演劇人にインタビュー 頭を下げれば大丈夫

川久保 晴

コメディエンヌ

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行き来してるワタシ

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今日はどうぞ、よろしくお願いします。川久保晴さんにお話を伺います。最近はどんな感じでしょうか。
川久保 
なんかすごく、シリアスとコメディを行き来してます。自分の劇団ではシリアスな作品が多いんですけど、外部に出演する時や、一人芝居をやるときはコメディが多くなるので。でも行き来はめちゃくちゃ楽しいです。なんか、それぞれ全然違う収穫があるので。お互いに還元出来てるといいなと。それと、自分で自由に脚本を書きたいなと言う思いがあって、それで去年のエミィ賞と、今年のINDEPENDENTの一人芝居フェスにも出しました。
___ 
二つを行き来する事で得られる収穫があるんですね。
川久保 
露と枕では、緊張と緩和で言えば緩和の部分を任されることが多いんです。何て言うんだろうな、コメディパートでのお客さんの空気のつかみ方が、私にはものすごく勉強になるんです。
___ 
難しいですよね。自分からつかみに行こうとしても駄目だし・・・
川久保 
そうなんですよ、しっとりした芝居を見に来たお客さんが多いから、ぶっ込んでも「ん?」って思われちゃうし。そこにどう組み込むかを考えています。
___ 
そういうのが面白いんですね?
川久保 
そうなんです!
露と枕

井上瑠菜主宰、早稲田大学演劇研究会を母体として結成。 2018年4月、正式に旗揚げ。 早大劇研史上初、女性主宰のアンサンブル。 「人は、一人では生きていけない。人は、人に依存してはならない」 そんな矛盾した正論を受け入れられない人たちが、必死に人に依存する、壮大で繊細な夢物語を紡いでゆく。(公式サイトより)

あこがれて

川久保 
元々、目立つのが好きで。なるとしたら芸人さんか女優さんかで悩んでいた時期に、阿部サダヲさんの出演作に出会ったんです。ドラマを背負った笑いと言うか、ストーリーの中で生み出していく笑いにめっちゃ惹かれたんです。そこから、ドラマと笑いを両極端に振れる女優を目指しています。もっと言うと、ドラマがちゃんと地盤にある笑いを作りたいです。
___ 
ドラマが下地にある笑いってなんでしょうね。一つには、戯曲によって「思考と意識の作業モデル」がクローンされて、特定のガジェットが作用した時にモデル全体を相対化したときに生まれる反応があると思います。そういう震えとかズレとか。
川久保 
あーめっちゃ深い。こういう話楽しいですよね。
___ 
ちょっと話を戻りたいんですが、コメディエンヌになりたいと思われたのはいつからでしょうか。
川久保 
やっぱり昔から目立つのが好きで。きっかけは分からないんですけど、人を笑かすんが好きで。
___ 
目立つこと、笑かすことが好きだった。そして今は、ドラマが地盤にある笑いを作りたい。
川久保 
はい。阿部サダヲさんは、役とゼロ距離という気がするんです。アドリブで笑いを取る時にすら、阿部サダヲであり、かつその役なんですよね。監督さんによるんですけど、彼なのに彼じゃない感じがめちゃめちゃすごいなと思っていて。カメレオン俳優。阿部サダヲ研究を、大したもんじゃないですけどレポートに書いた事があります。私も自分の役をやるうえで、自分の味を出していきたい。そういうコメディエンヌになりたいです。ひとつの味だけではなく、幅を広げていきたいです。

