演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

津野 允

演出家

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精華演劇祭Vol.9参加作品「キラー・ナンセンス」

__ 
今日は、よろしくお願いします。
津野 
よろしくお願いします。
__ 
最近は、いかがでしょうか。
津野 
最近は仕事ばっかりです。
__ 
ちなみに、どのようなお仕事をされているのでしょう。
津野 
テレビのディレクターです。夏なので、特番がどうしても多くなりますね。ちょこちょこ柳川のミーティングもしながら。
__ 
激務ですね。
津野 
まあ、慣れました(笑う)。
__ 
柳川の直近の公演と言えば、精華演劇祭Vol.9参加作品「キラー・ナンセンス」でしたね。とても良かったです。
津野 
ああ、ありがとうございます。不安になりますね、あれだけお客さんが来ないと。
__ 
あ、そうだったんですか。少なくとも、私にはとても面白かったです。
津野 
ああ、ありがとうございます。
柳川

1998年、立命館大学の学生劇団を母体に結成。洗練されたシチュエーションコメディを目指すも、良くも悪くも洗練されず「なんだかよくわからない、面白いのかどうかすら、ちょっと判断しかねる笑い」を目指す、どちらかと言えば、ひとりでこっそり観に行きたい劇団。(公式サイトより)

精華演劇祭Vol.9参加作品「キラー・ナンセンス」

公演時期:2008/3/15〜16。会場:精華小劇場。

可能な限り寄り道

__ 
「キラー・ナンセンス」は、ご自身ではどんな作品でしたか?
津野 
柳川を始めて10年になるんですけど、やっと「これが一番合うのかな」ということを見つけられたかなと思います。作っている時はいつも、それが面白いと思っているんですけど。
__ 
それはどのような事なのでしょうか。
津野 
やっぱり、演劇ってTVとは違うことをしないといけないじゃないですか。出来ないこと、してはいけないことをやるべきだと考えているんです。そういう面では、少なくとも京都・大阪を見まわした時にあまり似た道を目指している人はいないし、そんな状況の中では良く出来たなと思います。
__ 
ナンセンスでシュールな路線ですね。
津野 
ええ。言ってしまえば、簡単に笑わせようと思ったら簡単に笑わせられると思うんですけど、それじゃあ。
__ 
そうではなくって、希少価値のある笑いを目指すということですね。「キラー・ナンセンス」は、間違いなく不条理なお芝居でしたが。
津野 
どうなんですかね。どんなお芝居でした?
__ 
個人的な感想に過ぎないんですが、舞台で不条理な出来事が起こっていて、まずそれに対する説明はしないよ、という姿勢がとても明確だったと思ったんですよ。それを受け入れる瞬間がとても刺激的でした。
津野 
精華演劇祭のチラシの推薦文を、「ベトナムからの笑い声」の丸井さんに書いてもらったんですけど、すごく的を得たことを書いてもらって。「見る側は頭を出来る限り空っぽにして、かつ集中して見なければならない」。上手い事言うなあ、この人、と思いましたね。流石、その通りだと。
__ 
そういう事ですね。とても面白い体験でした。お茶の容器が変なぬいぐるみだったり、うんちが「お殿様」と呼ばれて、パンツの中から逃げ出したり。出来事自体がナンセンスで、もう観るしかないという状況でした。そこで是非伺いたいのですが、そういったアイデアは、一体どこから来るのでしょうか?
津野 
結構、書く時に後先を考えないんですよ。台本を書く時にも、スタートとゴールは決めるんですけど、僕は可能な限り寄り道をしたいんですね。上手い人は伏線を張って書くんでしょうけど。
__ 
寄り道とは。
津野 
書いている時に余計な事をいっぱい考えるんですよ。人間なんで。例えば「少年がお茶を持って入ってきた」というト書きを書いている時に、おふざけが過ぎてうっかり「お茶は白いもじゃもじゃだった」と書いてしまう時があるんです。それを消さないんですよ、面白いじゃないですか。じゃあ、それを受け入れてお話を続けたらどうなるか、と。どんどんどんどん僕が迷子になっていくんです。

