演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

木村 雅子

インプロヴァイザー

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私は楽しい人たちに囲まれています

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今日はどうぞ、よろしくお願いします。木村さんは最近、どんな感じでしょうか。
木村 
最近ですか。最近は楽しいですね。一緒にいて楽しい人が周りに沢山いるので、なんか楽しいです。
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おお・・・楽しいと思えるというのはいいですね。
木村 
気楽な人が多いというか、気を使わなくていい人というか。周りがそうだと自分がラクちんです。
トランク企画

トランク企画は、京都を拠点に活動するインプロユニットです。インプロとはインプロヴィゼイションの略で即興のこと。トランク企画では、即興で芝居を創っています。「今に居ること」「今を生きること」をキーワードに、予測のつかない未来を全員で遊び合い、協力し合いながら創り上げ表現しています。(公式サイトより)

自由さを感じると、何でも出来そうな気分になりますよね

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まず、インプロショーの定義について伺えればと思うんですが。
木村 
インプロというのは即興のことなんですけど、わたしのやっているインプロは即興のお芝居です。インプロショーでは、即興で芝居を作ります。基本的には内容によって、楽しんでいただけるように、いろいろなルールを付けるんですが、何のルールもない場合もあります。
__ 
そう、つまりアドリブというか、台本が何もない状態での演劇なんですよね。先月のトランク企画 vol.11「LIFE」 ももちろんインプロでした。とても面白かったです。
木村 
ありがとうございます!
__ 
ブログで拝見したんですが、インプロも稽古ってあるんですね。即興劇の稽古って、何をするんでしょうか。
木村 
訓練、に近いですね。言ってみれば。稽古を通して一番大事なのは、みんなが自由さを感じられるようになる事なんです。
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自由さを感じる。
木村 
自由さがあれば、割となんでも出来るんです。その為に稽古ではゲームしたり、あとは本当に技術的な稽古もします。
trunkkikaku vol.11 『LIFE』

公演時期:2013/12/5〜6。会場:Urbanguild。

今のこの瞬間に集中して、とても楽しいはず

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自由さを感じる事が、インプロにとって大事なんですか?
木村 
すっごい大切ですね。不安なところで、「これ間違うかもしれないし」って思いながらパフォーマンスをしたら面白くないですよね。楽しくない。
__ 
「自由」=何かから開放されている状態の事だと思うんですが、俳優はつまり、「これ間違うかもしれない」という恐怖に束縛されている。
木村 
そうですね。それだけではないですけれど、たとえば、評価からの自由はかなり大きいポイントです。
__ 
そういえば、俳優はその場その場で評価される役職ですからね。評価が常についてまわる。
木村 
しっかり練られたお芝居を求めているのであれば台本が用意されている普通のお芝居を見にいけばいいと思うんですが、そうじゃない未知のところに、バンって自由に行けるかどうかがすごく大事な事なんです。それが即興の面白さなんですよね。即興だから、お客さんは完璧なものを見に来るわけじゃないんですよね。それよりは、みんなが失敗を恐れずに楽しんだり、勇気を持って飛び込んだり。それをドキドキして見てもらえればと思っています。
__ 
その自由さを得る為に、何が必要なのでしょう。
木村 
よく、インプロで必要なのは「Be in the moment」、その瞬間にいるということだと言われているんです。いまそこにいて誰かと話している、何にも囚われずに集中して話している。ただ集中する。それがすごい大事な事なんです。いろいろな即興があると思いますが、どんな即興でも共通しているのは「Be in the moment」なんだと思っています。
__ 
いま、そこにいる事。
木村 
人って賢いから、例えばこうして話していても「次にどんな事を聞こうか、あるいは言おうか」とか、相手にバレずに考えられる訳ですよね。でも、それは「今にいない」んです。囚われず、「今!」に集中する事を掴むと、即興が出来るようになっていきます。それが、自由を得るという事に近いんじゃないかなと思います。
__ 
舞台上で「Be in the moment」になれるというのは、すごく楽しそうな事ですね。
木村 
そうですよ〜。すごく楽しいと思います。

