劇団うりんこ「お伽草紙/戯曲」全国ツアー
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- 今日はどうぞ、宜しくお願いします。twitter等で近況を伺えましたが、お忙しいなかありがとうございます。
- 平松
- こちらこそ、ありがとうございます。特に今は忙しくしているんですけど、やりたくてやっている事を全てしてしまう性分なんです。でも楽しいです。俗に言う、《辛楽しい》ですね。
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- 素晴らしい。
- 平松
- 最後には何でこんな事になっちゃったんだろうって思うんですけど、結局自分で決めてやっている事だった、みたいな。むしろ、他人に言われてやるというのが苦手で。頼まれないでやっている事が最近特に多いです。
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- でも、それで効果があったら幸せですよね。
- 平松
- そうですね。その効果を推し量るのが大変なんですけどね。今手がけている「お伽草紙/戯曲」の場合は、作品の反響が大きいんです。一度見に来て頂いたお客さんがツアーの応援をして下さったりするんですよね。「最後は松本ですよね!みんな一緒に観に行ってみる?」みたいに。ネットならではの結実の仕方をする気配があります。そうしたエピソードの出方が、近年まれに見る状況ですね。
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- それは俗に言う、モテているという状態ですね。
- 平松
- へぇ〜、なるほど。分かりやすい。2年前に公演した時はモテると思ったのにそこまでじゃなくて(笑う)。だから、とにかく見に来てもらおうと売り込んだんですよね。モテるための努力をここ一年くらいしまくったんです。すると、以前は気になっていても来れなかったお客さんが来てくれたり、うりんこの事を最近知って下さったお客さんがいらしたり。
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- 企画の素晴らしさはもちろんとして、劇団うりんこ/うりんこ劇場ならではのモテ要素とは。
- 平松
- 多分、家族のような感覚が劇場にあるからかもしれません。これまでの歴史が堆積しているんですね。脚本・演出家に固定の人はいないし、俳優の年代もバラバラ。それでも、人が見れば「あ、うりんこだね」って分かるみたいなんです。
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- ああ、そうした下地とかムードがあるのかもしれませんね。
劇団うりんこ
劇団うりんこの創立は1973年。8人の若者が集まって創った劇団です。以来、うりんこはその名前・・・・・・猪のこども・・・・・・のとおりに元気に走り続けてきました。今では、活動も広がり、愛知・岐阜・三重の東海三県での学校公演だけでなく、おやこ劇場・こども劇場、公立文化施設の主催事業、教育委員会、児童館の仕事などで、全国的に公演をするようになりました。また、海外の劇団との合同公演。スタッフの招聘。海外公演など国際的な活動も広がっています。(以下略。公式サイトより)
劇団うりんこ「お伽草紙/戯曲」
公演時期:2012年1月〜3月。会場:名古屋・横浜・広島・福岡・大阪・相模原・豊川・松本。
「やらなくてはダメだ」
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- 平松さんがお芝居を始めたのは。
- 平松
- 子供の頃から、親と一緒に劇場には行ってたんですよ。大学に入って、学生劇団を改めて見た時にめちゃめちゃ面白く感じたんです。その日は実家に戻る予定だったんですけど、やりたいことが出来たって電話して。その日の内に小屋に出向いて、入りたいと伝えました。
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- まずは学生劇団からなんですね。
- 平松
- その集団の中にいたいなと思ったんでしょうね。入って、ほっとした気分がありました。
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- その時の気持ちは、いまでも地続きでいますか?
