いろいろと試行錯誤
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、木之瀬さんはどんな感じでしょうか。
- 木之瀬
- よろしくお願いします。次に参加させていただく劇団しようよの稽古が始まりまして。それが一公演きりなんですけど、東京のせんがわ劇場演劇コンクールに出すんですよ。
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- あ、そうなんですね。一回きり。もうすぐですね。
- 木之瀬
- もう、2週間ぐらいしかなくて。『こんな気持ちになるなんて』という、劇団しようよとしては再演の作品なんですけど、今回は新しいバージョンになっていて。いろいろと試行錯誤しているところです。
Massachusetts
2012年、木之瀬雅貴を中心に結成されたスーパーコントユニット。"学問の街"として有名なマサチューセッツの名を冠す通り、「お笑い」を学問として捉え、多角的に考察。世に存在するあらゆる事象や現象、法則をコントに転換する実験グループである。様々なタイプ、触感の「笑い」を提供する。(公式プロフィールより)
KUNIO番外公演『ともだちが来た』
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- 木之瀬さんはKUNIO番外公演『ともだちが来た』に出演されたということで、私は残念ながら拝見できませんでして・・・。ただ、とても良く出来た会話劇であり、それ以上に、舞台上で俳優たちによって作られた関係性それ自体に強度があったという噂を伺っています。まずざっくりと伺いたいのですが、出演された木之瀬さんとしてはどんな経験でしたでしょうか。
- 木之瀬
- まず、俳優としての実感がこれまでの中で一番強い公演でした。杉原邦生さんにはKUNIO11『ハムレット』のときもお世話になったのですが、その時はあっぷあっぷで。配役がまた主役のハムレットだったというのもあり、その重さを自分一人で持ち上げようとしたりして、周りが見えなくなったり、失敗も沢山しました。でも今回は、冷静に自分に何が出来るかというのを検証していけたのかなと思います。
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- なるほど。
- 木之瀬
- そうやって一つ一つを突き詰めて、積み上げる作業を繰り返しました。終演後に観てくれた人と話すと、多くの人が、俳優や演出についての言及よりもお客さんそれぞれの内面に迫る感想を持ってくださったのが良かったなと思いました。友達って何だろうって考えてくれたり、記憶や心象風景と重ねてくれたり・・・。作品に対して俳優が透けて見えるっていう僕の理想に、ほんの少し近づけたかもしれない。結果論ですけど、稽古で粘って積み上げたことが間違ってなかったことを証明できた気がしました。
KUNIO番外公演『ともだちが来た』
公演時期:2015/5/14~17。会場:元・立誠小学校 音楽室。
しびれ
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- その「俳優としていま出来る事を積み上げる」作業について。それはもちろん、演技を支える役作りという基本的なことだと思うんですけど、プラスアルファの思考があるんじゃないかと。そこで、『ともだちが来た』でのどこかひとつの演技、「これは自分では良くできた」と言える成果を例にとって、どんなお考えで進めたのかをお聞かせください。
- 木之瀬
- 今回、演出家には「状態を見せろ」という事を言われてたんです。前作『ハムレット』の時は戯曲の構造に則って、感情を「言葉」に乗せるという事に集中していたんですけど、今回は言葉ではなく身体を見せるっていう、ある意味反対の事に取り組みました。
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- なるほど。
- 木之瀬
- 『ともだちが来た』という作品は、「友達」という存在が「私」の家に来るところから始まります。僕が演じたのは「私」。その友達は既に死んでいるんですが、それが劇中ではなかなか明示されない。半分すぎたくらいで友人の口から死の事実が語られ始めて、それによって私の心がだんだん揺さぶられてくる。その場面で、あるタイミングを境に私が「いやいや、俺だってこう感じてんだよ」みたいに反撃していくんですけど。
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- ええ。
