劇団PASSIONE vol.35 夜想? 「0100」
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- 本日は、宜しくお願い致します。ちょっと前になりますが、前回公演「0100」、非常に面白かったです。
- 蟻
- ありがとうございます。
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- 非常にPASSIONEらしく、幻想的なのに安心して見られる、良い公演だったと思います。その公演後、芸術センターの演劇計画で演劇表現を問い直す作品群が各所で上演されていたそうですが、それらと好対照な印象がありました。ご自身では、「0100」はどのような作品だったのでしょうか。
- 蟻
- まあ、あまり実験的なものを目指そうという考えはありませんでしたね。それよりは、より演劇的なものをしっかりつくりたいと考えていました。
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- そういえば、例えばダイナミックな場面転換などすごく演劇的だったように思いますね。最初のシーンは自分の子供が通う学校にきた主婦の会話、彼女らの回想シーンから小学校のクラス風景にスライドしていって、そこから現在と過去と妄想とが混ざり合う。
- 蟻
- そうですね。シーンの繋ぎ目をスムーズに、主人公の描く妄想の世界との境界をなるべく無くしていこうと思いました。
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- PASSIONEの魅力が見やすく表現された、丁寧な舞台だったと思います。キャストでいえば校長役の胡蝶さんの凛々しさがよく出ていました。
- 蟻
- ありがとうございます。
劇団PASSIONE
1997年結成。京都を拠点に活動する劇団。寓話的世界を描きながらも、不思議な現実感の後味を残す作品が特徴。激しさと寂しさの同居する、万華鏡のような世界観。
劇団PASSIONE vol.35 夜想? 「0100」
公演時期:2009年8月29〜30日。会場:人間座スタジオ。
演劇計画
京都芸術センター主催。関西のみならず、広く全国から演出家とその作品を募り、上演を含めた育成プログラムを展開する。
胡蝶侘助氏
劇団PASSIONE団員。俳優。
リールイ氏
劇団PASSIONE団員。俳優。
夜想シリーズ
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- PASSIONEがこれまで続けている夜想シリーズ。とても幻想的な作品群ですよね。
- 蟻
- 演劇的・実験的という言葉にすると矛盾して聞こえるかもしれませんが、芝居のなかでは使いにくい題材や素材を、演劇的な表現のなかで使ってみたいという欲求があったんですね。それが形になったのがこのシリーズですね。
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- 前々回公演「バオバブ」を観て思ったのは、大人が見ても子供が見ても十分に判りやすく楽しめるんじゃないかなと。
- 蟻
- 子供には、どうなんですかね。
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- 私が思うに、構成がしっかりしていればある程度複雑なものでも子供は理解してくれると思うんです。ここで言う構成というのは、それこそショーの理論で。私はPASSIONEの演出は、その辺の構成がすごくよく出来ていてとても見やすいと思うんです。
- 蟻
- ありがとうございます。
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- 「0100」も、ダイナミックだけど丁寧で、とても演劇的な引き込まれる展開でした。だから見やすいし、面白い。子供だったら受け止めやすく見てもらえるではないかと。
- 蟻
- まあ、子供っぽいものを作ろうと言う考えではないんですけど、ただ、身体感覚に忠実にものを作ろうと思っています。話も、飛びたくなったら飛んじゃう。台本も、第一稿は起承転結も辻褄も無視しますから、ひどい出来です。役者は「これでいけるのか?」と思ってるんじゃないですかね。
劇団PASSIONE vol.34 夜想? 「バオバブ」
公演時期:2008年7月18〜20日。会場:東山青少年活動センター。
アナログであること
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- さて、最近のPASSIONEの作風はどのように変わっているのでしょうか。以前と比べると、歌とダンスが減ったのかな? と思う事があるのですが。
- 蟻
- 色々、やりたい事はありますがこだわりはありません。歌も踊りもパフォーマンスも、面白いアイデアが出れば使います。「0100」では、トイレットペーパーを使ったパフォーマンスとか。最近はサンドアートをよく使ってますね。
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- サンドアート。あれは面白いですね。
- 蟻
- ああいう要素が増えた分だけ歌と踊りが減ったんですね。ただ、取捨選択している訳ではないです。演劇的なものを目指すと同時に取り入れられるものは取り入れて行こうと。
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- 常に新しい方法を探る。
- 蟻
- 作品に取り入れる条件としてはアナログ的である事です。たとえばPCで作った映像を流すとか、そういうものにはあまり興味を覚えないですね。デジタルだと、事前に作ったものや出来あいのものを流すだけで、それはただ決まったシーンであるだけだと。そういうものはあまり、やりたくないなと思います。
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- 「バオバブ」で初めてサンドアートを見たんですけど、あれは凄いですよね。OHPの上にガラスと砂が入った額縁を乗せ、黒幕に投影するだけで絵が出来る。手で砂を撫でると影が変化し、人の横顔が全身になり、額縁を回転させると山々になる。モノローグと一緒にされていましたが、これは実際に見た方が良いですね。あの面白さは中々説明出来ない。どなたが考案されたんですか?
