「漂泊の家」シリーズ総集編「八月、鳩は還るか」を終えて
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近は、どんな感じですか?
- 柳沼
- 公演が終わって、残務処理に追われている感じですね。あと、7月にアトリエ劇研での公演がありますので、そろそろ準備していかなきゃなと。
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- どのような作品になるのでしょうか?
- 柳沼
- そうですね。また中長期的な作品になるかどうかはわかりませんが、じっくりと取り組むための種のような作品に出来ればと思います。ですから、なるべくシンプルな作品にしようと思っています。
烏丸ストロークロック
1999年、当時、近畿大学演劇・芸能専攻に在学中だった柳沼昭徳(劇作・演出)を中心とするメンバーによって設立。以降、京都を中心に、大阪・東京で公演活動を行う。叙情的なセリフと繊細な演出で、現代人とその社会が抱える暗部をモチーフに舞台化する。(公式サイトより)
「八月、鳩は還るか」
烏丸ストロークロックが2010年までの5年を掛けて創作したシリーズ「漂泊の家」。この作品はその総集編。公演時期:2010年3月5日〜14日。会場:アトリエ劇研。
時間の厚みが見える
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- いるのかいないのかも分からない「岡田ケン」という男の半生を追った、「漂泊の家」シリーズ。C.T.T.などで上演を重ねて来たのがついに完結を迎えました。前回公演「八月、鳩は還るか」。ご自身ではどんな作品でしたか?
- 柳沼
- 宣伝の上では5年間の集大成とか言ってたりしたんですけど、僕自身は全くそんな実感はありません。やっぱりお芝居ですから、公演の為に一から、がっつり作ったという感じです。でもご覧頂いた方のお話では、取り組んできた時間の厚みだったり層を感じられたみたいで、やっぱり出るんだなと。
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- 先入観があるのかもしれませんけど、重厚な雰囲気と迫力があったと思います。初めての方にも伝わったんじゃないかと思いますよ。
- 柳沼
- やっぱり作品を作るのって時間を掛ける必要があるんですね。これが小劇場というジャンルだから珍しいのかも知れませんが。
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- 一つの作品を完了させるのに、5年。諦めたり逃げたりせず完結させるってとても勇気のある事だと思います。しかも、一回一回が大変な演劇で。
C.T.T.
C.T.T.とはContemporary Theater Trainingの略で「現代演劇の訓練」を意味する。1995年に京都のアトリエ劇研で発足し、70回以上の上演会を行う。現状、3カ月毎の上演会を予定。(公式サイトより)
八月の会
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- 今回個人的にとても印象的だったのは、八月の会のどことない気色悪さで。よくもあんなシーンを演出したものだと。
- 柳沼
- 見る人によって、八月会というコミュニティーの印象ってかなり変わるようですね。実際、あれが素晴らしいという方もいらっしゃいましたし。僕自身もある理想をもって八月会を作りました。社会問題になったコミュニティーを題材にしているんですけど、それを気持ち悪いと思うか素晴らしいと思うかは人それぞれだと思います。ステレオタイプで見たらコミュニティも、宗教も印象は良くない。
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- 宗教についての悪印象は、ネットの普及でこの10年で一気に広がりましたね。社会悪として認定されそうな勢いです。
- 柳沼
- そういう評価は確かにあるとして。でも、そんなのって家族も一緒じゃないですか。人んち行ってご飯お呼ばれしたときに、「この家気持ち悪いわ」とか思うのって、しばしばあるじゃないですか。逆に、初めての集団の中で居心地の良さを感じる事もある。千差万別なんですよね。
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- ええ。
