演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

武信 貴行

舞台映像家

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舞台映像という仕事[1]

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今日はどうぞ、よろしくお願い致します。舞台映像家の武信さんにお話を伺います。武信さんは最近、どんな感じでしょうか。
武信 
よろしくお願いします。最近までバタバタしていたんですが、先日、ようやく今年最後の撮影が終わりました。後は編集だけです。AMGという、声優タレント学科の授業公演でした。
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お疲れ様でした。初歩的な質問なんですが、舞台を撮影する場合、全てのステージを撮るのですか?
武信 
大体は2回まわしが多いです。一回だけだとトラブルがあった時のために差し替え素材として別のステージを撮影することはありますね。僕らの撮影の練習も兼ねて。
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まあ、回による出来というのもありますしね。
武信 
ありますね(笑う)たまに、編集で別の回のシーンを使うこともあります。まあまあ、しょうがないところですね。
SP水曜劇場

SP...STAGE PEOPLE。毎週水曜日午後8時より、演劇人珠玉のパフォーマンスの数々を大阪・中崎町の天劇キネマトロンからUSTREAMにて 配信中。(公式サイトより)

今、手が届く距離にかの人がいる事

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舞台映像を編集するのは、きっととても楽しいんじゃないかと思うんです。演劇作品を映像という形式に移し替えるという、それはそれは難しい作業。きっと、文脈を押さえながらでないと出来ないですよね。きっと、かなり文学的な素養が必要なんじゃないかなと思っているんですが。
武信 
うーん、そうだと思います。僕が客として見た時の、物語の受け止め方を出来るだけ再現していこうと思っています。あんまり客観的にやりすぎると、機械的に映っているだけのものになってしまうんです。淡々と映されているだけじゃなくて、責任を持って誰かの手で再構築したものじゃないと、舞台の持つ「生の良さ」が落ちたものでしかないので。つまり、僕の方に引き寄せたものにはなっちゃいますね。
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演劇をメディア化すると、それは「生の良さ」が落ちたもの、である。確かに、芝居を観客席で見るのと画面で見るのとでは全然違いますからね。それは、ずっと引きの画面で客席後方から撮影した映像と実際に客席後方にいる場合でも、やはり違うと考えています。
武信 
そうです。
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客席にいるのであれば、視覚と注意力と空間把握を総動員すればクローズアップ出来ますからね。照明が照らされている舞台上ならなおのこと。映像だと視界のサイズが同じでも出来ない。そして、単純な映像としての見え方以上に、透過光か反射光かで脳の認識モードが違う、という仮説があるそうで。
武信 
ああ、ありますよね。透過光と反射光の話。透過光だと受動的にみて、反射光だと批判的に見るという。
__ 
そうそう!そうなんですよ。透過光はパターン認識モード、反射光は詳細分析モードと言われているらしいですね。前者は具象像から図形的認識を展開して、後者は抽象的な意味合いへの分析を行う、とか。
武信 
実は、触覚というのもあると思うんです。表現方法としての映画と演劇の違うというものがあって、映画はやはり視覚オンリーなんですよね。もちろん聴覚もありますけど、視覚が一番重要。生の演劇だと、以外と視覚というのは使っていなくて、どちらかと言うと触覚に近いんです。そこにいる存在を楽しんでいる感じというか。感覚が違うんですよね。映像だとまず触覚はないので。面白い映画って、音を消しても何が起こったか分かる。演劇は目をつぶっても、何かが起こっている雰囲気が感じられる。
__ 
そういえば、そんな感覚はありますね。
武信 
そういう現象が何故起こるのかは分からないですけどね。そこが、触覚と視覚の違いでしょうね。映像化によって消えてしまう触覚の代わりに、何を与えられるかというのが、舞台映像としてのテーマです。

舞台映像という仕事[2]