- 蟻
- あれは僕が、やってみたいなと思って。ウチの劇団はまず脚本ありきではなく、やりたい事が先にあるんですよ。最初の一ヶ月とかは、そういう実験の時間ですね。ただ、最近稽古場が無くなってしまったので、これからどうするか考えないといけないんですが・・・。
得たり得たり
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- 「0100」で、すごくよく出来ていたセリフがあって印象に残っています。リールイさん演じる少年が、自らの妄想の中で国王の嫡男となり、そこで王宮の関係者の関心を買う行動をするたびに言うセリフが「得たり得たり」と。あれは良かったです。
- 蟻
- あ、それはよかった。
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- 誰からも相手にされない少年が現実の不安から逃れようと、精神のバランスを取ろうとして生み出した妄想の世界。そこで取る行動が他人の歓心を買う事で、その信用が一つづつ積み重なっていくごとに「得たり得たり」。まさに悪役のセリフでカッコ良く、同時に共感を呼ぶ。情感があって、憎めないんですよね。
- 蟻
- いじめられっ子をヒールとして描いて見ようと思ったんですよ。演劇的に書こうと思ったら、あの少年を徹底的に悪役にするか、もっと可哀想にするべきだったんでしょうけど、わかりやすい型にはめたり役割を与えると、そこで終わってしまう。逆に言うと、台本で人を型にはめずに、かつ共感できるものとして描けたら脚本としては成功なのかなと。
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- 既存の仕組みによらない。
- 蟻
- 物語の構造に綺麗にあてはめるのが目的じゃないんです。そこで生きている人たちに近づいて行ければ。
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- それは、アナログの手法にこだわるという事とどこかで通じているのでしょうか。
- 蟻
- そうですね。
振り向くんだ
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- 蟻さんが演劇を始めて、今続けられている結局のところの理由とは。
- 蟻
- たどり着けないから、ですね。一番最初は気持ち良くなりたかったからなんですよ。でもやっていくと、その時に想像していた気持ちよさからどんどん離れていく。
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- 経験とともに上達していく内に、ハードルが高くなっていく。
- 蟻
- 気持ちよさを求めて、感覚に忠実に作品を作っていくと行き止まりが来るんです。人間は結構バカだから、感覚だけを頼って創造していてもやはり破綻するんですよね。それが面白くなくて。例えば、ハリウッド映画のつまらなさって、絵コンテ通りにできてしまうことだと思うんですよ。誰かの指示通りにCGで出来てしまう。
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- 現場の工夫や遊びが入る余地がなくなる。
- 蟻
- そうそう。香港映画となると当然そんな予算も技術もないからワイヤーアクションで何とかしようとする。でもワイヤーアクションには見えないように作りたいわけじゃないですか。ここで、そのシーンで見せたい本質的なものは何かを問い直す作業がもう一度生まれるんですよね。
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- 手間がある分、何がやりたいか今一度振り向かざるを得ない。
- 蟻
- CGだといきなり、何がやりたいのかわからないままに人を飛ばせるんです。飛んでる時のいつ落ちるか分からないスリルを見せたいのか、風を切る感覚を見せたいのか、そんな議論がされずに済んでしまう。でも、制限のなかで工夫を重ねるうちに磨かれるものもあると思うんですよね。舞台の面白さもそこから発生すると思います。
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- 舞台は物理的な制約が多いですからね。
- 蟻
- 最初のインスピレーションだけに従って創作すると、自分自身が本質を見失ってしまう。それは良くなくて。当初のイメージがなぜそういうベクトルをもっているのかを見直す作業をするんです。しながらも、身体感覚には忠実にという感じですね。
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- そこに辿り着けないから続けていると。
- 蟻
- まあ納得いかないですからね。今の段階でいくらでも改革の余地はあると思います。とにかく、お話の部分は丁寧に。表現の部分は失敗を恐れずに色んなものを取り入れてやっていきたいなと思います。
もっと演劇っぽく
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- PASSIONE、今後どんな感じで攻めていかれるのでしょうか。
- 蟻
- 夜想シリーズである程度、やりたい事・出来た事・課題が見えてきたと思います。それから、個人的な方向性としては実験的なものよりもお芝居をやりたいなと。芝居っぽいものを目指して行こうと思います。
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- 課題は。
- 蟻