- 木之瀬
- そもそもこの二人の関係性は、何となくヒエラルキーを感じさせるんです。昔、いじめや迫害なんかがあったかもしれない。おそらく、私が友を蹴落としたのだと解釈したんですけど・・・。そんな友の言葉に揺さぶられつつ、反抗して切り返す演技が凄く難しかったんです。戯曲では「私」はそこで急に饒舌になるんですが、さっき言ったようにただ言葉に感情を乗せるだけでもダメで、「言いづらい事をあえてあっけらかんと喋る」っていう演技で処理するのも違うんだ、なんていうふうに演出家とディスカッションしたりしながら試行錯誤して。「状態を見せろ」とも言われているし。
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- そこが難しかったんですね。
- 木之瀬
- 僕は元々、ひたすら発散のエネルギーで演技をしてしまう癖があって、以前邦生さんに矯正されたんです。当たり前の事ですが、感情・動機をちゃんと作ってから発語しろと。『ハムレット』の時はそのやり方をきちんとやることで対応できたけど、『ともだちが来た』ではそれでは対処が出来ないという場面が発生した。迷った挙句思いついたのは、矯正される前の「よくない演技の作り方に戻す」というやり方でした。役の感情が出来ていないのに行動・発語してしまうというのを、意識してやってみたんです。
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- おお。
- 木之瀬
- 役の状態と自分の演技のやり方が、見せ方として合わさるかもしれないと思って、本当に賭けでやったんですよ。気持ちが出来ていないのにしゃべり始めると、呼吸が浅くなって手足がしびれ始めるという感覚が僕の中にはあるんですけど、それをあえて生じさせた時に上手くいって。「状態」を見せる形にすることができたんです。
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- 衝動を演技で表現する時に、あえてそうする。役者にも人物にも分からない衝動だから。
- 木之瀬
- まあ最初からずっとやっちゃうとへたくそだという事になってしまうので、タイミングを見定めると効果があるのかな、とは思いました。
劇場外と融け合う
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- 会話劇をしているときに役者に起こっている事、起こっていない事、そして起こるべき事について考えていければと思います。木之瀬さんの場合、会話劇をしていた時に、どんな実感がありましたか?
- 木之瀬
- 僕の場合、本番になると完璧主義の性質が出るみたいで。稽古場と違う事に過敏に反応してしまうみたいなんです。
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- というと。
- 木之瀬
- 共演した田中祐気は、本番になったらとりあえずやっちゃえっていうタイプなんですけど、僕はその逆で。今回、元・立誠小学校の音楽室が会場で、遮光パネルもカーテンも開けて外の光や音がばんばん入ってくる状態で上演したんですが、そういうのがお客さんには気になってしまうんじゃないかとか考えちゃうんです。「あ、今カラスが鳴いた」とか気づいちゃうし。でもお客さんにとってはそれは舞台上と等しくひとつの情景ですからね。共演者にも言われたんですけど、気にしすぎだと。
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- そうした傾向は前から?
- 木之瀬
- 演技は荒いくせに、そういうことに敏感で。周りが見えたうえで捨て去るべきだと反省しました。
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- 昔、劇団どくんごの野外公演で、役者が全然関係ない向こうの道路を通り過ぎる救急車の音に反応するという演技があってそれはとても面白かったんですけどね。ネタとして。
- 木之瀬
- そこまで意識的にコントロール出来ればいいですよね。ノイズと融け合える、みたいな。
一つの大きなエンジン
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- 『ともだち』では、弛緩していないように見せなければならない、そういう演技で緊張する身体、という事だったのかなと思うんですが、基本ベースとしてどんな状態を見せようと思われましたか?