- 平松
- ほぼそんな感じですね。その時代にやっていた事は今でも生きています。大学をやめて社会人になって芝居をやめていたんです。でもしばらくして、個人的に「やらなくてはダメだ」と思うようになりました。
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- 演劇を必要としていた。
- 平松
- 演劇というものが自分にあって良かったなと思います。僕という個人が困った時、表現したい時に演劇を作って、それを見て頂けた方が「面白かった」とか「こう感じた」とか仰ってくれたんですよ。そのぐらいから、見てくれる方の事を意識するようになりました。
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- なるほど。
- 平松
- 意外に、普通に純粋にやってるでしょう(笑う)。最初は学生劇団が活動しているのを横目で見ていて、「大学にもこういうのがあるんだな」ぐらいに思っていたんです。でも本当は、自分が一番演劇を必要としていた。今でも、演劇を必要としているのにその存在を知らない人が多いんだろうと思っています。とにかく、沢山の人に出会っていきたいですね。
ひとを思う時間
- 平松
- このツアーをやっていても、たまにいるんですよ。舞台が終わって、受付辺りに近づいてきて「本当に来て良かったです」って仰ってくれる方が、必ず一人ぐらいは。
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- ええ。
- 平松
- 演劇作品は興業としての面も持ちますけど、やっぱり芸術なんだから、個人にとってのかけがえのない体験になりうるんですよね。10万人が泣いたとかじゃなくて、「今ここで、私がこう思った」という機会にしたいと思います。それに関われる職業についたのは嬉しいです。
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- 量より質という表現になるでしょうか。
- 平松
- そうですね。料金で例えると、でっかいホールの場合は舞台に近いところは1万円、3階奥は2000円とか出来るんです。やっぱり、近くで見た方が面白いし。でも、150人くらいしか入れない小劇場ではそれは出来ない。じゃあ一律1万円に出来るかというと、現実的にはそうはいかない。だからといって150人が特別な体験を出来る小さな芝居が必要ないという事もないんです。だから小劇場の狭い世界だけでは、この特別な鑑賞体験の再生産は維持出来ないんですよね。昔は貴族が責任を持ってパトロンをしていたのですが、今は社会全体でまかなって貰いたいところなんです。
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- その必要性とは。
- 平松
- うりんこ劇場で「クリスマス・トイボックス」をやったとき、僕も客席で見たんです。家族劇でした。シーンが進むに連れ、思考が自分以外の他者を思うように変わっていったんです。家族とか友達、知り合いとか。アンケートを読むと僕だけじゃなくて、お客さんみんながそうだったみたいです。その上、演出家や俳優もそういう思いで作っていたんです。だから、作品を上演しているその時間、自分の事だけを考えている人がその空間にいなかったんですよ。社会性があったんです。
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- なるほど。
- 平松
- 自分の為に芝居に関わっていないんです。お客さん自身が1万円出して楽しみを受け取るのはショーとして成立します。それを否定する訳ではありません。でも、今言ったように他者にベクトルを向ける人たちが集まった場所・時間で1万円をペイするのは難しいと思うんですよね。お客さんの中で完結していないから。家族の事を考えて、ケーキを買って帰るお客さんもいるかもしれません。チケット代は高く出来ないけど、他人の為に行動するようになるジャンルが小演劇かもしれない。そう考えています。
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- 他者の事を考える時間。作品によって違うとは思いますが、私も結構、そういう気持ちになります。
- 平松
- 年末に紅白歌合戦を見たんですけど、松任谷由実が歌ってたんです。震災があって、それに向けた祈りを込めた歌、という事だったと思います。僕はモニター越しにそれを見ていたんですけど、全く伝わらなかったんですよ。
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- 何故でしょうね。
- 平松
- やっぱり相対しないと、祈りであるとか、他者を想起させるような事は起こらないのかもしれませんね。マスに向けた中継だと、本当の意味では伝わらないのかもしれない。
幾重にも世界が見えて
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- さて、「お伽草紙/戯曲」について伺えればと思います。
- 平松
- まずこの作品ですが、「御伽草紙」を元に他の太宰作品もコラージュしたものです。作家の永山さんですが、実は本人の指定で「戯曲」としてクレジットされているんですよ。
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- 「脚本」とかではなく。
- 平松
- 永山さんはああ見えて笑顔で仕掛ける人なんですよね。「嘘だし、全部嘘だし」って言いながら(笑う)。
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- 私はまだ脚本も原作も読んでいないんですが、あえて伺いたい事があります。「まだ外界に触れていない、目の開いていない赤ちゃん」に、この作品をどう紹介しますか?