本当に素敵なショーだったんです

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トランク企画の前回のセッション、「LIFE」を拝見していて凄く楽しかったのが、演技が噛み合った瞬間なんです。同時に、きっと難しい事なんだろうなと思っていました。高杉さんと内田さんと真野さんのやった、捕まったゴキブリの話はとても良かったですね。
木村 
そう!本当に素敵でしたね。いいシーン、家に帰ってもプププって笑えるのがいいインプロだと思います。お互いすっごい協力して、周りのみんなもいつも協力しようとしていて。なちゅほ(浜田)さんが最後に言ったセリフもすごい良かったですよね。人間が彼らを見つけてしまって、彼らが上を見上げて終わる、みたいな。
__ 
素晴らしかったですよね。何だか、そう作られた演劇のように思えたんです。最後の山口茜さんの実家話から始まるショーなんて、本当にあの台本で数ヶ月稽古したもののように見えました。実家の町で乗っていた自転車が宇宙船と交信を始め、そこから、思い出というあやふや記録の情景が、インプロなのに調和をもって紡ぎだされて、他の俳優達の町の思い出も混ざり合いながら、引っ越しの日を迎えるという明確な物語がある稀有なショーでした。UrBANGUILDの店員さんも凄い拍手してましたよ。
木村 
ええっ、それは嬉しい。
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即興でしか生まれない空気感があるんですよね、確かに。

重なりあって生まれる、その瞬間が大切

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もちろん、「LIFE」を見ていて全て面白かった!楽しかった!という訳じゃなくて。やっぱり、観客はもの凄くフワフワしながら見ていたと思うんです。不安になる事もあった。お話が用意されていないという点で、観客の態度って相当違うんだなあって思いましたね。
木村 
なるほど〜。何も決まってないから、そうですよね。そして、台本のお芝居と、絶対に違うのは、役者が自分自身の言葉で語っているという事なんじゃないかな、と思います。
__ 
役者が、自分の言葉で語っている?
木村 
即興は、その人の人生を反映したものしか出てこないんです。たとえば、台本は、作家さんの言葉、世界、その時代が再現されていきます。もちろん稽古で俳優とコラボレーションしながら作ると思うのですけれど。即興の場合は、一人一人の演者の言葉が瞬間に積み重なってどこまで行けるか、なんです。どんな人の人生も素晴らしいもので、それが重なっていく面白さ。
__ 
その人の生の言葉ですね。
木村 
だから色んな人、年齢層の人がいればいるほど面白いんですよね。さらに言うと、その役者の「今」の言葉しか出てこないんですよ。今の私と去年の私が同じシチュエーションに置かれたとしたら、全然違う事を喋っていると思います。

許し

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「LIFE」を見ていて、どこか浮遊感があったんですよ。次に何が起こるか分からない事による浮遊感。実はこの間、舞台映像家の方にインタビューしていたんですが、記録映像にした演劇と生の演劇とでは、その情報のあり方が全く違うという事が分かりました。過去の記録映像はその戯曲の物語性が浮かび上がり、生の演劇は俳優が放つ衝動を受ける事が出来る。しかし、戯曲の俳優は何も知らない体でありながら物語の結末を知っている・予定された未来を持っている。であれば、演劇の映像作品とインプロショーは逆の関係にあるなあと。インプロは観客はもちろん俳優も次に何が起こるか知らない。
木村 
ほんとに、何が起こるか知らないからこそ面白いと思います。一緒に発見していく面白さというのでしょうか。
__ 
怖いですけどね。何が起こるか分からない。
木村 
前のめりになって見てしまうお客さんもいますよね。
__ 
俳優が失敗するかもしれなくて、心配になってしまう。
木村 
失敗も見せどころなので、そこも楽しんでもらいたいです。皆が心の中に持っていないといけないのは、「失敗しても良い」という事なんですよ。
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「失敗しても良い」?
木村 
シアトルにいた時、ランディさんという方にインプロを教わっていたんです。「君たちがどんなに失敗してもシアトルの市民にはなんの関わりもないから、どんと楽しんでおいで」と言って下さって。それが凄く素敵だなと。そうあれたらと思います。だいたい、即興の舞台に立つだけで凄い勇気なんですよ。みんな、よくぞ立ってくれているなと。
__ 
そうですね。
木村 
日本は失敗を許さない意識が結構社会に根強くあるけれど、人間は失敗して成長するものだと学んできました。そのような社会であればいいな、って。全部まとめて見せられればいいなと思っています。
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失敗を許す。
木村 
失敗したね、あははって。自分自身を許すし、誰かの失敗も許すし。失敗を楽しんでいくというか。だってそれは面白い事だから。失敗も含めて、その人自身を見せるのが面白いんです。
__ 
素晴らしい。「失敗してもいい」か。
木村 
それは凄く大きなインプロのメッセージで、失敗出来るのであれば役者さんはチャレンジ出来るし、失敗出来るという事は進化のスピードも違うんです。失敗を許されないと、いつの間にか果敢なチャレンジが出来なくなってしまう。失敗を楽しめるのは、ワクワクする環境なんじゃないかと。まあこれはインプロの基本的な考え方なんですが、そういう意識をお客さんが感じて帰ってもらえたら、それが最高ですね。失敗した場面をプププって笑ってほしいし、そうしたらきっと豊かになるんじゃないかなって。

