中西さんの最近
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。最近中西さんはどんな感じでしょうか。
- 中西
- 最近は、そうですね、大学の卒業研究をやっています。卒業がそろそろ近いので。それとバイトです。コンピュータ関連のバイトをしてます。
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- 演劇関係はどんな感じですか。
- 中西
- 全然ですね。今年出来るかどうかわからないです。
喀血劇場第11幕『10年後の8月も何も言えなくて、夏』

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- 最後に出演したのは、去年末に喀血劇場の「10年後の8月も何も言えなくて、夏」でしたね。いかがでしたか。
- 中西
- 自分としては、もっとやれたなあ、というのがあります。喀血劇場で求められている事はある程度分かっている気でいるんですけど...。
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- 中西さんに求められていること。
- 中西
- 温度を上げていくということと、芝居をしっかりやりすぎないようにということだと思っています。唐仁原の芝居では、ちゃんとやりすぎて温度が下がってしまうのは望ましくないと思っていて。いたずらに間が空きすぎないようにというのは意識しています。まあ、唐仁原からはあんまり明示的に言われていないですけど。
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- 何て彼らしい演出なんだろう。そして中西さんは、喀血ではテンションが下がっていくんですか?
- 中西
- いや、その逆でいたいんですけど。芝居全体を通して上がったままの状態でいてほしいということだと思います。
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- 「10年後の8月も何も言えなくて、夏」。お話としては、大学生が10年ぶりに田舎に帰ってきて、ラブコメを繰り広げ、けれどいつの間にか結局、恋愛関係のない仲間というか共同体に落ち着いてしまうという・・・いいか悪いかはともかく、彼らにはそれがお似合いだと思ったんです。その関係は素敵だなあ、と思いました。
- 中西
- 自分の中では、もやっとして終わりましたね。地元に残った連中はどう生きていくんだろうとか。基本的にはあのまま楽しく生きていくような気もするんですけど、どこにも行けなさみたいなものがずっと付きまとってくるんだろうなと。ずっと同じ場所をぐるぐる回っているのかもしれない。
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- 円形劇場でしたからね。そして様々なチープな仕掛けが魅力的でした。ファミポートを模したダンボールのやつとか、流れ星とか。
- 中西
- ダンボールだし塗装も雑だし。
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- そういう味わいが喀血劇場の味でしたね
- 中西
- そうかもしれないですね。
喀血劇場第11幕『10年後の8月も何も言えなくて、夏』
公演時期:2016/9/3~4(岩手)、2016/10/14~17(京都)。会場:西和賀町文化創造館 銀河ホール (岩手)、京都大学吉田寮食堂(京都)。
これからどうするのさ
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- 中西さんは、役者活動をこれからどう続けていきますか?
- 中西
- ガッチリ続けていくという感じじゃなくて、こういう言い方はちょっと違うかもしれないですけど、生きていく中でいろいろ楽しいことのひとつ、が僕にとっての芝居で。ずっとゆるく続けられたらなと思っています。
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- そうですね。同じ意見です。
- 中西
- 趣味というのともちょっと違うんですけど。趣味って言うと不可欠なことじゃない、みたいなニュアンスがあるじゃないですか。そうじゃなくて、もっと生きていく上で本質的なことだと思ってます。芝居だけじゃなくて、他の活動も全部同じところにあるんですけど。
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- 確かに私もインタビューの仕事を趣味でやってるわけではないです。中西さんにとって、役者活動を続ける、とはどういうことですか?
- 中西
- 芝居をやっていなかったら、普通になってしまう気がする。いや、難しいな。芝居が生活に組み込まれている。普段、きちんと生活したいと思ってるんですけど、その生活の中に芝居があるっていうことなんだと思います。芝居ができていないって、ちゃんと生活できていないということなんだと。
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- 生活の一部。
- 中西
- 自分にとっての生活は、芝居をするのも食事をするのも、ご飯作るのも本を読むのもプログラム書くのも全部同じところにあると思えていて。後はまぁ人と会えるというのは大きいです。
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- 私にとっての、「読書」とちょっと同じかもしれない。ないとちょっと困るんですよね、本だけは。
- 中西
- あーそうですね。そういうことだと思います。
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- かけがえのないと言うか、ないと困ると言うか。意地で続けているわけではなくて。
リスペクトしている演劇

