別にいいのかなと思っています、けど、人に不快な思いはさせることはない程度に・・とは思っています(笑)。

「見えてくる」

__ 
いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
浅井 
なんか、おじさんの芝居って良いなあと思ってるんですけど。僕は今年、同年代か年下の方と芝居を作る事が多かったんですが、今回の烏丸ストロークロックでの稽古は久しぶりに年上の方が多くて。年代が上の人と芝居をするのって、良いなあと思って。
__ 
なるほど。
浅井 
いや、僕ももうおじさんなんですけど。でもまだまだいつも必死なんですよね。ほんと必死なんです。まあいつまでも必死なのかもしれませんけど、歳をとって味というか、貫禄というか、歳をとってこそ輝くというか、そういうものって憧れる感覚があって。昔から。
__ 
分かるような気がします。
浅井 
年配の役者さんて、そういうものを使っていると思うんですよ。その方自身の中身を晒してなお堂々していられる強さがあると思うんです。
__ 
そういう意味でも、「鎧」を外したい?
浅井 
鎧ナシでの強さを持ってるのかもしれませんね。いや、鎧ナシで弱くても大丈夫なようになっているのかもしれません。僕はいま、鎧ナシだと必死になってしまうのが、熟練してくると、弱さ自体は変わらないかもしれませんが、見えてくるのかな。
__ 
見えてくる?
浅井 
なんか、武道の達人とかもそうですよね、動かないで倒せるみたいな、そういう事かも。そういう落ち着きを身につけていきたいなあと。
__ 
見る。その現場の、自分を取り巻く状況や、起きる現象を認識する。
浅井 
起こっている事を繊細に受け止められる状態というか。
__ 
視線か・・・ところで観客は、舞台上での俳優の認識をかなり細かく理解しているじゃないですか。
浅井 
そうですよね。
__ 
あ、別にこれはオカルトとか超能力だとかの話じゃもちろんなくて、脳の能力とかの話でもなくて、単純に何故そういう事が起こっているのかを話したい。
浅井 
それって、ほんのちょっとした事で、うまくいかなくなるんですよね。同じ作品でも。うまくいっている時は観客は俳優の感じ方をものすごく敏感にキャッチしてくれるけれど、うまくいかないときはそれが全然伝わらない、みたいな。ちょっとした事で、何が起こっているのか分からなくなっていく、みたいな事はありますね。あれ、難しいんですよね。やってる側としては何故そうなってしまっているのか分からないときもある。
__ 
その劇場のリアルタイムにおいて、のめり込む場合と全くのめり込まない場合がありますね。
浅井 
お客さんによって感じ方が違うのは当然なので仕方ない部分もあると思うんですけど、でも、俳優のやる事によって、ほんのささいな事で少しズレてしまって、理解されなかったりする。難しいなあと思います。
__ 
ささいな事、もはや偶然の領域・・・株式の世界に似ているのかもしれない。正しいメソッドが確立されていながら、成功率は保証されていない。ではその中でも成功率の高い演技は何かというと、ある意味大振りな演技となる。大味な演技となる場合もある。
浅井 
うーん。そうですね。でも成功率は高いけどちょっと大味な事をやるよりかは、成功させるのは難しいけどすごく面白い可能性がある事を目指すほうがいいなあ。そっちじゃないと、やる意味が無いと思っています。もちろん、どちらも必要だとは思いますが。

整理の年

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか?
浅井 
ちょっと時間をゆっくりにしてみようと思っています。わりとこの1、2年は公演を立て続けにやっていて。とにかく経験が必要だと思ってやっていたんです。色んな劇場で場数を踏みたいと思っていたんですけど、それがもちろん必要で、まだまだ経験は足りないんですけど、ちょっとそれも違ってきているのかな、と。
__ 
なるほど。
浅井 
もちろん芝居は続けるんですが、ちょっとゆっくりに。それこそ、INをもっとたくさん得ようとしていたんですが、その整理をしようと思っています。そういう時間を作ってから、またどういうところでやりたいのかを整理してからまたやっていきたいなと今は思っています。

コーヒーキャンディ

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。どうぞ。大したものではないですが。
浅井 
ありがとうございます。すいません、なんか。クリスマスプレゼントですね。開けてもいいですか。
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もちろんです。
浅井 
あ、コーヒーキャンディですか。嬉しいです。コーヒー好きなので。お口の友に。
(インタビュー終了)