載せる

___ 
演技について最近考えていることはありますか?
川久保 
人によって全然、響く場所って違うじゃないですか。だから、脚本家さんが書いている事だったり、演出家さんが考えてることだったりを、自分の中で本当にしっかり消化して、自分なりの立ち上げ方を作り上げて、そこに自分を載せたいと思います。何かしらお客さんに影響を受けてほしいじゃないですか、何かもらって帰ってほしいし。劇団かもめんたるに出演した時が、めっちゃ嬉しかったんですけどものすごく大きな挫折でもあって。皆さんものすごくベテランで、私だけ本当に、言ったら素人で。でも私だけの時間とかたくさんあって、大丈夫だとは言われてたんですけど打ち上げの席でう大さんが(一人褒めて女優さんがいて、その人は)「自分の書いたものを再現する役者ではなくて、越えてくる役者がいい」と。自分が書いたものをただ立ち上げる役者って面白くないじゃないですか。それだったら本を直接読めばいい。私もめっちゃそうやなあと思って。一つ体を通して立ち上げるとなった時に、役者がなにか、その人を超える何かを持って行かないといけない。じゃあそれをどうしたら良いのか考えるようになりましたね。再現が上手い役者にはなりたくない。
___ 
どんな職業でも一緒だと思うんですけど、全く一緒の物って作れないじゃないですか。完璧な設計書が一つあったとして、プログラマー10人がそれぞれ同じものを作ったとする。機能は全て揃っているのは当然として、全ての成果物にはその10人の人格や内面が反映されてるんですよね、一長一短もありつつ。
川久保 
そう!
___ 
と言うか、むしろ、その人が反映されていることが、お客さんの満足度よりも重要なことなんじゃないかなと思う。

自分の面白いを否定するという作業

___ 
INDEPENDENT:18 、2次予選通過、おめでとうございます。6月の二次審査、7月の三次審査を経て本戦に出演が決まりましたね。ご自身としてはどんな経験でしたか?
川久保 
やっぱり大きかったのは、2次から3次の間に作品を更新しないといけないという中で、「私は自分の面白いを否定してこなかったんだ、だから自分の笑いが更新されなかったんだ」ということに気づけたことです。
___ 
自分が更新されていないという不安があったということですか?
川久保 
そうです。実は初舞台でも脚本をしていたんですが、また自分で何か書こうとしても以前と同じことを思いついてしまう。そういう既視感を人に言われた時に、うわってなるんですよ。脚本家さんて、自分の既視感と戦うじゃないですか。それをいかに塗り替えて、違うものを産み出していくのかという。
___ 
自分の既視感と戦うと。
川久保 
そういう意識がないと、絶対磨かれていかないし、って思って。ホンマに、自分がいかに狭い場所にいたかって・・・自分の引き出しの少なさというか。私の作品にしても、一人芝居で複数人をやるというのが新しいと思ってたんです。でもそれは全然珍しくなくて、でも、やり方や演出を変えれば一つ、真新しさが出ると思うんですよ。で、私は演出というのをしてないと思ったんですよ。これまで役者をやってきましたけど、作品を書いたり演出をつけたりする部分にも、挑戦していきたいなって思います。そうすれば引き出しも自然と多くなるのかも。
___ 
作演の力を磨くにはどうすればいいんでしょうね。
川久保 
やっぱりとりあえずはインプットですよね。いいものを見るのはもちろんですけど、面白くないものを見たときにもなぜ面白くなかったのかを考えて、自分に重ねたり。
About "INDEPENDENT"

15年以上の歴史をもつ最強の一人芝居フェスティバル コンセプチュアルな劇場プロデュースとアグレッシブな活動で全国から注目を集める大阪インディペンデントシアターを拠点に、2001年から毎年11月に開催している「最強の一人芝居フェスティバル=INDEPENDENT」。(公式サイトより)

最強の一人芝居フェスティバル INDEPENDENT:18

[日時]11/22(木)~25(日) [会場]in→dependent theatre 2nd (出演者等は公式サイトをご覧ください。)

