猫のいる日々
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。The Smoke Shelterの李晏珠さんにお話を伺います。
- 李
- よろしくお願いします。
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- 最近、李晏珠さんはどんな感じでしょうか
- 李
- 公演が終わって1ヶ月ちょっと経ちました。いまは家で本を読んだり映画を観たりして、次の作品の構想を練っています。
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- 演劇以外だとどんな感じですか?
- 李
- めっちゃしょうもない事なんですけど家に猫が来まして。新しい住人が増えました。結構やんちゃな女の子なので。暴れています。
The Smoke Shelter
2019年11月に立ち上げ。演劇・音楽を軸に活動。結成時の名前は「煙小屋」。少数精鋭でオリジナルのものをお届けしています。劇団、劇場という言葉を離れて、新しいフィクション体験を。(公式サイトより)
The Smoke Shelter(煙小屋)「禁欲のスモークヘヴン」
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- 禁欲のスモークヘヴン、大変面白かったです。幻想を形にする力と執念を感じました。
- 李
- ありがとうございます。
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- その具現化する力とは裏腹に、お話の世界では人がものを失い続ける様が克明に描かれていたように思います。性別が消え、人の培ってきた様々な技術が失われ、しまいには名前さえ消えてしまう。何かによって奪われるのではなく、自然と失われていくようでした。しかもそこにあるはずの悲しみや葛藤も描かれない。まず、なぜこの作品を書かれたのか是非伺いたいと思います。
- 李
- この演劇はもともと、生演奏で音楽を付けたいというところから始まりました。内容についてはモチーフがいくつかあって、神話と科学、男と女、大人と子供、それから煙。そういうモチーフから次第に「煙から名前を奪われる」という設定が浮かんで。
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- あの世界では人が死んだら煙になるんですよね。その煙は空に浮かび、なんと消えずに漂い続ける。
- 李
- 個人は亡くなって、全体に合流した後、煙として漂い続けるのが面白いかなと思って。
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- その煙が誰からも見れる状態になるというのが面白いですね。さらされている状態。
- 李
- いま言われて初めて気づきました。
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- 彼らの見ている光景が凄まじ過ぎて、でも淡々と日常は続いていく。そんな光景を再現する舞台美術と小道具、衣装を作り込む心意気に感銘しました。どのデザインもその世界を表そうと、きっと全力で作られていたように思います。
- 李
- そうですね、スタッフの皆が頑張ってくれていて。役者・スタッフを合わせてたった7人しかいないんですけど、衣装と役者を兼任していたりして。みんなのポテンシャルの高さに感謝です。今回は映像映えする舞台ですので。前編だけYoutubeにアップしてますので、みなさんによろしければご覧いただければと思います。
The Smoke Shelter(煙小屋)「禁欲のスモークヘヴン」
出演 響水、駒優梨香、李晏珠 脚本・演出 李晏珠 美術 中村日奈子 衣装・美術案 響水 照明 小野一葉 宣伝美術 佐々木水音 上演期間 2020/8/7~8/10 会場 green&garden
蛇のいる店
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- 科学者たちの苦悩に始まって、神話と幻想が介入し、終末の世界での日常生活が描かれる。煙草屋と客との会話に、現実なのか幻なのかわからない蛇が会話を挟んでくる。登場人物も、同一の役者が同一人物と思われる別々の役を演じていて、どうともとれる不確定な役どころでしたね。この世界では死者が確固とした存在で、生きている者は不確定。とても不思議な感覚がありました。
- 李
- 私が普段見ているものが文学や映画の比重が大きいので。自然と演劇にミクスチャーしたいんだと思います。あんまり演劇にこだわらないので。アニメでも漫画でも文学でも映画でも、色々なメディアの様相を別のところに持ってくる作業が楽しいですね。新しいコンテンツを作ってる感じがします。演劇なのかどうかもわからないという感じ。音楽コンサートかと思ったと言われたりとか。演劇にしては時間も短いですし、エンターテイメントとしては分かりづらい要素も多いと思いますが。
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- それは本当にそうですね。これまでに拝見した舞台とはベースの部分が違う感覚があります。だからか、誰かが成長したり幸せになったりするのではなく、ただ自分達の現実に静かに向き合う終わり方を見て新しい見識を得た気がします。終わり方としてはバッドエンドっぽいですね。
- 李
- 確かに。