もっと、沢山の人とセッションしたいから・・・なのかもしれません

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木村さんがインプロを始められた経緯を伺ってもよろしいでしょうか?
木村 
私、以前、劇団にお世話になっていて。でも物凄い落ちこぼれで、憧れているけれども何をしたいのか分からない状態で劇団にいる、という恐ろしく迷惑な存在だったんです。そもそも、切磋琢磨してコラボレーションして面白い作品が作られていくのが本当なのに、何をしたいのか分からない人がいる。なんじゃそりゃ、ですよね。
__ 
いえいえ。
木村 
本当によく受け入れてくださっていました。でもダメダメで、人としてすごく自信を無くしていた頃、増田記子さんという今も大好きな先輩が、絹川友梨さんのインプロの本を貸してくださって。それを読んで凄く感動したんですね。すぐに絹川さんのWSに行ったのが始まりです。絹川さんのワークショップで、私は私のままでいいんだ、って思えたんです。舞台というか、癒されに行ったようなものでした。
__ 
癒やし。
木村 
当時から周りに素敵な人が沢山いて、でも私はすごくダメだ、と勝手に思い込んでいて。そんな私でもいいんだって思わせてくれたという経験だったんです。
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そして、現在、トランク企画を続けているのですね。その原動力は。
木村 
何でしょうね。インプロを始めてからは、いつも目の前に階段が出来ていくんです。何でしょうね。目の前の人たちが自由になればいいなと思っているんです。自分が自由でありたいために、周りの人も自由であってほしい。自分だけ自由というのはあり得ないですもんね。たとえば、周りの人がリラックスしていたら自分もリラックスできたり。
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なるほど。
木村 
ショーは、それはそれは面白い瞬間で、みんなと積み重ねていく面白さっていったら無いんですよね。全身がワクワクする。周りもそうだと分かる。それをもっと、沢山の人と経験したいから、かもしれません。

上も下もないんです、舞台には

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インプロをご覧になったお客さんに、どう思ってもらいたいですか?
木村 
家に帰って思い出し笑いしてもらいたいですね。プププって。何かずっと思いに残るものを持ち帰ってもらいたいですね。その場で終わりじゃなくて。
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なるほど。
木村 
これはランディが言っていたんですけど、お客さんはお話を見に来るんじゃなくて、自分のことを語りに来る。自分の物語を体験しているように感じるのが一番いいんだ、って。
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個人史を語りに来る。そうですね、それが共感なんですね。
木村 
即興はお客さんと一緒に作るものでもあるので。だから、一緒に感じてもらえたらなと。客席と舞台の間の境界線が無くなったらいいのに、と思いますね。初めて絹川友梨さんに連れられてシアトルに行った時に、お客として舞台に上がったことがあって。
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お客さんを舞台に上げる?
木村 
そうなんです。一緒に舞台をお客さんとつくるんですけれど。私も「行ってきなよ」って背中を押されて。客席から舞台に上がると、そこはきっと空気が違うんだろうと予想してたんですが、いざ舞台に上がったら何も変わらなかったんです。素人だから余計に感じるのか。全然空気が変わらない。これがインプロなのかって。舞台の上も下もないんです。素敵ですよね。

質問 宮階 真紀さんから 木村 雅子さんへ

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前回インタビューさせて頂いた方から、質問を頂いてきております。宮階真紀さんからです。「好きな指はどの指ですか?」
木村 
考えた事なかったです。私の指、短いから嫌いなんですよね(笑う)。でも唯一、人と長さが同じだから親指です。

みんなと一緒に自由になれる

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木村さんは今後、どんな感じで攻めていかれますか?
木村 
そもそも攻めるのが苦手なので。どうしたらいいかな。でも、仲間が勝手に自由に感じる事が出来る場所が出来たらいいなと思います。みんなと一緒に自由になれる場所。

赤ワイン塩と、ハーブチョコレートのアソート

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今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがあります。
木村 
もうありがとうございます。私、プレゼント無いですよ?
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いえいえ。どうぞ。
木村 
ありがとうございます(開ける)あ、すごい。
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それは赤ワインの塩と、スパイスのチョコレートです。
木村 
おいしそう。小洒落たものをいっぱい知ってそうですよね。
(インタビュー終了)