演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

山本 握微

演出家

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普通による芸術‐普通芸術

__ 
今日はどうぞ、宜しくお願い致します。最近はいかがですか?
山本 
今、ここFLOATで展覧会をやっています。簡単に言うと、僕が考えていることをまとめた文章を飾っているんですけども。
__ 
前回の公演の時も展示されておりましたね。新しい劇団の形を色々提示するみたいな。
山本 
今回はそれだけじゃないですね。共通するのは、特別な技術がなくても芸術を生み出すことが出来るという、普通芸術の考えで展示を行っております。
__ 
普通芸術とは。
山本 
例えば一般的な会社員として働きながら生活しながらでも、作品を作り発表する事は可能だと思うんですね。もしそこに金銭のやりとりがなければ、もっと自由に出来ると思うんです。
__ 
そういえば、前回公演「街街」も無料でしたね。
山本 
はい。芝居を観に行くとお金が掛かるし、となると選ぶ側としては好きなものしか観たくない。やってる側も選ばれている以上は、期待されているものばかりを提供しようとすると。そういうあり方に疑問があるんです。
__ 
今日は、そのあたりも伺えればと思います。
FLOAT

大阪市西区安治川の展示スペース。

『街街』(まちがい)

__ 
前回公演「街街」、非常に面白かったです。メタ的なネタがたくさん出たり、言葉遊びがふんだんに用いられていたりと、刺激的な作品でした。前半の終わりでタクシーを呼んでましたよね。あれはタクシー会社との打ち合わせはあったんですか?
山本 
ないですね。幸い本番の時はすぐ来たんですよ。リハーサルの時はすぐこなかったりしていたんですが。慣れてきてくれたみたいですね。
__ 
どこを走っていたんですか?
山本 
いや、近所の小学校までです(笑う)。
__ 
タクシーに乗り込んだ時の格好良さとドライブ感は印象的でしたね。そうそう、キャストの女性5人が皆チャーミングでした。どこから集められたんですか?
山本 
いやー、必死な営業活動です。毎回毎回、神の配剤があって。ありがたいことです。
劇団乾杯10周年記念第10回公演『街街』(まちがい)

公演時期:2009年5月23〜24日。会場:FLOAT。

演劇って何だろう

__ 
「街街」、メタ的な手法もあり、創作作品として非常に挑戦的なものだったと思います。ご自身の手ごたえとしてはいかがでしたか?
山本 
実はメタ手法で演劇を壊したいとか、そういうつもりもないんですよ。例えばあの作品の後半で、3次元から2次元の漫画、2次元から1次元の小説へと登場人物が移っていくという展開があったんですが。
__ 
ええ、敵の忍者から逃げるために。
山本 
あれは、演劇って何だろうと考えるための実験だったんですよ。観るにしろやるにしろ、目前で行われていることを検証しようと思った。演劇って何の疑いもなく3次元で行われていますが、どんなもんかと確認したかったんです。演劇という手法の再確認ですね。
__ 
なるほど。

出会い系芸術

__ 
さて、先ほどおっしゃった普通芸術。そういった挑戦的な姿勢で作品を作られているのはどのような理由があるのでしょうか?
山本 
関西小劇場がいけすかない奴らばっかりだからですね。作品は面白いですけど、公演スタイルだけみたらダメダメやなと。
__ 
というのは。
山本 
例えば、劇団乾杯がもっと武闘派だった頃は打ち上げというのを一切やらなかったんですよ。あえて。極端な話、劇以外に楽しみを作ってしまうと作品が不純になってしまうというか。僕はそういうのを出会い系芸術と呼んでるんです。実際には良い劇を作りたいと思っている一方で、単に演劇人的な振舞いをしたいという気持ちがあるんじゃないか。これは色んな業界で起こる現象だと思います。筒井康隆の「文学部唯野教授」みたいな。
__ 
文学部で、研究評論そっちのけで学内政治ばっかりやってましたね。
山本 
ブログで「今日は誰誰と飲みに行きました」とか書いたり。単にみんな寂しいのかなと思いますね。副次的なそういう部分に重きを置いていると、いつか矛盾が生じてくるんじゃないかと。
__ 
語弊がある言い方ですが、ストイックさが足りないと。
山本 
この際そう言ってもいいと思います。もっと、真摯に作品に向き合っていけるんじゃないか。今のままだと、仲間や友達の内輪業界だけで演劇が終わってしまう。外開きの、もっと気軽に見に行けるような雰囲気を作っていけたらと。

佳作は諸悪の根源

__ 
劇団乾杯としては、今後どんな感じで。
山本 
今後の予定は一切なしでございまして。毎回そうなんですけど、それも一つのストイックな(笑う)。「やりたいな」「やらなあかんな」と思った時にやるので。さらに、その時に出演者が揃わないと出来ないと。
__ 
あ、じゃあ劇団乾杯の作品に出会えるのはちょっとレアなんですね。
山本 
あれで終わりなのかなと思われるかもしれませんね。でも、毎回「これで終わりでも良い」と思えるようにやっているので。続ける事が目的では一切ないです。
__ 
寂しいですね。
山本 
以前もそういうお言葉を頂いたんですが、次の事は想像出来ないですね。僕たちに限らず、傑作以外は上演するべきじゃないと思っているんですよ。それを佳作撲滅運動と呼んでいるんですが。
__ 
佳作撲滅運動!
山本 
一言で言うと、演劇が冴えないのは傑作が少ないからです。良くても佳作。傑作が出来なくて佳作が続くと、劇団も成長しないし観劇人口も増やせない。
__ 
それは何故でしょう。
山本 
例えば、公演中に次回公演の情報が既に決まっていたりとか、色んなお話がひっきりなしに来るって一つのステータスと思うんですよ。でも、劇団の過去の傑作を越えられるものって中々作れるものじゃない。と言っても佳作は作れる。さらに、いまの批評のレベルだとそれで評価は得られてしまうでしょう。だから、傑作が生まれる条件としては佳作は諸悪の根源やなと。駄作よりもダメやなと。どこが悪かったかって言えないじゃないですか。駄作じゃないんだから。
__ 
確かに、私もそういう作品に会うことはあります。初めて拝見した劇団が面白かったら次回公演はほぼ必ず行くんですけど、二回目が前回の衝撃を越えられるか、というのは大きなネックですね。

