これまで
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- 今日はどうぞよろしくお願いいたします。最近、香川さんはどんな感じでしょうか。
- 香川
- よろしくお願いいたします。最近は出演予定もないので、趣味に勤しんでいたり、のんびりしていたりします。
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- そうなんですね。まず伺いたいのですが、、香川さんが演劇を始めたのはどのような経緯があったのでしょうか。
- 香川
- 中学から演劇部に入ったのがきっかけです。女子校の中高一貫校だったので6年間。とても充実した部活動でした。
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- ご卒業されてからも演劇は続けられていたのですか?
- 香川
- 大学生になってからはサークルに所属することもなく全然やっていなくて。もう1回やりたいと思ったのは大学3年生の終わりだったと思います。その頃から、オーディションを受けて出演していました。そこからはずっとその繰り返しです。
よるべ「くじらのいびき」
脚本・演出: 田宮ヨシノリ 期間:24/9/13~16 会場:The side 出演:宇垣サグ、香川由依、久野泰輝(REFUGIA)、山西由乃(Gesu◎・劇団ケッペキ)、山本魚
よるべ「くじらのいびき」
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- 先日のよるべ「くじらのいびき」が大変面白かったです。ざっくりとした質問で申し訳ないのですが、ご自身にとってはどのような作品になりましたか?
- 香川
- ありがとうございます。私は今年で30歳になるんですけれど、20代最後に出演した作品として、自分の中では節目だったと思います。私自身、この1、2年の間に仕事や私生活での変化が大きかったこともあって、「いよいよ30代か」と思ったタイミングで今回の作品に出会えたことはすごくありがたいなと思いました。
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- 仕事と自分、というお話でもありましたね。
- 香川
- 私の演じた「女1」とはキャリアが違いますし、そもそも私より年上でした。だけど、自分のif、未来のようにも感じました。逆に、お客さんにはどんな景色が見えていたのかが気になっていました。
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- 私の感想で恐縮ですが、実際の鯨のイビキってきっと大きい音だと思うんですが、海の中に入らないと聞こえないのだろうと思います。海のどこにいても聞こえるほど大きい音も、海面という境界線を越えてしまえば聞こえない。この作品は「眠り」が大きなテーマだったのではと思うのですが、自我が曖昧となる睡眠中にこそ精神が大きく振動する。引きこもっていた女1の精神状態も、対話よりも、入眠する、その状態遷移の時にこそ回復の機会があったのではないかと思っています。演じられていて、いかがでしたでしょうか。
- 香川
- 「とにかくやることをやっていった」というのが近いです。よるべさんの作品に出演させていただいたのは2回目でしたが、その点は前回と変わらず一緒でした。演出である田宮くんは、「こういうことがしたい」ということがはっきりしていたので、どうしたらそれが実現できるのかを常に稽古で実験していました。台詞の読み方で言うと、リアルに近い状態で読まず、それはそれとして読む、というか。
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- あ、確かにそうでしたね。棒読みという訳じゃないけど、抑揚は大きくなかったと思います。
- 香川
- 俳優と脚本の距離感に関しても意識されていたので、私は自分の言葉に近づけてしまわないように、他人の言葉で話すことを意識していました。
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- 「間を詰める」「間を指定する」という演出ということでしたが、瞬間的な反応で会話をすることの多い日常会話に添った演出方法なのかなと思います。
- 香川
- 言葉との距離が近ければ近いほど、俳優同士で間が出来てしまうというか。その間が無いようにしたいと田宮くんはよく言っていました。台詞と台詞の間を全部詰めて、対話しているんだけど一文になるような稽古をしていました。2人以上で会話してるのに、一人でしゃべってるような感覚に近いです。それは、よるべの作品の魅力のひとつだと思います。台詞を口にすればするほど、田宮くんが話しているように感じていました。女1の部屋なのに、田宮くんの部屋のような。実際、脚本を書いているのも田宮くんで、家具も田宮くんの私物で溢れていたので、あの空間でそう感じる瞬間は多かったです。あと、今回観にきてくださったお客さんの中には、作品を深く考察されている方もいて、素直にすごいなと思いました。
私の色
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- そうした演出方法がこの作品にとてもよく合っていた理由を知りたいなと思っていて。それはやはり、女1が外界から距離を取りたいと願うでもなく願っていた、何なら自分の心とも離れたがっていた、という背景と無関係じゃなかったんだろうなと思っていて。それぞれ、本質的には同一性から離れたかったという点で。
- 香川