- 柳沼
- 今回描きたかったのは、少なくとも自分たちは高潔であると信じている人々なんです。それは、劇団というものにも言える事なんですよ。
八月の会
「八月、鳩は還るか」に登場する架空のコミュニティ。
だから演劇や劇団が好きなんです
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- 確かに劇団もコミュニティの一つですね。いわゆる批判されたり、かと思うと憧れられたり。
- 柳沼
- 僕は、その劇団のちょっと気持ち悪い感じが大好きなんですよ。
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- というと。
- 柳沼
- 出演者の人やお手伝いしてくれた人、みんないい大人なんですよ。仕事休んで平日の真っ昼間に集まって大道具を作ったりするんですよ。真剣に。作品を作るって何の補償もないし、今作ってる舞台セットだって自分達が作った事は誰も証明してくれない。のに、こんだけ一生懸命作ってる姿って、美しいなって。じーんときて、帰りに鴨川のほとりで泣いちゃったんですよ。
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- なるほど。
- 柳沼
- 僕が頑張るのは当たり前ですけれど、この作品に参加した事を残すために釘一本でも打ってくださいとは呼びかけましたが、作業にそんなに積極的に参加してくれて。どうやったらリアルな壁に見えるかとか話し合うんですよ。各々が工夫して作業に当たるんです。これ気持ち悪いし、美しいんですよね。だから演劇や劇団が好きなんですよね。そういう姿を、八月の会に逆に投影してみたかったんです。
「ザ・悲劇」
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- この芝居、岡田ケンの半生を八月の会メンバーが演じる劇中劇がありました。そのタイトル案が「漂泊の家」か、「ザ・悲劇」。この「ザ・悲劇」を出すというのが面白かったですね。ふざけたタイトルじゃないですか。
- 柳沼
- そうですね。
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- でも、それは会のメンバーが岡田ケンの物語への客観性を失っていないことの証拠で。完全に岡田ケンの世界に没入している訳ではないというストーリー上の宣言だったと思うんです。
- 柳沼
- 岡田ケンを神格化しないというのはちょこちょこ混ぜてましたね。みすぼらしいって表現したり。ケンの不幸に対しても、みんな感情移入するだけじゃなくて冷静に受け止めているんです。
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- 岡田ケンは神ではなくあくまで、一人の人間である。
- 柳沼
- 岡田ケンの遭った不幸って、誰にでも起こりうると思うんですよね。でもそれを不幸だ不幸だと評価するのではなく、まずみんなで認識しようと。今回一番大きなキーワードは相互認識だったと思うんですよ。お芝居の中で、良子役の阪本麻紀が「ケン君は私の話を聞いてくれた。だから私も聞かなくちゃって思った」と言うんですが、まず相手を受け止めようと言う姿勢ですね。理解出来ないと決めつけるんじゃなく、まず話を聞こうと。これは劇中だけではなく、稽古場でも行われていたことで。非日常的な、利害を越えた所での相互理解って、貴重な事なんじゃないかと。
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- 人間同士の相互理解は、まず相手を受け止める事から始まる。
- 柳沼
- これから演劇活動を行うに当たっても、まずは相手を評価したり総括するのではなく、認識をしなければならない。その認識のあり方を知ってもらうために、舞台を作るというのが僕の使命じゃないかと思っています。
阪本麻紀氏
烏丸ストロークロックメンバー。俳優、音楽、制作を担当。
一線を超えた仲間
- 柳沼
- 演劇って、別にブームにはならなくて良いと思うんですよね。生活を豊かにするために、細く長く続いてくれればと。また、演劇は、芸術性だけでは語れないぞと。
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- 演劇は芸術からはみだしている?
