演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫
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ヲサガリの卒業制作

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今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、葛川さんはどんな感じでしょうか。
葛川 
よろしくお願いします。最近は、ヲサガリの京都学生演劇祭作品に出演することになったので、その稽古を日々やっています。
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葛川さん、久しぶりの役者ですよね。どんな手がかりがありますか?
葛川 
自分の事に限って言えば、人と会話をする役って楽しいな、と。作品の中で人と会話をするというのがあまりなかったので。出てきては一人だけ喋る役とか、ずっと黙っている役が多かったんですよね。それから、出演するのって舞台監督をやるのとは違うなあ、と改めて思いました。
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セリフ、覚えられましたか?
葛川 
まだ、覚えているところと覚えていないところがあります。でもセリフを覚えるのは昔よりも早くなったと思います。責任感が変わったというところがあります。舞台監督になって外から見ていると、セリフを覚えていないと面白くはならない、と感じるようになりました。当たり前のことですけど。
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まあ、失敗しますからね。
葛川 
というか、覚えていないと稽古ができないと言うことが分かったんですよね。
企画集団FRONTIER

企画集団FRONTIERとは 滋賀県湖北地区を中心に活動する、主に演劇やコント、その他ライブを企画したりして、メンバーのやりたいことをやりたいときにやる集団です。2006年3月、長浜北高校演劇部を母体とするメンバーで旗揚げ。それから演劇したり、コントしたりしながら、のらりくらりと。2016年で10年目を迎える。ありがとう!やったね! 近年では、姉川やえの「箱庭」や、葛川の他団体への兼任所属など、活動の幅を広げる。(公式サイトより)

十中連合

京都を中心に活動する【十中連合】です。 絵本のようなSF(少し不思議)空間で観た人の心に少し何かが残るお話を作っています。(公式Twitterより)

気持ちのいいチョップ

京都を中心に活動する小川晶弘と横山清正により公演を行う企画。定期的な活動の拠点を持たない二人が役者修行のため、年3・4回公演を行うことを目的とする。様々な脚本家・演出家を招き、バイプレイヤーとしての評価は高い二人が主役を張る。それに加え、いわゆるアテ書きの多い二人が古典や既成脚本を上演したり、自らの一人芝居を作・演出するなど様々な挑戦でスキルアップを目指す演目「1000本チョップ」など、自身のイメージにとらわれない上演を目指す。(公式サイトより)

京都学生演劇祭2017 Bブロック ヲサガリの卒業制作

公演時期:2017/8/22,24,26。会場:京都大学 吉田寮食堂(京都市左京区吉田寮近衛町69)。

夢と卒業

葛川 
今回の出演者のうち、最年少が24歳なんです。私も29歳で。
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学生演劇祭、たぶん最高齢ですね。
葛川 
その人たちが何かから卒業することとか、それでも夢を持つこと、自分の足元を見つめ直すこと、などをテーマに創作しています。先に進むのか、進まないのか。企画会議の時に、うちらがやって意味のあることをしようという話になっていて。この学生演劇祭に乗っからせて、その上で大人じゃないとできないこと。それをちょっと意識してやっています。
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今回やりたいことは何ですか?
葛川 
できるだけ実年齢の役をやること。大学生の役をやっても違和感があるので。みんな経歴がバラバラなので、そういうのが滲むような事が出来ればいいなと思っています。
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夢の話になるんでしょうか。
葛川 
結果的に夢の話になるかどうかはわかりませんが、大きくはそういうことになると思います。
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何を伝えたいですか?
葛川 
いくつになっても新しいことはできる、ような気がする。っていう。月並みですけど。30歳になっても新しい事は出来ると言うことは、50歳とか60歳になってもきっと始められるし、できるんですよ。若い子には、就職活動がうまくいかなくてもまあいいか、だったり、就職活動を始めてよう、だったり。

