演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

友井田 亮

役者

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熱の残る夕方に

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今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近、友井田さんはいかがお過ごしでしょうか。
友井田 
この間の公演が終わり、少し落ち着いている感じです。8月末にユリイカ百貨店が終わって、9月末に朗読公演があり。今年はイベントの出演やTVエキストラも含めて15本出演しました。
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一年で15本、凄いですね!大変お忙しかったと思いますが、どのようにストレス解消をされてるんですか?
友井田 
予想外の質問ですね。お芝居のストレスを仕事で発散して、仕事のストレスをお芝居で発散して、みたいなバランスなんですかね。そんなイメージです。あとはテレビゲームぐらいかな。
ユリイカ百貨店

舞台/空間。​様々な場所や人と組み、その場の必然を発掘してゆきます。​物語.空間.音楽.映像、舞台経験で培ったさまざまな手法を、必要に応じて提案しながら、その場と、その人、そこと出会うみなさんとの、ワクワクを結びつけてゆくことを大切にしています。(公式サイトより)

「すべからくSUNSET」

公演期間:2023/8/24~27 会場:gallery Main

新感覚朗読エンタメ 芥川龍之介「藪の中」

公演期間:2023/9/28。会場:西宮市フレンテホール スタジオf

あのころ

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8月に出演されたユリイカ百貨店「すべからくSUNSET」が大変面白かったです。出会いと別れのロードムービーでしたね。風景がとても印象的に描かれていました。友井田さんが演じられたのは、苦境に陥ろうとも過去の夢に立ち戻ろうとする悪役でしたね。私個人としても人生の節目がありまして・・・そんな節目にこそ、自分の根本的な部分を大切にして判断しないと絶対に後悔するのかもと。そんなことを考えさせてくれたお芝居でした。
友井田 
ありがとうございます。ユリイカ百貨店に対する僕の思いという話になってしまうんですが・・・僕は第一回公演から出演させてもらっていまして。あの頃はアートコンプレックス1928で大きな舞台を組んでたくさんお客さんに入ってもらっていて。
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そうでしたよね。とても凝った舞台セットに、たみおさんの言葉を音と光で完全に伝えてくれる、幻想そのものの作品でした。
友井田 
一時期お休みしてギャラリー公演を再開し、大変好評を頂いていてとてもありがたいんですけれども、やっぱりあの頃を知っていると・・・
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スケールの大きさに圧倒されてて、思い出すと今でも鳥肌が立ちます。ものすごく細かいところまで凝っていて、不思議で可愛くて、コンセプトをそのまま形にするその表現力。個人的にも、あの時代の演劇の製作に関われたのはやっぱり大きな体験でした。
友井田 
そうですよね!ユリイカ百貨店の作品をもっとたくさんの人に見てもらいたいなという思いが強いです。郷愁になってしまうんでしょうか。4年ぶりに「すべからくSUNSET」で出演させてもらったんですが、僕もこの4年で大阪に進出させてもらい、そこで繋がれたいろんな演劇関係者にも見てもらえましたが。
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その方たちや、今の人たちにもあの時代を見てもらえたら良いですよね。あの時の我々のこだわりというのは一つのエネルギーとして生きているのではと思います。
友井田 
少し方向転換してはいるものの、残ってはいるんですよね。でも、今の若い子たちにあの頃の僕らを見てもらったらどうなるんだろう。そんなこと思いませんか?どれだけ今の関西小劇場にインパクトを与えられるだろうみたいな。
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思います思います。考えても仕方のないことかもしれないですけどね・・・あの時代でしか作れないものはいっぱいあったと思います。