- 今の僕らの感覚というのはどこか、簡略化する力が強すぎるんですよ。世の中、物語が溢れているんです。雑誌や町中で目にする広告にも物語がある。セリフの2・3言を聞けばこういうことなのか、と想像がついてしまう。そんな中で、僕らはどんどんバカになっていってるんじゃないかと思うんです。
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- 物語が飽和して無感覚になるということでしょうか。
- 蟻
- 確かにある程度見えるけど、上っ面を舐めているだけで分かった気になってしまう。オープニングとエンディングだけ見て、その間を見ずに済ませてしまえるような感受性が出来ている。その途中の過程を省略して、空気は体験出来ないのに。過程を味わい、感動する、そういう体験がおざなりになってきているような気がするんです。
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- だから、より芝居っぽいものを提示するんですね。
- 蟻
- 確かに結果だけ見ると、どの芝居を見ても似たような話です。でも、その間にある空気なり表現の可能性なりをどれだけ提示できるか。個人的には奇抜さを追い求めるよりは、丁寧に演劇での物語のあり方を追い求められればと思いますね。
質問 樹木 花香さんから蟻蛸蛆 さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、子供鉅人の樹木花香さんから質問を頂いてきております。「面白いと思う芸人は誰ですか?」
- 蟻
- 芸人とはちょっと違うかもしれないですけど、イッセー尾形さんです。
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- どんなところが。
- 蟻
- しょぼくれてる人を演じる芸風ですかね。一人芝居のオムニバスで、場末のバーテンとか喫茶店の店長とか、シチュエーションを決めてやるんですけど、しみったれたキャラクターに人間性を感じるんですよ。面白かなしいというか。そうなってしまう人間の悲しさみたいなのがいつしか見えてくるんです。
子供鉅人
2005年、代表の益山貴司、寛司兄弟を中心に結成。奔放に広がる幻視的イメージを舞台空間へ自由自在に紡ぎ上げる。(公式サイトより)
秘密の劇団
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- 少々伺いにくいことを・・・。実は私、このインタビューの前に知人たちと話していたんです。そこで、PASSIONEの演出の方にインタビューしに行くと言ったんですが、なんとそこにいた全員がPASSIONEの舞台を見た事がないと。名前を知ってはいるが見た事がない。それを聞いて私、悔しかったんです。
- 蟻
- 僕も悔しいです(笑う)。
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- 知られざる劇団、と言って良いのでしょうか。でも、実際は非常に面白いし、お客さんも沢山入ってるし。
- 蟻
- その辺は脚本・演出として思うところもあります。が、必ずしも望んで知られざる劇団になっている訳ではないんです。
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- もっと沢山の人に見て欲しいですね。
- 蟻
- 見て欲しいですね。お客さんを増やす努力をもっとしないと。
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- まあ、個人的には、PASSIONEという劇団を自分だけの秘密にしておきたいという気持ちもありますが(笑う)。
- 蟻
- (笑う)僕としてはもっと沢山のお客さんに来て欲しいですね。
夜想と町
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- 蟻さんは今後、どう攻めていかれますか? 次以降、表現してみたい世界観ですとか。
- 蟻
- 全く具体的じゃないんですけど、町が何故出来ているのかという事を考えますね。
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- 町が。
- 蟻
- 最初は人間が集まって役割分担を始めて、村が出来て町になると。何となくそういう流れだと思うんですけど、人が一人でいるという事と、集団でいるという事の間に何かしら不思議な、良く分からない違いがある気がして。そこらへんは作品を書く上での原動力になったりします。もうちょっとミニマムに言うと、僕がいて君がいて、人と人の間に働く引力と斥力。それは毎回考えているテーマですね。
飾れる栓抜き カラス
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- 本日はですね。お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。
- 蟻
- ありがとうございます。これは毎回ですか?
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- ええ。
- 蟻
- 大変じゃないですか。
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- いえいえ。どうぞ。
- 蟻
- ありがとうございます。(開ける)これは。
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- カラスの形をした、栓抜きですね。
- 蟻
- カラスというか、九官鳥というか。
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- 普段使いにして頂ければ幸いです。