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- 中西さんが演劇を始めたのはどんな経緯があったんですか?
- 中西
- 大学一回生の頃に、吉田寮祭で唐仁原に会い、芝居に出てみようと思って。そこではほとんど真面目に稽古をしなくて、ベロベロに酔っ払いながら舞台に立ったりもして。次の吉田寮祭でも唐仁原と一緒にやったんですが、最初の出演作からは考えられないくらい真面目に芝居を作って。その時に、舞台に立つのって面白いなと思って、ベビー・ピーの根本さんに声をかけてもらって。そこから少しずつ、出るようになりました。
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- 芝居を始めた頃にご覧になった、衝撃を受けた作品はありますか?
- 中西
- どくんごはやっぱり凄かったですね。最初はよく分からなかったんですけど、後から凄い、というのがどんどん湧いてきて。劇の広がり方が普通じゃない。ベビーピーもすごかったです。最初に見たのは七福神。めっちゃすごいなと思ったのは、飛び道具の「七刑人」。
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- ああ!
- 中西
- あの芝居は全然喋らないのに、場の緊張感が普通じゃなくて。間がただの間じゃない。芝居って喋らなくてもあんなに見せられるんだなと。あんなに抑えているのに。
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- そうですね、沈黙で語る芝居でした。
いつかみる世界

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- 大学での専門分野について教えてください。
- 中西
- 理論生物です。ミクロな生体分子についてのシミュレーションです。生物自体、ミクロなレベルでも物理法則に従って作られている・保たれているはずなんですけど、それを物理の言葉で説明したいというのが研究室の大きなモチベーションみたいです。
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- それは、細胞の内と外が浸透圧でどうなるこうなるみたいなレベルですか?
- 中西
- もっと細かいです。原子レベルですね。適当な力場を仮定して、そこでの振る舞いを調べるみたいなことです。
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- ちょっとアリストテレスっぽいですよね。生物のミクロにおいて一体何が最初にそれを動かしたのかみたいな。
- 中西
- むしろ逆かもしれないですね。ただ物理法則に従うことで、機能と呼ばれるものが生じる。機能が前提とはなってなくて、導かれる対象だと思っています。
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- 中西さんはそういうところに興味があるんですね。
- 中西
- 実は、僕の興味は研究室のテーマとは少し違う所にあって。脳のことをやりたいと思ってます。意識とか知覚を数理的に解釈したいと思っています。もっと根本的なモチベーションとしては・・・ちょっと飛ぶんですけど、人が死なないようになればいいと思っています。死はただただ悲劇でしかないと思っているので。別に今の現実世界に縛られるような形で生き続けるというわけではなくて...もし、脳が完全に説明できるようになったとしたら、新しい生き方とか在り方っていうものが考えられると思っています。たとえば、コンピュータの中で生きる「人間」みたいな。全然、自分の生きているうちは無理な話ですけど。
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- ヨーロッパ企画の「来てけつかるべき新世界」で、まさにそれが話に出てきていました。スパコンの中に一瞬で人格をコピーできてしまって、大きなパソコンとともに生活していかなくてはならなくなる。
- 中西
- グレッグ・イーガンというSF作家がオーストラリアにいるんですが、そういう問題についての作品を多く発表しているんです。そしてやっぱり最終的には「自己・意識とは何か」という問いに辿り着くんですよね。
質問 岡本 昌也さんから 中西 良友さんへ
熱量
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- 中西さんは、今後、どんな感じの芝居をやってみたいとかありますか。
- 中西
- 肉体に負荷がかかる芝居をやりたいと思っています。
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- 喀血劇場は、名前に反して、確かにそんなに熱量はないですね。
- 中西
- 喀血の舞台に立つ役者には、ある程度ゆるく立ってもらいたいというのが唐仁原にはあるみたいです。
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- 何か、役者のライブ感があるんですよね。その場その場の判断で役者が喋っているような。台詞って感じじゃなくてね。
- 中西
- それ、唐仁原が喜ぶと思います。
究極の書き割役者

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- いつか、どんな演技ができるようになりたいですか?
- 中西
- 舞台上でただいる人、みたいなのがやりたい。存在感とか、別になくて。ただいるだけの人。でもそこに違和感はないみたいな。
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- 違和感が完全にないと言うのは少し難しいですね。
- 中西
- そういう役者は、実は稀有なんじゃないか、という気がしていて。
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- まあ大抵の人は存在感がありますからね。
- 中西
- 全然、自分の方向とは違うと思いますけど。
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- なぜそのように思われるのですか?
- 中西
- 「あの人が一番良かった」みたいなことって感想で結構よく書かれるじゃないですか。でも、発覚しないだけで裏ですごいことをしてる人がいる。ちゃんと見ていないと分からないし、見ていても分からないことがある。そういう人がいいなあと思います。
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- わかります。喋っていない、目がいかない役者。その人は実は、舞台を支えるための高度な仕事をしている。
- 中西
- その人のおかげで風景が立ち上がってくるみたいな事は絶対あると思ってます。
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- ありますね。
- 中西
- それをちゃんとこなせるように。
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- 風景に近い役者、という事ですか。
- 中西
- まあ結局のところ芝居全体が良ければいいと思っています。
穏やかな戦い
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか。
- 中西
- 攻めるとか、あんまりないですね。楽しくやっていきたいと思います。あと、漠然とした不安感に負けないようにしたいなと思ってます。
生命倫理ハンドブック

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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 中西
- ありがとうございます。
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- これで研究の方向性が変わったらすみません。