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- ところで人って問題に直面すると抽象的な思考から捉え直そうとするじゃないですか。誰かのせいにしたり自分のせいにしたりして、現実の問題に向き合う前にそういうことをしてしまいがち。または何も考えないようにしてしまう。でも「禁欲」の人々は、世界が抽象的な価値から逸脱しつつある世界の中で、その流れとほどほどに付き合いつつ日常生活を送ろうとしてたように思うんです。地に足を付けて。
- 李
- いざ世界の終わりというものに近づいたときには、悲観的にならないよなあと思っていて。そんな世界の人々の営みが面白かった、というお客さんの感想が面白かったです。日常の営みというものは脚本書くときには意識していなかったんですけど。世界は今終わりに向かっていますけど、それは憂鬱なものではないんじゃないかなと思いますけれどね。
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- 科学が消えていく世界で、神話だけが根強く残り続ける。歌も最後まで残り続ける。性がないから殖える事もない。
- 李
- 科学が無くなったから世界はバランスを失って終わろうとしてしまう。神話は対立するものではないんですね。哲学は物理や数学とすごく関係していて、調べていくと研究者達の中にも有神論者と無神論者がいるんですよ。最小単位の世界を調べている人たちの中でも、神がいるという結論にたどり着く人といないと結論付ける人もいる。
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- 神に対してどうやって、どこまで語るべきなのか、具体的なものとして語るのか抽象的な議論で終わらせるべきなのか。少なくとも、人って神に対して議論出来る。そこが言葉を持たない動物とは違う。
- 李
- そうですね。いるかいないか、信じているかいないか、それが世界までも動かしてしまう。登場人物の一人、科学のみを信じるロアロアも神はいないと言いつつ蛇の声が聞こえてしまう。そこである種のカオスが生まれていく。世界観を楽しんでくれる方と、話の構造を楽しんでくれる方が両極端で面白かったです。アンケートに「世界観」っていっぱい書かれてて。あんまり意識していなかったので面白かったです。
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- 世界観を作り上げることに血道をあげてるわけじゃないんですね。
- 李
- ビジュアルを作り上げてくださってるのは私の周りのスタッフさん達なので。スタッフさんが変わったらもう少し抽象的になったのかもしれません。
性の無くなった世界
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- 物語の世界の中では男女が消えたとありましたが、。
- 李
- 女性だけで女が消えた世界をやってみたら面白いなと思って。高校生の頃に読んだ萩尾望都さんの「マージナル」が離れなかったんですね。あれは男しかいない地球の話ですけど、「禁欲」は男でも女でもないので、役者さんたちには意識しないで欲しいと伝えておきました。あんまり男の子っぽい声を出さなくていいよ、と注文を出したり。
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- そして、性の無くなった世界に未来などありませんね。
- 李
- 前回は近未来で世界が終わりに向かう話だったんですけど、今回は超未来で終わりに向かうだけじゃなくて逆に回帰していく話だったら面白いなと思って。しかもそれがあまり悲観的ではなく、社会や人間の終わりを悲観せず、始まりを感じることができたら。ちょっと仏教とか東洋思想ぽいかもしれません。輪廻転生とか、一直線ではない感じ。
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- まさに愛別離苦ですね。
- 李
- 若い人ほど、悲観的じゃない気がします。終わりと絶望って同じ意味だとよく認識されますけど、消えたら何もなくなるのかな。本当に何もかもがなくなるってどういうことなのかな。そういうことを考えながら書くのは楽しかったです。私の作品には感情みたいなのが少ないんですよ。
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- 確かに。
- 李
- 話の構造と要素がある。人物も男と女の象徴であったり、科学と神話の象徴であったり、大人と子供の象徴であったり、蛇は語り部。役割によってキャラクターができてるんですよね。人間ドラマではないんですよ。そういう要素もあるんですけど。もしかしたら水面下で語られないものもあったかもしれない。
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- 涙とか、最後に歌詞でしか出てこないですからね。
- 李
- 誰かが叫んだり泣いたりもしなければ、めっちゃ笑うこともないし。それだけで見せるというのが面白かった。
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- 私は、そうした考え方は非常に良いことだと思います。
- 李
- あまり感情が軸のコンテンツを作りたくないんだと思います。共感できるとかできないことか、あまりそういうことは気にせずに作ってきましたね。そういうのは一旦置いといて話の構造とか表現の面白さを追求していると思います。青蛇が、言葉を喋らずに歌詞を言う演技があるんです。けれどト書きは(歌詞無し)とあって、その時蛇は人間の言葉は使わないで喋っているんですね。言語になる前の言語。解体された音楽を要素として取り入れたいなと思ってそういう表現を入れました。
質問 宇野愛生さんから李晏珠さんへ
ランタイム40分は短い?