一歩ずつ

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演劇を続けるのは、友井田さんにとってはどのような行為なのでしょうか。
友井田 
生きた証を残したいというところに行き着いたんです。かっこ悪く言えば褒められたい。言わば承認欲求と自己実現欲求の2つを満足させるために何ができるのかなというのを考えていて。2年間単身赴任したり、コロナの時期があったりの中40歳を超え始めて、このままでいいのか・自分が生きた証として何が残せるのかを考えて、役者活動の本格的な再開を選びました。
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何が残せるのか、ですね。
友井田 
同世代の人たちがまだまだ大阪の演劇界で活躍してるのを見て、羨ましいなと思って。僕もそうなれないかなと。
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戻ってきていただき、ありがとうございます。
友井田 
いえいえ、それまでも1年に1本くらい誘ってもらったら出演はさせてもらっていたんです。でも、もっとたくさんの人に見てもらいたい、という気持ちも強くなって。
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友井田さんは私が今まで触れてきた中で最も強烈な役者ですね。脳天気番長シリーズでの・・・
友井田 
一彦?
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忘れられないです。番長に殴られて「ありがとうございます〜ありがとうございます〜」って2回土下座して後ろに下がる演技がとても好きでした。こんな個性的な人がいるんだと思って。
友井田 
20数年前ですね。
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個性的だと申し上げてしまいましたが、そのように言われるとどのように思われますか?
友井田 
いや、ありがたいですよね。自分には個性がないと思ってるので。ただ、当時はイロモノでしたよね。ユリイカ百貨店さんに出させてもらうところから普通の人を演じることが多くなったように思います。どちらかというとはじめの頃だけだったのかもしれません。でも最近は個性を求められることが多いように思います。こないだの朗読公演ではサイコパス役をいただいて。僕の中にその引き出しがあったんです。
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それは是非見たかったです!
友井田 
その時の引き出しを開けて。どんなことやってたかなと。ケッペキの頃に「こどもの一生」で演じた殺人鬼の役が僕の個性派のピークだったと思ってます。

ギャップ・サイコパス

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サイコパスについて私もよく考えることがあります。人間誰しも「他人に理解してもらいたい・でも理解してもらえない」という葛藤を抱えるものですが、サイコパスはそこに行けない人だと思ってるんですよ。他人に自分の意思を押し付ける以外のコミュニケーションを持てない。サイコパス的なる人は視界がとても狭い(それももちろん大変な長所です)。サイコパスと付き合わざるを得ない人は、次に何をして来るか分からないので身構えて恐怖する。この反応を面白さに昇華するというのはすごいことだなと思います。どうやったら友井田さんみたいなことができるんでしょうね。
友井田 
難しいですけど、その人がやらないことをやる?普通の人がやりそうなことの逆をやる。いろんなサイコパスの道があると思うんですけど、僕がやってるのはそういうことなのかなと思います。ここで笑わないでしょ、みたいな瞬間に笑ったりとか・・・それで全体が成立するような流れができたらなと思っています。こういう人ならここで笑っても辻褄が合うだろうなみたいなところですかね。
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訳がわからなすぎて、びっくりした後に理解しようと反応してしまう。だからすごく引き込まれます。もちろん、面白ければの話ですが。
友井田 
不自然になるのも嫌だなと思っています。それではただの時々おかしなことをする人になってしまうので。この人ならそうやってもおかしくないみたいな。
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そのバランスを調整するのはどんなナレッジなのでしょうか。もちろんそこはテキストを押さえるというのが絶対条件だと思うんですが。
友井田 
難しいですね。その辺は僕の感覚になってしまうので、どういう理屈なのかというのは説明しにくいです。
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やっぱりその役者なりの人生観みたいなものが反映されるんでしょうか。
友井田 
その流れで言うと僕は普段はサイコパスではなくサラリーマンをしてるんで。一般常識的なことを押さえてやっていかないといけない。舞台は普段の社会人生活ではできないことをやれる場なので、抑えなくてもいい表現をしている、したい・・・みたいな部分はあるかもしれません。
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勝手にですが、日常があるからこその感覚があるのかもしれないなって思ったりします。
友井田 
振り幅ですね。普段の生活では見れないキャラクターや行動、ですね。