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舞台は、目を瞑っていても分かる場合がある。それはきっと、こうして顔を合わせて話している時と共通している部分があるのではないでしょうか。映像では、共時的なコミュニケーションは行っていない、はず。遅延的でならありうるでしょうが、ナマでは断じて無い。
武信 
そうなんですよ、何かのコミュニケーションをしているはずなんですよ。映像化の段階で、まあそこは諦めて(笑う)。映像ならではの良さをアピールしていこうと思います。

SP水曜劇場、その思い

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SP水曜劇場の立ち上げの経緯を教えて頂けますでしょうか。
武信 
Ustreamが普及し始めて、演劇だとまず竹崎博人くんが劇場の生中継をやり始めたんです。でも僕はどちらかというと生放送よりは編集したものの放送がやりたかったんですよ。しばらくして、自分達で撮った自主映画の上映会をやった時に、スクリーンに流れている映像を同時にUstにも配信したんですよ。それが結構面白くて。もしかしたらこれ、「日曜洋画劇場」のように見えてるんじゃないかと。こんな番組フォーマットもあるんじゃないかと思ったんです。
__ 
なぜ、そういう番組が必要だと思われたのでしょうか。
武信 
生で見れない状況というのは、どうしても演劇にはあって。それは映画も同じなんです。僕が映画を好きになったのって、TVで映画を見て、こんなに面白いものがあるのかと思ったのが最初ですから。だから、演劇でも同じ事が出来るんちゃうかと。面白い作品はたくさんある訳ですから。
__ 
たしかに、20年ぐらい前なら、何でもテレビから興味を持つのが最初でしたしね。
武信 
東京とか大阪にいるとあんまり意識出来ないんですけど、演劇ってそんなに色々なところで見れないんですよ。でも、興味がある人にそれを見せられるような状況を作りたい。個人ベースで出来るのであれば、そうしたいんです。

触れる機会、その希少さ

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放映する作品のセレクションは、どのようにされているのでしょうか。
武信 
基準とか選定とかは特にしていません。単純に、公演が近くなってきたカンパニーさんから連絡を頂いて、という感じです。「ウチはあまり公演を打たないので、宣伝にしたいんですが」と。最初の頃は、僕が撮影した舞台で、僕が好きなものを放送してたんですけど、最近は依頼が多いですね。基本的には本公演の宣伝ですね。
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何か素敵な基準があるのかなと思っていました。
武信 
やっぱり、作品の面白さを決めるのはお客さんなんですよ。だからランキングを付けたりとかは絶対しないようにしていますね。
__ 
SP水曜劇場をご覧になった方に、どう思ってもらうのが理想ですか?
武信 
世の中にはこんなに面白い演劇がたくさんあるんだ、こんなに面白いのがあるなら自分で探して見に行ってみよう、と思ってもらえたらそれが理想です。楽しい事はいっぱいあるよ、と伝えたい。
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面白いものはいっぱいある。そうですね。
武信 
田舎に住んでいると、演劇に触れる機会なんて単純に少ないんですよ。思っている以上に個人の格差はあるんです。東京大阪に住んでいると「演劇なんて普通にあるでしょ」って思ってしまうけれど・・・
__ 
むしろ少ないくらいだと思っているぐらいですね。
武信 
実は、全く触れる機会のない地域がほとんどなんです。都会に住んでいても仕事や子育てで劇場に行けない事もある。みんなの状況はバラバラなんですけど、観たいと思っている人全員に機会があるのなら、そっちの方が楽しいんですね。オタクの発想ですけど、自分の好きなものが身の回りにいっぱいあると嬉しいんですよ。聖地のように祭り上げておくか、みんなで共有するかだったら、僕はみんなでワイワイした方が面白いし、そうしたいなと。

舞台映像という仕事[3]

