「盲目の動物」
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。「ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。」のヒラタユミさんにお話を伺います。
- ヒラタ
- よろしくお願いします。
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- 先月にウイングフィールドで上演された「盲目の動物」。非常に面白い作品でした。ループとリアルの漸近。前半、ひとつながりのシーンが何回か繰り返されて、それが何回繰り返されるかは役者が任意で決めているとの事でした。演出方法はもちろん、女子中学生の痛みを伴う生き方を突き放して描く作品。非常に面白かったです。
- ヒラタ
- ありがとうございます。
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- あらすじとしては、中学生の女の子が二人いて、高校の見学会で男子シンクロの見学を見て、その1年後に同じ高校に入学するという、はっきりとは語られなかったですが、恋愛と衝動に混乱する女の子の話。その女の子二人は人間関係の末に離れていてしまうんですが、残酷だという結論に倒れることもなく、なんというか、そこにあってしかるべき湿度を感じたんですよ。「そうなってよかった」ということでもなく。
- ヒラタ
- ああいう事って結構あるよな、と思って。全く同じではないですけど。自分では何をしたか理由がわからないんですけど、なんとなく距離を取られてしまってると言うか。セリフの、「何か怒ってる?」みたいな。
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- その距離を取られるというのは、あるべきことだと思いますか?
- ヒラタ
- あって良かったなと思うのは、もっと年齢を重ねないと思えないと思います。まだ、割と地続きな感じなので。
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- 観賞魚は直接触れられると火傷するんですね。
- ヒラタ
- はい。
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- 自分が買った魚を上から見続けるというのは、彼女にとってどういう行いだったんでしょうか。
- ヒラタ
- 彼女は本当はめちゃめちゃ触りたいんですよね。でも自分がそう思っていること自体も嫌で、ちょっと気持ち悪い。物理的に触れない、餌をあげるというのが精一杯の干渉だったんだと思います。
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- なるほど。
- ヒラタ
- 魚はこちらを見ないというのが大きいんじゃないかなと思ってます。犬や猫みたいに、基本はなつかない。私のことを覚えたりしない、というのが安心するみたいな。
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- と言うか、水槽の中からは外は見えないですもんね。光の反射で。餌をあげられても顔覚えるとかはない。双方向性は全くできなかったということですね。
- ヒラタ
- しほちゃんはその双方向性が気持ち悪いなと思ってたんでしょう。こちらが一方的に見るのはいいけど向こうから喋りかけられるのは嫌だった。
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- 彼女はなぜそんなややこしい精神状態になってしまったんでしょうか。
- ヒラタ
- 何でしょうね、別に特に理由はないんだと思います。
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- そういうめんどくささの中にようやく生きている。いや、もしかしたら死んでるのかもしれないですけど。彼女はいったいなんだったんだろうか。
- ヒラタ
- 普通の、その辺にいる女の子だったんじゃないかと思います。彼女は自分に起きたことをすごく劇的に捉えているけど。それは、周りにいる人間だからこそ言えることかもしれませんが。
ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。
ヒラタユミが主催する演劇ユニットです。(Facebook公式ページより)
ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。vol.7 ウイングカップ9参加公演『盲目の動物』
ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。vol.7 ウイングカップ9参加公演 『盲目の動物』 作・演出/ヒラタユミ 2018年10月12日(金)19時〜 13日(土)13時〜/17時〜 14日(日)13時〜/17時〜 【会場】 ウイングフィールド 【出演】 飯坂美鶴妃/草間はなこ/熊谷みずほ/ しゃくなげ謙治郎(爆劇戦線 和田謙二)/柳原良平(ぬるり組合/ベビー・ピー)/横山清正(気持ちのいいチョップ) 【スタッフ】 舞台監督/長峯巧弥 照明/三孕ゆき 音響/鈴木邦拡 演出助手/横田あや 制作/平田結水 宣伝美術・フライヤー撮影/脇田友 主催/ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。 共催/ウイングフィールド
魚
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- 役者が前半部のループを繰り返すというのは、今日はこれだけ繰り返そうとかいうのを本番前に決めたりしてたんですか?