みんな演劇をしばらく休もう

山本 
さっき佳作が諸悪の根源だと申し上げたんですけど、それにはもう少し理由があるんです。単なる佳作では、初めて劇場に来たお客さんに観劇を習慣にしてもらえないと思うんですよ。
__ 
というと。
山本 
演劇フリークではない、初めて劇場に来たお客さんは二種類に大別出来るんじゃないか。何となく演劇の世界に憧れていて、内輪になりたい、またはなる素質を持っているお客さん。これを潜在的内輪と呼んでいます。
__ 
なるほど。
山本 
逆に、芸術なんて本当に触れた事がない人達、が実は大多数だと思うんです。本当の外輪の方がずっと多い。そういう人たちが例えば佳作を見たって次は来ないですよね。もちろんそれなりには面白かったと思うんですよ、佳作にはそれだけの力はありますから。でも肌にビリビリ来ないから次は来ないし、習慣化しない。だから、傑作オンリーでいかないと、観客は増えないんです。
__ 
難しいと思いますが。
山本 
可能でしょう。まあ、逆説になっちゃいますけど、傑作だという確信がなければやらなかったらいいんですね。
__ 
あ、なるほど!
山本 
みんな一斉に三年くらい演劇をやめて、その間働きながらネタや欲求や鬱積を貯めて、解禁になったら各カンパニーが傑作だけを上演するんですよ。しかも、無料で。とにかく多くのお客さんが来て、演劇の魅力が発見されるキャンペーンがあったら、良いと思いますけどね。
__ 
オリンピックみたいですね。
山本 
管理社会的な(笑う)。もちろん、当然、不可能だし。そういう管理に従うのが芸術かというとそんな訳ないですし。でも、傑作を作ることはそんなに難しくないはずです。たとえば、柿喰う客は傑作でしたよね。
__ 
ええ。
山本 
もちろん、個々人によって相対的な評価はまちまちですが、やっている側は絶対に傑作だと確信していた筈なんです。確信がそこかしこに溢れていた。だから傑作になったんです。で、それはきっと難しい事ではない。
__ 
確かに。あれはそういった重さを持つ作品だと思います。
山本 
佳作にはそんな力はない。やってる側の心のどこかに「これは面白いのかな」という不安を抱かせるのが佳作なんですよ。傑作を作ろうという気持ちがあれば、今の公演が終わらないのに次回公演の予定なんて軽々しく立てられないと思うんです。内輪で「次何する?」「こういうのやんねん」なんていう馴合いから次の公演が始まるなんて、違うやろと思うんです。
柿喰う客

東京の非常に勢いのある若手劇団。

立命芸術劇場

柿喰う客。2009年度に横浜、福岡、大阪、札幌、愛知などで全国ツアーを行う。

質問 浅田 麻衣さんから 山本 握微さんへ

__ 
前回インタビューさせて頂きました、京都ロマンポップの浅田さんからご質問を頂いて来ております。1.猫は好きですか?
山本 
あまり好きではなかったんですが、ここFLOATに猫が住み着いてるんですよ。人懐こい奴で。親しんではいますね。
__ 
2.大阪の演劇事情をどうお考えですか?・・・これさっき、大体聞いちゃったんですけどね。
山本 
傑作を作るために、もっとストイックになって欲しい、ですね。
__ 
3.今度、お茶しませんか?
山本 
はい、もう何回でも。全然OKです。
__ 
出会い系芸術じゃないですか(笑う)。
山本 
オチが付きましたね(笑う)。
京都ロマンポップ

京都の若手劇団。演出は向坂達矢氏。

うねりの中で

__ 
今後、山本さんはどんな感じで攻めていかれますか?
山本 
作品を作ること、見ることも当然やっていきますが、もう二つ。一つは場づくり。今構えている事務所を24時間出入り可能にしようかなと思います。もう一つの情報網作りというのは、「今行処」というメーリングリストです。これは既にあるんですけど、中々乗っかってくれないという。理念としては間違っていないと思うので、もっと検証していきたいなと思います。とまあ、何かしらは発信したいと思います。
__ 
お芝居作りとしては。もう少し何かを貯める形ですか?
山本 
まあ、うねりの中で作って行ければ。傑作が生まれる必然性に従って創作したいと思います。

PAPIER LABOのフォルダー

__ 
今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。どうぞ。
山本 
ありがとうございます。
__ 
どうぞ。
山本 
(開ける)あ、これはフォルダーですね。
__ 
硬い紙製のものです。使いやすいものらしいですよ。
山本 
ありがとうございます。職場で使います。私の方からもプレゼントがあるんですよ。
__ 
え!
山本 
これは昔、展示で「劇団差入」という概念を発表したんですが。そのTシャツです。
__ 
おお!ありがとうございます。素晴らしい。
(インタビュー終了)