- 柳沼
- 90年代からもう、趣味嗜好って完全に個人化しているじゃないですか。人は人、俺は俺って、ともすれば自分の世界を確立しすぎているんじゃないかと。そうじゃなくて、お互いへの認識をしていったら僕たちは孤独なんて感じないよと。実際僕は、今回の作品のメンバーと頻繁に電話したり飲みに行ったりするわけじゃないけど、でも、久しぶりに会ったりするとニヤニヤしてしまう、元彼元カノみたいな、ある一線を超えた仲間なんです。そういう関係そのものに興味があります。
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- 一緒に芝居を作ったら、仲間ですもんね。確かに、他では絶対出来ない信頼がありますね。
- 柳沼
- しかも、そういう関係を目撃したお客さんもいる。来てもらえた、さらに面白いと言ってもらえた。こんなに幸せな事って他にないじゃないかと。だからみんな、一緒に演劇をやって、良い作品を作りましょうよと言いたいですね。
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- そうですね。もしプロになったりしても、雰囲気を失わないでほしいなって思います。
- 柳沼
- 粛々と作品づくりに臨みたいですね。長く続ける為に。
語るための演劇
- 柳沼
- 演劇でどうかなるってぜんぜんイメージ出来なくって。劇作家だったら他に書き下ろしたりとか、大学の先生になったりとか。俳優だったらテレビに出たりとか。・・・どれにもあまり興味持てないんですよね。
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- 自分達の世界をもっと多くの人に見てもらいたいというのが、そんな人達の根本的な動機だと思いますが・・・。
- 柳沼
- それを否定するつもりはないですが、違うやり方もあるんじゃないかと思うんですよね。小劇場はまだニーズを掘り出せていないだけで、必要とする人たちはたくさんいるんじゃないかと思うんですよね。嫌いな人はもちろんいるとしても。
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- というのは。
- 柳沼
- 現代の生活で違和感を覚えている人は沢山いるわけでしょう、不満を抱える人が。
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- マスメディアの娯楽消費だけでは満ち足りていない筈の人々がいる。
- 柳沼
- 演劇、特に小劇場演劇がそもそも社会に対するアンチテーゼから始まっているわけですから、そういう人たちにどんどん演劇という媒体を使って、生でお客さんに見せて訴えてほしいと思っています。確かにマスメディアやインターネットに比べて、観ている人は少ないけれど、これらが情報の共有であるのに対して、演劇は時間と空間、それと感覚を共有できる希有な場所です。この媒体を使って、今まで演劇を知らない人にどうやって関わってもらうかを考えています。
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- 具体的に、どのような人々が。
- 柳沼
- 特に興味があるのは、団塊の世代より上の方々ですね。そのあたりの方の話しを聴きたいし、舞台の上で語ってほしいと思っています。年表と年表の隙間にいるはずの、メディアで語られないささやかな個人が、個人の目線で戦争や高度成長などについて語るんです。テレビや映画のネタにはならない題材と、それらでは実現できないやり方で、過去を切り取っていきたいと思っています。
質問 HIROFUMIさんから柳沼昭徳さんへ
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- 前回インタビューさせていただきました、役者のHIROFUMIさんから質問を頂いてきております。1.役者の個性についてどう思われますか?
- 柳沼
- 僕は、無意識なところにしかないと考えているんですよね。あまり上手な役者を使おうとは思わないのは、魅力が意識化されているから。この人下手やなあというのが面白いなと。舞台に上がった途端チック症になったりとか。
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- 2.どういうキャラクターの役者が好きですか?
- 柳沼
- 2つあります。もの凄く頑張る人・・・下手やのに、練習しまくってそこを乗り越えられる人。
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- セリフがちゃんと言えるようになれる人ですね。
- 柳沼
- 今回出ていた犬飼君。彼はクセが強いし、いわゆる器用ではない。でもそこを克服しようとして作り上げて稽古場に持ってくる。カッコええなと思いますね。
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- もう一つのタイプは。
- 柳沼
- 何を考えているか分からない人・・・特に頑張らなくともお客さんが身を乗り出して聞きにいく人です。得やなと思いますね。
演劇の神様
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- 今後、どんな感じで続けて行かれますか?
- 柳沼
- 演劇の神様っていると思うんですよ。良い作品を作ったら、お金が還ってくるという事はないですけど、もの凄く良い気分になれる。それは、こちらが作った作品をお客さんにきちんと受け止めてもらえるから。だから、この舞台をまず認識してほしいですね。感動しなくてもいいから、まず。
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- 舞台を見てもらう幸せですね。
- 柳沼
- もちろん良い作品を作らないと見てもらえない、そうじゃなかったら続けられないので。作る人・出る人・見る人が全員幸せになるような、良い作品を作れる限りは続けられると思います。
ファイルボックス
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。
- 柳沼
- おっ。いいんですかね。包みを見るだけでうれしくなりますね(開ける)。あ、かっこいい。これに5年間を詰めます。