- ヒラタ
- いえ、全然決まっていません。というか、リフレイン演出をしようということは最初からは決めていなくて。自然とそうなったというか。
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- こういう演出をしよう、と企画したんじゃなかったんですね。
- ヒラタ
- 出していた指示としては「もう続けられない」と思ったらやめる、でした。ちょっと細かいルールは決めてはいたんですけど、そのジャッジは別に誰でもよくて、男の子たちがもう無理と思ったらやめてもいいし、周りの女子たちが止めてもいいし。いろんな原因やパターンがありえたんです。
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- ちょっとインプロみたいですね。
- ヒラタ
- ポストドラマって言ってしまえば簡単なんですけど、本当に自然とそうなったんです。「もうしんどいよね」となったらやめてしまう、みたい。
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- 「気が済んだらやめる」ではなく「無理だからやめる」。
- ヒラタ
- そのしんどさを発生させるために別の軸も用意していて(これはお客さんには伝わり必要はないんですが)、あの繰り返しは何かの儀式だということにしていて。その儀式をちゃんとやらないと大変なことになる。女の子が言うべきセリフを男の子が言わなきゃならなかったりで、そもそも完璧には出来ないところを無理やりやろうとしているというのを負荷にしていました。
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- その無理というのは、今考えると色々な方向に拡散してるという効果になっていましたね。
- ヒラタ
- そこに関してはディレクションをしていなくて、個々の感覚を大事にしていました。でもお互いがやったことを絶対に無視しない、ということは徹底していました。あえて無視する、というリアクションも含めて。
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- 上演の実行状況の中でしか産まれない膨らみに期待していた?
- ヒラタ
- それは本当にそうですね。今そこで起こっていることに集中することで生まれる作品でした。でも、自分としては普通のことをしてるつもりなんですよね。いつの間にやら実験的になっちゃってるんですけど、私はドラマやお話が好きなので。即興劇みたいに、またはポストドラマみたいになっていくのはちょっと違うなと思っていて。今回ぐらいの塩梅が、物語がより響くための仕上がりなったらいなと思ってます。
舞台上で素のままで
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- ヒラタさんは、役者についてどう考えていますか?
- ヒラタ
- 役を作り上げて、その役になるということには、私はもったいないなと思っていて。そのままのその人こそが尊いと思っているんです。普段、自分のままでいるということはできないじゃないですか。友達と喋ってる時にでも、そのままの自分ではないと。
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- 何なら、一人暮らしの部屋の中でさえ、それがそのままの自分の素なのかは定かではないですからね。
- ヒラタ
- そもそもそんなものがあるのかどうかという話かもしれないですけど。後天的に身についたものやもしかしたら性格もあんまり興味がなくて。今回の役者さんも、私が単に好きだから呼んだんです。何かいいなと思った人。でも、頑張って身につけたものもすごく尊いと思っています。今回は「舞台上で素のままでいて下さい」というお願いをしましたが、技術が無ければ大変なことなので。
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- そうですね、それと技術は対立するものではないですからね。
- ヒラタ
- 人前に立ってるセリフをしゃべる技術が軸にある人。
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- 仏教用語で言う本心ですかね。その人の存在や尊さが、技術と組み合わさって、または対立し合う、というところに面白さがあるのかもしれない。
最初といまと
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- ヒラタさんが作品の制作を始めたのはいつからですか?
- ヒラタ
- 一番最初に脚本を書いて演出したのは、劇団紫に入った1回生の秋とかでした。
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- なぜ書こうと思ったんですか?
- ヒラタ
- 子供の頃から漫画家になりたくて、ジャンプに投稿していたんです。それ以前に両親がアニメや映画の仕事をしているので、創作をするのが当たり前だったんです。演劇自体は小学生の頃からちょくちょくしていました。気がついたら演劇をしていました。
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- 今のテーマは何ですか?