丸井重樹氏を代表とする劇団。手段としての笑いではなく、目的としての笑いを追及する。

こんなんでもいいんだ

__ 
そういうスタイルは、いつ頃から始まったんでしょうか。
津野 
柳川を始めた当初は、それこそ三谷幸喜さんみたいな作品に憧れていたんですけどね。上手く複線が張り巡らされていて、最後には全てが活かされるみたいな。それに飽きて、モンティパイソンとかを見るようになったんです。見ている内に、「こんなんでもいいんだ」って思えるようになって。
__ 
なるほど。一番最初のシュールな演出というのはどんな。
津野 
昔、アトリエ劇研でやった「サンシャインボーイズ」という公演で、当初「12人の優しい日本人」をやろうと企画したんです。で、稽古を始めてみてから、どう考えてもキャストが4人しかいないことに気付いたんですよ(笑う)。4人で12人は無理だよね、と。必然的に一人が複数の役を演じる事になったんですね。でも書いていると無理が出てきて、自分で自分に話しかけることになったり、誰も舞台上にいなくなったりして。
__ 
え!
津野 
話を進めようがなくなっちゃったんですけど、もういいじゃんと。そこからはチャップリンのお話を始めたらいいじゃない、とか思って。結果的には『12人〜』とは全く別物のお話になりましたけど。でも、4、5年前から「面白いじゃんこれで」と思えるようになったんです。飽きたら、そこから紙芝居でも始めればいいじゃん。だってそうなっちゃったんだから。そうなると、舞台でお話を見せているというよりかは、僕たちがお芝居を作るまでの2ヶ月間の苦労を見せているという状態になりましたね。
__ 
なるほど。
津野 
飽きたら、別のお話を始めればいいじゃない。開き直りなんですけどね。最近はさじ加減が分かってきました。映像を使ったりして。
__ 
台本を書いている途中で飽きるっていうのがいいですね。
津野 
本番二週間前くらいに思いついたことじゃないと、僕が乗り切れないんですよ。おかげで役者は大変なんですけど(笑う)。

ギリギリの線

津野 
面白さの感覚のスピードってすんごい早いと思うんですよ。
__ 
それは、新しい芸人が現れては飽きられるまでのスピードという事ですか?
津野 
というよりは、何を面白いと感じるかっていう、時代の流れの速度ですかね。たとえばいとしこいしを見ていると、僕らのお父さん世代は凄く笑うんですよ。エンタツアチャコとか、大助花子とか。でも、僕らが見ると上手いなあとは思うけど、腹を抱えては笑えない訳で。たぶん、10年後には、若い子はダウンタウンでも笑えなくなっていると思うんですよ。
__ 
そうかも知れませんね。
津野 
今僕が、例えばシチュエーションコメディを面白いと思って作品を作っても、どこかで怖さが残るんですよ。いつまでもこれを続けていても、多分この人たちは、すぐ笑わなくなる筈だと。であれば、お客さん達が予想するよりも前に進んでいなくてはならない。と思っているのは僕たちだけなのかも知れないけど、そこに甘んじて前と同じレベルにいるのは耐えられないし、飽きるんですよ。もちろん、常に変わらないものを提供し続ける人達も素晴らしいと思うんですが、他でもない僕らが安定したものをやってどうするんだと。いつも新しい、未知のものを提案していきたいと思うんです。ぶっちゃけてしまうと、お客さんが笑わなくてもいいかなと思っているんですよ。もちろん、笑いが取れるギリギリの線を探るんですけどね。でも、僕はその線を越えてもいいかなと。それはTVでは出来ない事ですし。
__ 
「キラー・ナンセンス」は、私は十分付いていけましたが、ご自身はいかがですか。
津野 
あれは結構、考えました。大阪ってこともあったし、本番前に、大分長かったシーンや一線を越えた部分を切っています。
__ 
お客さんに見せるものとしては洗練されていたということですね。
津野 
はい。でも、僕としてはこれで良かったのかな?と思うんですよね。