会社を旗揚げする

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葛川さんが演劇を始めたのはいつからですか?
葛川 
厳密に言うと小学校の4年生から、英語の先生と演劇クラブを立ち上げようとなって。
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意欲的ですね。
葛川 
クラスで英語劇としてやろう、と。当時の親友が漫画を描くのが好きで、脚本を書いてもらいました。昼休みに上演したり。私はずっと声楽とピアノをやっていたので。高校では演劇部に入って、その後は映像の専門学校に入りました。
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今は、どんなお仕事をされていますか?
葛川 
3年前に「いろはにクリエイト」という株式会社を立ち上げました。これまでずっとKAIKAにお世話になっていたんです。ワークショップデザイナーの講座を受けたり、制作をしたりだとか。舞台監督でそれなりに色々なお仕事をいただくようになった時に、○○さん(お世話になった方)から「独立したらどうか」と言われて、いやあ無理っすよ、と思っていたんですが。
__ 
ああ・・・あの人、言いそうだなあ。
葛川 
「こうやってやると出来るよ」と教えていただいて。主に、演劇の人が食べていくチャンネルを増やす、みたいなことをやっています。主なタスクはワークショップやイベントの設営です。演劇はマルチタスクなので、現場では重宝されるんですよ。それと、会社を立ち上げてから気づいたんですが、法人の名義があると思ったより色々なことができるなと言う事に気づきました。様々な分野と産学連携という形の研究もできるようになるし。たとえば演劇のワークショップには学術的な裏付けが少ないという事が当面の課題で、それはいろんな方が進めているんですけど、私にもできることがあるんじゃないかな、と。
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なるほど。

大事なこと

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そのお仕事で大事なことは何ですか?
葛川 
大事なこと。利益を出すこと。あんまり出ていないんですけど。でも市場規模が広がらないと、絶対に私たちの生活は良くならない。私の頑張り次第で、私の周りの人にお渡しできるお金が変わってくるんですね。市場規模が、少しずつでも大きくならないとどうもならない。
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そうですね。
葛川 
ウチ、なんでもやるんですよ。スタッフだけではなくて。そのうえで、利益を上げるためにはどうすれば良いのかを考えています。
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利益を出すことが大事だと、いつ気づきましたか
葛川 
去年か、一昨年ぐらいです。自分で決算の書類を読んで、銀行にお金を借りたりしゃべったりするじゃないですか。最初は、私は一体何をやってるんだろうと思ってて。テクニカルスタッフでもない公演のために銀行で面談する、なんて。でも、いやいやこれは今私にしかできないことだ、数百万円のお金を借りてくるというのは今私にしかできない。書類にしたって、「今後見込まれる利益」を書かないと、お金を貸してくれないんですよね。「慈善事業ですよね」とか、「事業としては新規性があって面白いけれど、事業としては利益が見込めない」とか色々な所で言われて・・・ああこれは、ちゃんと利益を出さないといけない、と実感したって感じですね。
__ 
凄いな。銀行で利益の必要性を学ぶタイプの演劇人か。
葛川 
きっと、いっぱいいると思いますよ。

「それ」らしく言うこと、そして

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大事なのは利益を出すこと。それに気づいてから何が変わりましたか?
葛川 
あんまり良い言い方じゃないんですけど、嘘がつけるようになりました。
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ああ、良い言い方じゃないですね。
葛川 
実際は嘘じゃないんですけどね。「それらしく言う」ことについてすごく抵抗があったんですけど。これは、庭劇団ペニノの製作で仙台の企画に携わった時、あんまりで演劇に触れてこなかった人にたまたまエキストラで出ていただいたんですね。その方に「演劇ってやっぱり良いよね」「みんなで一つの作品を作るって良いよね」と言われた時、私はあんまり、うんと言えなくて。
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ああ。
葛川 
「いいでしょ演劇」って、大人の先輩みたいに言えなかったんです。良さを訴えれるみたいな。嘘じゃないけど、「良く言う」ことが得意ではなくて。でもそれはやらないといけないということに気付いて。その原因とも向き合ったり。書類を書く時とかに、ここまでは書くべきだ、でもそこまでは書かなくてよい、とか。なんとなく自分で納得のできるラインがわかってきました。上手な言い方を考えて、わかりやすく、できるだけシンプルにしてキャッチーにして、出資してくださるかもしれない方に届けるというのが私の役割なのかな、と。
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もちろんそういう悩みはあると思います。出資側にとってピタリと来るものとはなにか、なんて中々分からないですからね。でも、そのポイントは必ずあって、自分たちの中にある「それ」を探りあてて戦略を考えて表現する、という努力は絶対に叶うと思いますよ。
葛川 
そこに対して受け止められるようにはなったと思います。演出過多な文章でも、この枠組で・その目的で書かないといけないのならそうする。でも、これを読む人の目に演劇という言葉が入るというのが「してやったり」という所があります。コンサルタントとか、中小企業診断士とか、社長さんとか銀行員とか。採用できないけれども、何かを思って貰えれば。サブリミナルじゃないですけど、言葉が入っていけばいいなと思っています。学術的な裏付けがあればもっと良いですね。