- 木之瀬
- 稽古場でダメ出しを受ける度に気づいたことがあって。感覚的な話なんですが・・・。
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- 伺いたいです。
- 木之瀬
- 全体を見ていくような、視点が高く広くなっていくんです。役が動く所作には、一挙一動に感情と動機と理由があって、でもそれらを一つずつ細かく作っていくというよりは、実は全てを動かすエンジンは一つなのでは、と。動きの一つずつにエンジンが違うんじゃなくて、でっかい一つのエンジンが稼働して、それが各所に作用していって指先に到達する。大きいエンジンがあれば、外界の細かい事は気にならなくなっていくと思うんですよ。樹形図の反対みたいな。時には最下層の細かいエンジンを使い分ける事もあるんですけど。
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- 木之瀬さんには一つの大きなエンジンがある。
- 木之瀬
- はい。
芸人に
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- 芝居を始めた経緯を教えてください。
- 木之瀬
- 元々はお笑い芸人になりたかったんです。2003年に起こったお笑いブームの時に、「芸」っていうものがかっこいいなあと思って。その道の途中でラーメンズに出会いました。ラーメンズがちょっとお芝居チックな事をやってるのをみて、自分も真似してみようと。中学三年の時に初めて脚本を書いて演出してみたんですが、周りの反応が良くて調子に乗って。その流れで高校でも演劇をやって、大学もその方面に行こうと思いました。演劇学科のある大学というと日大を奨められたんですけど、京都に来たくて京都造形芸大に入りました。目標はいろいろマイナーチェンジを繰り返して今に至ってますが、未だにお笑い芸人は最高にかっこいい職業だと思っています。
質問 黒木 夏海さんから 木之瀬 雅貴さんへ
futurismo『珈琲が冷めるまでの戦争』
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- futurismo『珈琲が冷めるまでの戦争』も出演されましたよね。3月でしたね。面白かったです。
- 木之瀬
- 口語調の芝居を全くやった事がなかったので、大学を出る直前のタイミングでやれて良かったです。
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- 匿名劇壇 の福谷さんの脚本でしたが、合気道みたいな芝居でしたよね。恋愛における、こうきたらこう返す、ああ来たらこう返すみたいな。その応酬がとてもキレイだったんです。恋愛はもしかして武道の組み手に近いものなんじゃないかと。スポーツ観戦みたいな気分になっていました。
- 木之瀬
- それはもう、福谷師範が稽古を付けて下さったからですよ。太刀筋が見えていらっしゃるんです。
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- 戦術の応酬でしたよね。そういう戦争。主宰の松永渚さんに一言。
- 木之瀬
- 本当に誘っていただいて良かったなと思ってます。共演したのが活躍されてる方ばかりだったので、それはもう刺激的な毎日でした。早く追い越したい。
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- そういえば、木之瀬さんとは昨年の4月に行われた「gateユース」の時、Massachusettsで出会ったんですよね。あれは良かったです。大学で学ばれた事が生かされてたのかなと。
- 木之瀬
- 生かそうとは思っていなかったですけど、同じ学び舎にいた者達なので自然とそうなったのかもしれません。Massachusettsは今後も可能な限り続けたいなと思っています。将来有望な人たちばっかりなので、みんなが有名になってその名前だけでお客さんを呼べるようになったら再始動します。次は幕張メッセとかでやりたいです。
futurismo
俳優・松永渚の演劇ユニット。イタリア語で未来派という意味を持つ単語だが、本人の勘違いにより、ここではフィチュリスモと読む。『今』をコンセプトに、関西の同世代を招いた本公演にて旗揚げ。(公式サイトより)
futurismo #1「珈琲が冷めるまでの戦争」
脚本・演出:福谷圭祐(匿名劇壇)出演:松永渚 西分綾香(劇団壱劇屋) 佐々木誠(匿名劇壇) 佐々木ヤス子 木之瀬雅貴 福谷圭祐(匿名劇壇)公演日程:3月26日(木)19:30 3月27日(金)20:00 3月28日(土)13:00 / 15:30 / 18:00 / 20:00 3月29日(日)13:30 / 16:00 3月30日(月)19:30 3月31日(火)20:00会場:common cafe
匿名劇壇
2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)
東京で戦う必要
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか。
- 木之瀬
- 東京で戦う必要があります。やっぱり競争相手の絶対数が違うし、そこで淘汰されるレベルなら淘汰されてしまえばいいとも思っています。もちろんそれは絶対嫌なんですけど、試してみなければ分からないなと。
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- そうですね。
- 木之瀬
- 東京で通用する人材にならねばならぬという気持ちと、反面、田舎出身だから京都は単純に住むのが心地よくてここにいたいという自分も居ます。今後の事で言えば、住まいはどこにしても各地を往復をするみたいな事が出来ればと思います。フットワーク軽く。
黄色い絵小皿
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってい参りました。
- 木之瀬
- ありがとうございます。futurismoの現場で、僕が何をもらえるのかの予想が立てられていましたよ。
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- いえいえ、つまらないものですよ。
- 木之瀬
- (開ける)小皿ですね。ありがとうございます。大事に使います。