- 平松
- うーん。・・・。うーん。
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- 悩まれるという事は、それはたぶん、私の質問がめちゃくちゃであるという以上に、作品が質的に重大性を持っているという事だと思いますが。
- 平松
- そうですね。赤ちゃんなので説明に言葉は使えないという前提の上で言うと、アドベンチャーワールドのように色々なところに連れていってくれる作品なんです。幾重にも世界が見えて、今見ている舞台の風景と関係ない思考が展開するような、そういう仕組みになっているんですよね。
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- なるほど。
- 平松
- もし自分が知識として持っている事でも、実際に体験するとそれはすごく刺激のある、面白い体験になるんです。それは、きっと人間全てが求めている事だと思うんです。積み重なっていく知識をいくら得ても、体験が伴わないから力にはならない。ある程度ゆさぶらないと、新しい発見にはならない。ある日突然やってくる発見はとても楽しいんです。
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- 演劇では、それを体験出来ると。
- 平松
- もちろん、意図的な狙いを持って稽古するしかないんですけどね。この「お伽草紙/戯曲」は物語の定石にあてはまる展開はしません。でも、だからこそ、新鮮な体験として受け止められると思います。何回観てもそうなると思います。いつでも、何回でも来て下さい。
ジョハリの窓
- 平松
- やっぱり、舞台を作っていく上で、追求して楽しいのは定石にない未知の部分だと思うんです。友人と話していて、ジョハリの窓と言う自己認識のモデルについて聞いたんです。自分が知っている自己、自分だけが知っている他人が知らない自己、自分は知らない他人が知っている自己、自分も他人も知らない自己。そこにある世界を演劇を通して掘るのが、今の僕の仕事かもしれません。
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- だから、新しい手法を用いる前衛劇が必要なのかもしれませんね。
- 平松
- その作品によって穿たれた点が穴になっていって、僕らが知っていって話合う事によって、たどり着けなかった世界をかいま見れるんじゃないかな。
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- 何故、知られていない自己を探すのでしょうか。
- 平松
- 最後のフロンティアだと思うんですよ、自分の姿って。これだけテクノロジーが発達していても人間の心は全然解明されていない。結局はタンパク質と電気信号の諸相として総合的に説明されるんでしょうけど、何故動いているのかは分かっても・・・
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- それが何なのかは分からない。
- 平松
- そうなんです。演出の三浦さんに声を掛けた時も未知の自己が動いたのかもしれない。何故彼なのか、実は僕も分からないんですよ。三人姉妹を見たときに、どうしようもなく気持ちが動いたんです。全く訳が分からなかったんですが、ものすごく面白かったんです。一ヶ月ほど「なんであの作品はああなっているんだろう」と悩んでしまったんですね。しょうがないから会いに行って、作品を作る事になって。
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- 話がうまく進んだんですね。
- 平松
- いえ、最初から狙っていった訳じゃないんですよ。でも一度動くと、僕の気持ちに比例して色々な事が動いていくんです。リスクヘッジの為に動かなかったりじゃなくて、思いつきでも動いたら、今のように全国でツアーになったりするんですね。自分の中ではきっと、目論見はあると思うんですけどね。
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- モテ期ですね。
- 平松
- あはは(笑う)。でも、壮大な事をしているとは思います。
質問 廣瀬 愛子さんから 平松 隆之さんへ
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- 前回インタビューさせて頂いた、劇団ソノノチの廣瀬さんから質問です。「お芝居で一番気持ちいい瞬間は何ですか?」
- 平松
- その場で思わず何かをしてしまった時です。急に泣いてしまったり、わって声がでたり、色々な事を考えてしまったり。そういう時がまあ楽しいよね。
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- なるほど。
- 平松
- プロデューサーとしては、客席と舞台のやりとりが見えた時。子供が主体の客席でも、最初はギャーギャー騒いでいたのが終盤の場面でシーンとなってるんですよね。「今、大事な場面に立ち会ってるんだ」と思っているのが見える。そういう時は嬉しいです。
旅をする制作者
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 平松
- 攻めてるって印象でしょう(笑う)。
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- そうですね。
- 平松
- でも、とりあえずは作品が好きなんですよね。作家さんや演出家は、その人となりよりは作品が好きなんです。仲良くなって飲みに行こうとかはあんまり思わない。
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- 個人的なコネクションは目標としていないと。
- 平松
- そうそう。あんまり興味がないんですよね。でも今のところは、演劇には飽きていないです。色々なところに出歩いて、出会った人たちと何かをしていきたいです。
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- 分かりました。
- 平松
- それと、観客に興味があるんですよね。観客学というのがあるのかな? そういう本を書けるぐらい、考えを深めて行きたいと思います。
伝染病対策目安付温湿度計
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 平松
- ありがとうございます。これが凄いよね。
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- いえ。でも、もう必要のないものかもしれません。どうぞ。
- 平松
- (開ける)すげえ。何これ。温湿度計。
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- 劇場には不特定多数の人が集まるので、どこかに掛けて頂いたらと思います。
- 平松
- ありがとうございます。ツアーに持って行きます。