- ヒラタ
- 当たり前のことなんですけど、自分のしたいことをして、したくないことはしない、ということを考えています。「盲目の動物」に絡めると、主人公の女の子は自分のことしか考えてないですけど、そればかりだと自分が本当は何がしたいのかを見失うような気がしていて。「自分はこれがしたい」というのをちゃんと感じ取れるようにしたいです。自分が自分でいないと、自分の周りの人もどうしているのかわからなくなる。人見知りだと言うことにしていたんですが、そういうことじゃないな、と最近思い始めています。
示唆と、視差
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- 稽古で気をつけていることは何ですか?
- ヒラタ
- 役者さんに質問をすることが多いんですが、聞いているこちらがフラットな状態であるように注意しています。そうしないと、聞いても何もならないことも多いので。あと、稽古をただの本番のための練習にしたくなくて。その日の稽古はもう二度と訪れない、後々振り返ったら人生の中で一度しか訪れなかった時間、になるかもしれないので。
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- 役者に方向性を示唆したりとかはしないんですか?
- ヒラタ
- なるべく言わないようにしています。こうなってほしいなと思ったら、その人がそうなるための状況を作るためにいっぱい聞く、ということをしていました。
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- うまくいきますか?
- ヒラタ
- うまくいっているときもありましたね。ただ、ささやかなことです。例えばこのセリフは、その場にいない役に向けて喋ってみてください、だったりとか。その役の人は本番では舞台の上にはいないけど、例えば反応を返してあげながら聞いてあげてください、みたいに。
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- ある視点から見れば、役者としては直接指示いただいた方が楽かもしれない。でも、そうしなければ膨らみは出ない、という考えもできる。または、そういう環境を作りながらも状況は進んでいるので、その冗長性の中にこそ可能性が埋まっているのだ、と考えることもできる。または、その角度が当初とは逸れる事自体に面白さがあるのだ、とも言える。とても多義的な意味があると思います。
- ヒラタ
- まさにその通りだと思います。完成形やゴールを定めてやって行くことはそもそも違うなと思っています。役者さんは確かに、指示を貰いたそうでしたね。けれど今回はそういうことではない、ということを説明するのに時間を割きました。
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- 目標がなければ意識の齟齬は生じやすいですからね。
- ヒラタ
- 演劇じゃなくても、そうだと思います。これは私の言葉じゃなくて、演出助手の人が言ってくれたことなんですけど、鉄棒で逆上がりができるようになるために練習をして、できるようになったということを評価する、ということを我々はやらされながら大人になってきたんですが、逆上がりができて嬉しいという気持ちのところを私たちはやりたいんですよ。
質問 泰山 咲美さんから ヒラタユミさんへ
観劇をもっと身近に
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- 今後、どんな感じで行かれますか?
- ヒラタ
- ナマモノとして、同時に私としてでもあるんですけど、演劇を見に行くということがお金持ちの趣味みたいになっていくと嫌だなと思っていて。それは単純に私が何千円ものチケット代をポンポンと出せないから、あと、演劇がなにか、特別な人にだけ楽しめるような何か、であるだけではなくて、みんなとっての生活の一部になったらいいなということを考えています。本当に何か、気軽に見に来ればいいんですよね。利益なんか度外視して全て無料で行ったらどうなるのかな、みたいなことを考えています。
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- お金が絡むとそうはいかなかったりしますもんね。
- ヒラタ
- すごく理想な話をすると、衣食住と横並びぐらいになったら。冬物のコートを買いに行くのと同じようなぐらいの感覚で。
カレンダー
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- 今日はですねお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。どうぞ。
- ヒラタ
- ありがとうございます(開ける)。カレンダー。
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- ちょっとほこりが入りやすい作りですので、時折手入れしていただければ。