- そうかもしれません。田宮くんの脚本には語尾に「!」が入っているところがあるんです。普通に読める台詞にあえて「!」で言ってほしいと徹底されていました。よく分からないけど大きな声で話してみると、意外と成立したりして面白かったです。言葉との距離感を意識して、ある意味飄々としていたのかなとか思います。
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- 飄々とまでは思わなかったですけど。
- 香川
- 良かったです(笑う)。今まで生きてきた経験を一旦無視して、田宮くんのやりたいことができるような状態で演じたいなと思ってました。ただ、自分の癖は無視できなかったです。
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- なるほど。
- 香川
- いかに文字をそのまま読めるかが大事だと思っていました。「間」も同様で、そういう意味でも「俳優」である自分を意識するきっかけになったので、出演できてよかったなと思います。
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- 誤解を避けるためにですが、「いかに文字を読めるか」というのは、台詞を上から抑揚なく読めるかということなのか、あるいはそうじゃないのかというところですが・・・
- 香川
- うーん、書かれていることをそのまま読むというか。私はたぶん言葉と距離を取るのが苦手で、逆に言えば一人称で読むのが得意です。だから、書かれた言葉の印象や意味を、「私」を押し付けずに「いかにフラットに読めるか」をやりたいと思っていました。
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- まあ確かに、ショーとして演じる時の会話と日常会話って違いますもんね。抑揚は日常会話にはそんなに必要ないですしね。もちろん、意識して抑揚をつけることもありますが。
- 香川
- 無意識にやってしまう癖が、良いときもあれば良くないときもあるので。他人の言葉のまま発したいとは思っていたので、稽古期間中はずっと課題でした。
息をしたくなった
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- それでもあえて伺いたいのですが、演じている時に手応えがあったというようなシーンってありますか?
- 香川
- 手応えと言うと難しいですが、大きく言うと2箇所あります。ひとつは普通に楽しかったんですが、部屋の中で4人で喋ってるシーンです。ずっと2人の会話だったのが、4人だと言葉の嵐みたいな感じで。バチバチに言葉がはまって決まるところが快感でした。
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- あそこはすごく良かったです。笑いも起きてましたね。
- 香川
- もうひとつは妹が姉の部屋を出て行く最後のシーンです。部屋の電気が消えてから、安心と恐怖に似たものがずっとあって、急に1人になったときは、毎回その消化の仕方が違っていたように思います。脚本には「あー!!と叫ぶ」と書いてあったのですが、私にとっては色んな意味で切替ポイントだったので、気合いが入ったシーンだったのかもしれません。そもそも、女1の発散できるタイミングを作りたいという田宮くんの思いもあったのですが、このシーンだけ規則性のないものになっていました。だからこそ、やりがいがあったと感じたのかもしれません。
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- 省略してもいいぐらいひどいシーンをあえて描く、みたいな。ひどいというのは、「妹が寄り添ってくれていた後に姉が一人になって泣く」という身も蓋もない発散という意味で。
- 香川
- 女1の発散とは、と改めて意識しました。
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- 見てる側としては、慰められたから落ち着いたなんて予定調和なんか、無いということを厳然と示してくれて、胸がすく思いでした。
- 香川
- それまでに積み上げられたシーンがあったからこそ、急に声に出したり、息をしたくなったりしたんだろうなと思います。
質問 高谷誉さんから香川由依さんへ
演劇を作る、チームで
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- 今後、どんな作品作りに関わっていかれたいですか?
- 香川
- 「やりたいこと」を実現するために試行錯誤できるような創作活動に携わっていきたいです。
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- いわゆるワンチームで作るということですね。
- 香川
- 私は劇団に所属しているわけではないので、それっきりになるんですけれど、一緒に作っている人たちと楽しみながら作っていきたいです。
LAMY safari
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- 今日はですねお話をいただいたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
- 香川
- ありがとうございます。中を見ても大丈夫ですか。
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- どうぞ。
- 香川
- すごい、可愛らしいパッケージですね。(開ける)あ、ペンですか?中身が見えるボールペンは初めて見ました。素敵です。毎日ボールペン必須なので使います。