的の話

___ 
引き出しを広げるという話だったら、中村こず恵さんに取材した時に伺ったんですが、親になってからそれまでの役者生活とは全然違う人脈ができて、それがものすごく刺激を与えてくれたと。
川久保 
あー、なるほどな。バイト先とかの別のコミュニティからもらうものってあるなあと思っています。早稲田の演劇研究会の新人の時にカンヅメで稽古してたんですけど、それから初めて外部に出演した時にフワァッと世界が広がって。ホームも大事なんですけど、外部も大切にしたいし、それらとはまた別に自分だけのやりたいことをやる世界も持ちたいです。行き来を大切にしたいですね。お笑いも、なまなかな姿勢ではできないですけど、挑戦した時に何が出来なかったのかとか、
___ 
吸収して、考えて、仮説を立ててテストして。
川久保 
そう、そうなんですよね。試さないといけない。
___ 
作って自分で評価するのではテストにはならない。他の人に必ず見てもらわないといけない。内部や過程を知らない人が見るからこそ生まれる初見性、未読性。そこに仮説をぶつけるからこそのテストなんですよね。
川久保 
ちょっと話が違うかもしれないんですが、かもめんたるさんに出た時に、役柄を演じるとき、その役の正解を見つけようとしてたんですよ。どうしたらその通りになるんだろうと思ってたんです。その時にヨーロッパ企画の石田さんが「晴ちゃんはその的の中心を狙おうとしすぎで、それだとその役の一部しか見えてこない、そりゃそうだ。そうじゃなくて、あえて中心を外してみるんだよ」と言われたんですよ。絶対違うやろうっというギリギリを探す。この役が絶対にやらないであろうことを試していくと、「これは違うんや」というのが分かってくる。中心しか狙わない場合よりも、外側からギリギリの幅を探していくと。めっちゃ面白いなと思ったんです。いままでそういう実験の仕方はしてきてこなくて。演劇って、人一人の描写が2時間に収まるわけないじゃないですか。だから2時間以上のものを見せないといけない。するとその人の一面だけ見せたのではダメで。それが役の幅だと思うんですよ。役に幅をつけるという実験作業を、稽古でするべきだと思うようになりました。
___ 
その「役の幅」って、実際には演技の取捨選択の過程に過ぎないんですけど、でもその厚みというものはお客さんに伝わるんですよね。
川久保 
あー、そうなんですよね。凄い役者さんの演技って、世界がちゃんとあると言うか、生きてる!と思うんですよね。
___ 
外側から埋める、か。
川久保 
もう本当に、石田さんにお世話になりました。あの的の話は一生忘れないと思います。そのころ、範疇に収まりかけてて。脚本とか、演出さんの言うことをコピーするだけの自分になりかけてた自分に気づきました。ああそうか、超えていかないといけないんだ。
___ 
危なかったですね。
川久保 
ひとつずつの舞台で大きなものを得てきていると思います。

質問 地道 元春さんから 川久保 晴さんへ

___ 
前回インタビューさせていただいた、劇団子供鉅人の、最近劇団員になった、地道元春さんから質問です。
川久保 
えっ!子供鉅人さん、めっちゃ好きです。
___ 
「武士道についてどう思いますか?」地道くんは武士道を大切にしたいと言ってますね。
川久保 
難しい。えー。
___ 
命よりも愛や道を大切にする思想だと個人的には思ってます。
川久保 
ロマンですね。うーん、えー・・・難しいですね・・・。

これから

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今後、どんな感じで攻めていかれますか?
川久保 
自分がまだ踏んでいない芝生を踏んで行きたいと思っています。私が入っている露と枕って、同期が主宰なんですよ。でも外部だと基本的に皆さん先輩で。上の人から貰うものと、上の立場でやるものと、自分が主宰でやるものと。色々な行き来の中で色々と自分の味を広げていきたいです。阿部サダヲさんみたいに、カメレオンなのに自分であり続けるというのは幅がないとできないと思うんです。違う自分の色を持ちたいです。私らしいと思っている私と、私らしくない私。を取り込んでいきたいと思っています。

ドライフルーツ

___ 
今日はお話を伺いたお礼にプレゼントを持って参りました。
川久保 
えっ!
___ 
どうぞ。
川久保 
ありがとうございます。何ですか。
___ 
ドライフルーツです。
川久保 
嬉しい!私めっちゃドライフルーツ好きなんですよ。
(インタビュー終了)