- 李
- 単純に伺いたいんですが、上演時間が40分というのは短いですか?
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- 非常にちょうど良かったと思います。長ければ長いほど良いというわけでもないので。冗長な演劇がどうこうというわけじゃないですけど。
- 李
- 最初は50分の設定で書いたんですけど、完成させてから音楽も入れると思ったより短かったんですね。まあいいかとなってそのまま行ったんですけど。
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- 観客としては、お芝居を長く見たいと言う要求は実はないんじゃないかなと思うんですよね。結局楽しめるかどうかというのは長さじゃなくて、うまく積み上げられるかどうか。積み上げた末に、演劇の一瞬にたどり着けるかどうか。
- 李
- 私の場合は短い方が得意なんですよね。短い方が密度があって面白いと思う。そぎ落として、構造的な綺麗さを見せることができればと思いながら作りました。場所にもよりますね。ゆったりした場所でお酒飲みながら観る舞台もあるし、小さい空間で集中して観る舞台もあるし。
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- 作品の内容と劇場が掛け合わさって、お客さん側に伝わる感動の型が決まっていく側面もありますよね。また、そういう式によってコントロールできない要素が際立って行くこともある。
- 李
- 舞台を見ていて、長いなと思う事もあるんですよ。体感的に。人間の集中力の限界は人によって違うので。最後までついていける体力のある人もいれば、そうじゃない人もいる。年齢的な要素もあるし。裏側の話をすると、映像が撮影しやすいというのはありますね。
The Smoke Shelterと李晏珠さん
- 李
- 実はこの度、団体名を改名することになりまして。「煙小屋」から「The Smoke Shelter」となります。バンド名みたいにしました。演劇だけによりかからずに、もっと音楽よりのことだったり、色々やっていけたらと思っています。
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- 楽しみです。前回公演の画像を見ると、色々な引き出しを持った人たちなのかなと思ってます。
- 李
- そうですね、前回の公演はもっと違うテイストでした。
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- それに、李さんのnoteを見たら恋愛青春サスペンス的な小説もあって。
- 李
- すいません、趣味の小説でしたが更新が全く途絶えていまして。
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- 更新、楽しみです。李さんが演劇を始めたのはどのような経緯があったのでしょうか。
- 李
- 今大学生なんですけど、ちょっと前までミュージカルサークルに入っていて。役者をやっていたんですが、本当は書きたかったんです。元々映画とか文学とか舞台に興味があったので。その中で手近に実現できそうなものがあればいいなと思っていました。自然と流れで舞台の方に行きましたね。
The Smoke Shelter 音楽朗読劇「天使を燃やしたキャンドル」
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- 次回は12月に新作公演ですね。
- 李
- 会場は恵文社さんです。とにかく本が好きな人間なので、楽しみですね。ちょっと文学的な、文学が好きな方が楽しめるような作品ができたらと思いながら作っています。
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- とても楽しみです。SF、超未来衰退、そして次は何をやるのか。
- 李
- はい、楽しみにしていてください。
The Smoke Shelter 音楽朗読劇「天使を燃やしたキャンドル」
2020年 12/27(日)14:00/18:00 ■「天使を燃やしたキャンドル」/掌編「Rainy Illusion」の二本立て ■恵文社一乗寺店COTTAGEにて 出演 小田恵美子/金木春奈 脚本・演出・音楽 李晏珠 衣装 響水 照明 小野一葉 宣伝美術 友野良華 公演詳細は決まり次第、公式サイトにて掲載します https://smokeshelter.jp
ルピシアの「いもくりかぼちゃ」
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- 今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 李
- ありがとうございます。あ、凄い、秋ですね。美味しくいただきます。