サミュエル・ベケット

__ 
次回は10月だそうですが。
津野 
はい。次回は古典をやろうと思っています。
__ 
古典ですか。
津野 
ベケットという、不条理劇の先駆けと言われている人なんですが。
__ 
サミュエル・ベケットですね。
津野 
はい。参考にと思って台本を買ったんですよ。で、読んだんですけどいまひとつ面白くなかったんですね。ベケットがやったことって当時はすごく斬新な事だったんですよ。それまで演劇は何かドラマチックなものの筈なのに、何も起こらないという事を題材にしたという。でも、今そんな演劇多いじゃないですか。
__ 
ああ、そうですね。
津野 
静かな演劇と言われるものがあったりとか。今の時代で、このベケットをどう演出するべきなのか、ですよね。昔、劇研で柳川の公演をした時に「ベケットに通じるものがある」と言われた事があったんですが、読んでも「このおじさんつまんないな」と思ってしまう。でも、未だに名前が残っているという事は、何かあるんだろうなと思うんです。20世紀を代表する偉大な劇作家な訳ですから。ちょっと勝負をしてみようと思うんです。まあ、10月になってもベケットかどうかは分からないんですけど。
__ 
古典ってちょっと意外ですね。
津野 
古典はちょっとやりたいなと思っていたんです。台本書かなくていいから(笑う)。
__ 
確かにそうですね(笑う)。しかし、当時は斬新だったんですよね、ベケット。
津野 
ベケットの凄いところは、演劇に必要だとされていた部分をどんどん排除していって、役者の肉体もいらないって、口だけの芝居をしちゃった人なんですよ。役者がずっと壷から顔出してるだけだったり、女の人が土に埋まったままずっと芝居したり。そこまで行き着けるのは凄いと思うんですよ。50年代にそういう事をしたというのは。
__ 
なるほど。
津野 
でも、今見るとそれほど刺激的とは言えないですね。
__ 
今はもう蹂躙されてしまっているからでしょうね。
津野 
まあでも、僕らもそろそろ真面目にやってもいいかなと。やり方はきっとデタラメですが、僕らは10年間そのデタラメな事をやってきたつもりなので。

質問 高杉征司さん から 津野允さん へ

__ 
今日はですね、ワンパの高杉さんから津野さんへのご質問を預かってきております。
津野 
あ、高杉さん。
__ 
ええと、「グラビアアイドルのどこを見ますか? また、どこに面白さを感じますか?」という。
津野 
面白さ?
__ 
高杉さんがおっしゃるには、グラビアは時代を映す鏡であると。だから、グラビアのどこを見るかによって時代感覚が分かるだろうと。あとは、グラビアアイドルの肉体のどこを見るのかなどについても。
津野 
実は僕はずっとPLAYBOYを買い続けていて、グラビア好きだった時期があるんですよ。
__ 
あ、それでしたらピッタリですね。
津野 
高杉さんの言うてはることとは違うかも知れないんですけど、お尻を見るんですよ。歳をとったなと思いますね。
__ 
どういう事でしょうか。
津野 
大体、高校生までの男は顔を見るんですよ。で、二十歳そこそこになると胸を見るようになる。さらに行くと腰のくびれ、おっさんとなると足が綺麗だと思うようになるんですね。そういう質問じゃないですかね(笑う)。
__ 
いえ、趣旨に合っているかと思いますよ。

世間の声から逃げつつ

__ 
今後、どんな感じで攻めていかれますか。
津野 
正直、自分の作品がどうなっていくのか分からないんですよ。「これが面白い」と言う世間の声から逃げつつやっているので。
__ 
「これはどこかで同じものを見た」という感覚から逃げると。
津野 
ええ。飽きられないように、予想は裏切り続けたいなと思います。

指人形

__ 
今日はですね、津野さんにお話を伺えたお礼にプレゼントがあります。どうぞ。
津野 
ありがとうございます。(開ける)何ですか、これは。
__ 
指人形ですね。
津野 
あ、可愛い。え・・・これはどうすればいいんでしょうか。
__ 
裏にマグネットが付いておりますので、どこかに付けられてはいかがでしょうか。
津野 
ありがとうございます。冷蔵庫に飾ります。
(インタビュー終了)