暇になること

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葛川さんの最近のテーマを教えてください。
葛川 
決めないこと。暇になること。
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え。
葛川 
自分を暇にする事です。何か、積み重ねとか先の見通しとか、あった方が良いんですけど、なくてもいいやと思えてきて。来たもの・機会飛び付けるように準備をする。暇にすると言うのも、この半年で完全にテーマになりました。会社的にもそれは重要で、私が忙しいと何も出来なくなるんですね。「この話がしたいんですけど、いつ時間が取れますか?」「このシンポジウムに来られますか?」みたいな話が急に来たとして、フットワークを軽くできるには暇とお金が必要で(お金はまだないんですけど)とにかくスケジュールを空けるということを意識しています。
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それはとても重要ですよね。暇にする、か。
葛川 
仕事と現場をパツパツに入れてしまうと、動けなくなる。あと、自分の職業を決めないということも意識し始めました。「何したいの?」と言われ続けても良いじゃないか、と。舞台監督としてのスケジュールがパンパンに詰まっていてもいいんですけど、それは私には無理そうだな、と。時間に対しての決裁権を持っているということに自覚的でないと、休みの日に寝て過ごす、みたいな事になる。死ぬまでに読める本は限られているし、やりたくないことをやっている時間はないんですよね。

質問 遠藤 僚之介さんから 葛川 友理/稲荷さんへ

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前回インタビューさせていただいた、遠藤僚之介さんから質問を頂いて来ております。「自分にとっての避難場所、はどこですか?」
葛川 
避難場所…。難しいですね。お風呂でしょうか。お湯につかってだらだら本を読むと余計なこと忘れられるので。

いままで

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自分を変えた舞台。何かありますか?
葛川 
たぶんいくつかあって。TeamNACSの「LOOSER」。当時私は普通に大学に行こうと思ってたんですよ。演劇は高校で終わりにしようと思っていたんですけど、それを観て、映像の専門学校に入学しました。専門学校時代にG2プロデュースの「ツグノフの森」という作品を見て。ああ、これが私のやりたかった作品だ、これだったんだと思って。私は演出家になる可能性はあるけれども、作家になることはないんだなと思ったんです。それと、劇団ZTONのリバイバルラッシュの3作品にアンサンブルで出演することになって。それで京都に来ました。それから十中連合に出たり、そこから舞台監督をやるようになって。
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今後、どんな感じで攻めて行かれますか?
葛川 
きちんと学生すること。大学で単位を取るのって難しいですよね。ちゃんと勉強しないと。大学以外だと、今までにもまして私が何者であるかを決めないこと。舞台監督もやるし、演出もやるし、役者もやるし。基本的には舞台監督が稼ぎ頭ではあるんですけど、全部やれるのが私の強みなんだということがわかってきて。久しぶりに役者をやってみて、結構今までは手を抜いていた部分を自覚したんです。「舞台監督だし」みたいな。そういう言い訳を減らして、もう少し、丁寧に、けれど色々な所に手を出して。多方面に広がっていくようであればいいと思っています。

バスルームとWCのドアプレート

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今日はですね、頂いたお礼にプレゼントを持って参りました。
葛川 
ありがとうございます。開けても良いでしょうか。
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どうぞ。
葛川 
(開ける)え、何ですか。え、なぜこれを・・・。貼りますね。可愛い。
(インタビュー終了)