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では逆に、映像にしないと伝わらない演劇の魅力って何かありますか?
武信 
まず、物語を解析的に見せるという事でしょうか。「こういう脚本で、この登場人物がこういう出方をしますから、こういう風に思って下さいよ」というような。物語を見せる上での誘導が、映像ならしやすいと思います。
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それってもしかして、メディア化した演劇全てに共通するかもしれませんね。漫画化とか、小説化とか。
武信 
そうですね。とりあえず映像なら、アップにする・引きにする事で、何を強調するかが簡単なんですよね。まあ、それしか出来ないといえば出来ないんですけど。見せたくないものは引くし、見せたいものはアップにする。作家さんが見せたかった物語の運びに寄り添えるんですね。
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ちょっとまとめさせてください。映像に編集すると、クローズアップによって強調が行える。文脈の表現が端的に行える。それが映像の強みだ。という訳で、映像化された演劇では、物語がその比重を占め得ると言える。
武信 
舞台だと、脚本上に書かれたものが疑似的にではあるけれどもそこで起こっているのを楽しむ感じなんですね。わざとらしいかどうかは別にして。これを映像にすると、それは記録なんです。過去に起こった事の記録。記録は物語と結びつきやすいのです。
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過去の記憶を観るという体験。「どういう事が起こったのか?」という過去方向への認識、つまり反芻・総括をする情報処理が発生する。過去のものだから解釈出来るし、価値観を適用出来るし、物語そのものを相手に出来る。確かに、映像だからこそですね。

質問 延命 聡子さんから 武信 貴行さんへ

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前回インタビューさせて頂いた方から、質問を頂いてきております。延命聡子さんからです。「何歳で結婚して、何人子供が欲しいですか?また、それは何%達成しましたか?」
武信 
結婚していて、子供はいます。29歳ちょうどの時に結婚して、子供は一人います。100%達成してますね。

舞台映像という仕事[4]

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舞台を撮影するときに、何に気を付けていますか?
武信 
一番気を付けているのは、僕だけの視点にならないようにしています。物語を出来るだけ理解して、そこから離れないようにしようと注意しています。僕の視点は絶対入っちゃうから、でも、物語を分かりやすくするための視点を常に持つようにしています。
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ありがとうございます。具体的な撮り方で言えばいかがですか?
武信 
例えば、役者さんが移動する時にカメラを強引に移動したりしない事ですね。歩くのに合わせること。「カメラが先に動くな、役者が動くからカメラも動くのだ」、という事ですね。微妙なラインの話ですけど。
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あ、何か分かる気がします。ありがとうございます。いつか、こういう作品の映像を撮りたい、というのはありますか?
武信 
具体的なものはないんですけど、色々な舞台の映像を撮影させていただいているので、基本的には網羅してしまっているというか。でも、これまでのやり方が通用しないような、とんでもないものがやってみたいと言えばやってみたいです。

機会そのものを作るための、いくつかの行動

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今後、どんな感じで攻めて行かれますか?
武信 
SP水曜劇場に関して言えば、あれは継続してなんぼのものだと思っているので、今後10年は続けます。番組を観て、面白いと思ってもらって、劇場に来てもらう為のものですので。まだ3年目、あと7年は続けます。舞台の撮影に関しては、そうですね。ある中堅以上の人たちの、そこそこ物販が見込める場合でないと頼まれない。撮影側も、機材にお金を掛けたい。バジェットの同じぐらいの人たちが段々と固まっていく現象がある。すると若手なんかは機会に恵まれないんです。若い劇団さん達のいい舞台をやっぱり放映したいんですよ。まあ、2000円の若手の舞台って、なかなか行きにくいですから。
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たしかに、それはそうですね。他に予定を入れたかったりしますよね。
武信 
そこをUstだったら解決出来るんですよね。ひたすらクオリティを追求したいというのも分かりますけど。それから、自主制作映画を撮りたいです。映像の人が演劇に興味を持ってもらえるような、その逆に、演劇の人が映像に興味を持ってもらえるような。

新撰 女子算術教科書

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今日はですね、お話を伺えたお礼に、プレゼントがございます。
武信 
ありがとうございます!(開ける)うわあ、何だこれ。
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大正時代の女子生徒向けの算数の教科書のようですね。
武信 
ありがとうございます!古書大好きなので。大切に扱います。
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娘さんもいらっしゃるとの事ですので、ご一緒に楽しんでいただけたら。
(インタビュー終了)