明日にでも立ちたい舞台

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次に出演されたい劇団や映画などはありますか?
友井田 
やっぱり正直に思っているのは、わかぎゑふさんのお芝居に出てみたいというのがあります。高校時代に僕が演劇にはまった方ですし。高校時代深夜にリリパットアーミーの舞台が放映されていて、今も現役でお芝居されているので・・・当時は雲の上の人だったんですが、今は知り合いが出演されてたりするのでいつかそんなことがあったらいいなと。それからヨーロッパ企画さんに出てみたいですね。元々僕はシチュエーションコメディにすごく憧れています。こんな演劇をしてみたいなという思いが強いです。去年は憧れがかなって中野劇団さんに呼んでもらえたんですがやっぱりすごく難しかったです。個性派じゃダメ、自然な演技が求められるというのが難しかったんですけれども。
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その中でどのようなクリエーションをされたいですか?
友井田 
自然な演技というのが求められるんじゃないかなと思うんですけど、僕ができるのは個性派の演技だし、良く求められているのもそこだと思うんですね。自然な演技もできるようにはなりたいなとは思っています。個性派も、めちゃくちゃありがたいんですけどね。いつかそんなお芝居に出れたらいいなと思っています。
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そうですよね。求めていること、求められていること、そして応じられないこと。どうしてもできない部分というのがあるので、どうにかして割り切るしかないんでしょうね・・・。

質問 渡辺綾子さんから友井田亮さんへ

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前回インタビューさせていただいた、渡辺綾子さんから質問をいただいてきております。「2落ちについてどう思いますか?」2落ちというのは・・・
友井田 
2ステージ目の公演の出来が悪くなる現象のことですね。理屈にかなった現象なのかなと思います。いろんな要素が絡まってると思いますが。
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1ステージ目で見えた課題に舞台出演者側が反応してしまうから、なのかなと思います。
友井田 
体力の面もあるのかなと思います。ゲネと最初の回を経て一番疲労が出るタイミングなので。やっぱりそこは役者の自己管理という部分があるし、お客さんからすれば均質な品質であるべきだと思いますし。どうしても空回ってしまうというのであれば焦らないようにするという意識が大切で、体力的な部分ということであれば体力を付けることが必要ですよね。

一流の役者

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友井田さんは今後、どんな感じでお芝居を続けられたいと思われていますか?
友井田 
それは本当に悩みどころで。2019年に一念発起して、一流の役者になりたいというビジョンを持ったんです。一流とは何かを考えたら、大阪でも活躍できていることかなとか、目標を定めて世界発信したんです。たくさんの方の協力を得て達成できたんですが、言葉はアレですがまだハネていないのではないかと思っています。さらに忙しい役者さんになったら一流なのかな、とか。もう一つは、朝ドラに出る。名前の出る役で、とか。
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なるほど!そうですね。
友井田 
それには事務所に入らなくちゃだめだと教えていただいて、所属させていただき、エキストラですけど出演できて。一歩ずつ、少しずつですけど、届いているのか分からないですけど・・・
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いえ、近づいてると思います!
友井田 
今年の目標は「ひばり教授の生命発展理論」という、たみおさんに書いてもらった作品の朗読バージョンを年内に100人の方に聞いてもらうという目標がありました。今年はまだ50人ぐらいなのでちょっと到達しそうにないんですけど。
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来年あればぜひ!楽しみにしております。

フォトフレーム

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今日はですね、お話を伺ったお礼にプレゼントを持ってまいりました。
友井田 
ありがとうございます。これは今開けた方がいいんですよね。
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開けないという選択肢もあります!今まで一度もありませんでしたが。
友井田 
家で楽しみます、みたいな。いや開けさせてください(笑う)。フォトフレームですね。
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「すべからくSUNSET」のお話から、フォトフレームか額縁をお贈りしようと決めました。
友井田 
ありがとうございます。今日は過去の思い出の話も沢山しましたしね。郷愁に引っ張られすぎるのも良くないとは思うんですけど、それが今の行動の原理とか、ポジティブなものになっているのなら、それもいいのかなと思います。
(インタビュー終了)